この試合に興味と関心を持って戴いて、且つ、関東地区近辺の人で、試合会場である後楽園ホールに足を運んでもらえれば嬉しいなと、私としては珍しいくらい、試合当日まで、何回も一部修正しつつ、このルポのアップを繰り返し、載せた。
メインでも、セミ・ファイナルでもない、この試合を、なぜ?と思われるかも。
日本全国に、2641人いる、プロボクサーに共通し、共感できる、何か!? が、この試合のケースを通じて、浮き上がって見えてくるのではないか?
そう、予感したから。
むろん、セミで行なわれた、日本ミドル級タイトルマッチも、ほぼ同様ではあるが、この試合は、究極、強さの優劣が争われた試合となり、予測した通りになった。
結果は、検索すれば容易にわかるし、その類いの報道で書かれていないことを、いずれ、書き表そうと思っている。また、試合の行われた深夜、地上波で流された地域もあり、タイマー録画にせよ、この目で見た人も、いることと思う。
さて、表題の、この試合。フジテレビのVTRカメラは、コーナー・ポストにくくりつけられて回っていたが、1秒たりとも、放送されることはなかった。試合後、カメラマンが、リングに入ってまで撮っていたというのに・・・・・。戦った両者にとっては、至極残念なことだろう。
余談だが、その点、「日テレG+」の「ダイナミックグローブ スペシャル」と題された番組は、良い! 第一試合の4回戦からメインまで、全てノーカットで、ナマ放送される。
帝拳ジム所属選手中心の試合ではあるものの、再放送では、アタマにメインを持ってくるなど、構成は変えるが、基本ノーカット。その回数も、多い。
そのディレクターに、聞いたことがある。
今、試合をやっているというのに、CS「フジテレビNEXT ライブ・プレミアム」の「LIVE! ダイヤモンドグローブ 2013」 では、毎度毎度、千原ジュニア、内藤大助、重田玲ら、くっだらないレギュラー陣のしゃべりを、だらだらと流す。で、この日も、せっかくの放送時間を49分つぶした。肝心の試合は、数試合分、撮っても流さない。
さらに、「試合が、早く終了しましたので」と、テロップを流して、これまた愚にもつかない番組を30分、放送時間枠一杯にタレ流した。CSのフジの、いつもあのやり方って、どう思われます?
ディレクター、言い淀んで、苦笑いを浮かべる。
「まあ、それ、あまり見てないんで・・・・同業者なんで、言いにくいなあ・・・」
では、こう聞きましょう。少なくとも、来たくとも来れない地方にいるボクシングファンと、試合をしているプロボクサーの気持ちを無視し、ボクサーと、ボクシングファンのことを全く考えていない番組作りだと、同業者として、お思いになりませんか?
「まあ、ハイ、確かに・・・・・」
さて、すでに書いた(打った)文の最後を、私は、こう締めくくった。
ーーーとはいえ、ボクシングは思いもよらぬ結果と、番狂わせが付き物。ソレを秘かに期待して、ファンは、会場へと足を運ぶ。
一場には、いささか失礼な、遠回しの表現だったが、なんと、その通りの展開となった!
この日の会場は、チョ~満員。当日券も出たが、即売り切れ。チケット完売となった。
「今年に入って、初めてですよ」
顔なじみになった、会場係員が、笑顔で教えてくれた。
残念ながら、<山元浩嗣 対 一場仁志> という好カードのせいばかりじゃ、なかった。
「ココにまで来てくれて、お金を出して試合を見て下さる今のお客さんは、シビアというか。去年くらいから、1つのタイトルマッチじゃ、満員にならない。2つか、3つ揃わないと、満足した顔してないし、お客さん、満員にならなくなりましたねえ」
係員が、一番、”厳実”を、知っている。この日は、ダブル 日本タイトルマッチだった。
時の流れか、テレビ局も、ダブル、はたまた、トリプルの世界タイトルマッチをジム側に依頼し、「それで、やっと上の許可を得て番組編成にかかれる」(民放プロデューサー)とのこと。。
それでも、高視聴率を取れないとなげき、喘いでいる。だから、”スター”を作ろうと、大金使って、いろいろと、首を傾げるような相手を探してきてのマッチメイクを画策している。まさに「メイク」、文字通り、「作っている」。作らざるを、得ない時代。
かつて、ファイティング原田や、海老原博幸(故人)などは、1週間から10日に1度、試合をして客が呼べた。キック・ボクシングでは、沢村忠。だが、そんな時代は、遠い昔。
そのファイティング原田に、生前アメリカで会ったマリリン・モンローとの一夜の事を質問した時、ニッコリ笑顔で、「ああ、マリリンちゃんねえ」と、切り出したときには、ぶっ飛んだ。
さて、この試合に、話しを戻そう。ノーランカーの一場仁志が、通路から小林生人(いくと)と、田中栄民(よしたみ)両トレーナーに挟まれながら登場した時、思わずドキリとした。
一場の目が、尋常じゃなかったのだ。思い詰めたかの様な、この試合、死んでも絶対勝つ! という視線の鋭さ(写真下・中央)。その先を見据えての揺るぎが、まったく無かった
目は、クチほどにモノを言う、という言い方があるが、まさにソレ!
ひょつとして、この試合! ある、予感が、ゾクッと、体を走り抜けた。
かたや、山元浩嗣。自分の名前が大きく染め抜かれた紺色のノボリの並ぶ列の中、華麗にリング・イン。
たんたんと、いつもと変わること無し。大きな花束を受け取り、右から左下へ返す。
予定時刻より早い、18時45分。
< 1ラウンド >の、ゴングが鳴った!
先に積極的に振ってきたのは、山元。右の大きなフック、大振り。右ボディ狙う。
赤コーナーで、山元のトレーナー、高橋智明(ともあき)が、叫ぶ!
「手数、気を付けて打ってけよ!」
しかし、手数が早くも多いのは、山元の方。いくぶん、気負ってるようにも、見える。右ボディ、左フック、そして、また返しの右ボディ!
その時だ!一場が、狙い澄ましたかの様な連打から、右フックがうなりをあげた!
山元、ダウン! ええっ! 正直、驚いた。山元、すぐ、立ち上がる。ダメージは、見た目ほどは、無い・・・ように見える。
一場の応援団が、ワ~ッと、大歓声を挙げた。へ~、そんなに人数いたんだ、と少し驚く。
「強振しないで!」 と、高橋トレーナーの指示が飛ぶ。
1ラウンド、終了。驚きの滑り出しに、双方の応援団だけじゃなく、満員に膨れ上がった客席も沸きに沸いた。
図式通りでくくれば、6位のランキング・ボクサーと、そこまでに至っていないボクサー。キャリアも、ほぼ倍近く、違う。勝敗は、ほぼ決まり、と見がち。しかし、・・・・・
この日の、入場者数、1924人。2階左右に作られたベランダ風の立見席。ジム関係者やファンのカメラマンが記録用に撮る人や、観客も、含めてだ。これが、ホントは正しい数字。
ん?と、プロレスのファンなら、首を傾げるかも。東京スポ―ツには、2200人(満員札止め)とか、毎回の様に載ってるから。
ただし、(主催者発表)と、キチンと添え書きが、してある。あくまで、主催者がそう発表してますよ。興行収入に関わる税金問題とかは、ワシャ知らんもんね、という冷静沈着なスタンス。
ところが、とっちゃん坊やみたいな風貌の、童顔の朝日新聞記者がいた。
コレが、自ら一度も調べていないのだろう。夕刊の署名コラムの プロレス・格闘技記事で、平気で「2200人の観客」と、何回も書いてた。もはや、記者ではなく、中身の文章も、ただのファン。そういう愚か者もいる。そのノリで、ボクシング取材も、一丁前の顔して、していたのには驚いた。
もっとも、朝日新聞記者の中には、東電の3・11「未必の故意 福島第一原発 水素爆発事件」から間もない「本店」での記者会見で、「未曾有」を、「みぞうゆう」の事故をと、平気でクチにして質問した馬鹿もおり、記者の質の低下は、目を覆うばかりだ。
調べたら、クチのひん曲がった麻生太郎の息子や隠し子では、無かったが・・・。
さて、< 2ラウンド >の開始を告げるゴングが、鳴った。
どちらのセコンド陣も、選手に何やらアドバイスを授けていた。早くもダウンにより、10-8か、減点2のハンディを背負った山元は、どう出てくるか?
先に拳を当てたのは、一場。左フックを山元に見舞う。すぐさま放った双方ジャブの、相打ち。
一場の左フックに対抗して、またも、右ボデイ打ちで一場のボディ左側深くにパンチをめり込ませる。しかもコレ、試合終わるまで、何度も何度も狙い打ち! 作戦か?
「左だけでいい!」と、高橋トレーナー。
山元のパンチ、大振り、空振り、頻発。1ラウンドのダウン2点分、一秒でも早く挽回したいという思いが、そうさせてしまうのか・・・
「大丈夫、大丈夫、あせるな!」と、高橋。
逆に一場のコーナーポストからは、大きな声、指示、まったく飛ばず。
一場の、小さく鋭いシャープな左右のジャブ連打。瞬時に、また放った左で、山元の体が、グラッ!
手数だけは、圧倒的に山元の方が多い。一場は、しっかり両グローブで両肘高く、顔をガード。
そして、グローブの間からのぞく目! 獲物を狙うかの様で、ぞっとするほど恐い。数少ないが、的確に狙い定めて、パンチを山元の身体に打ち込む。そのヒット確率、かなり山元より高い。
倒したり、山元をぐらつかせるパンチに限っては、加藤善孝とのスパーリングの時と段違い! 前傾からの体重移動が、スムーズで素晴らしく、拳に見事に乗り移っている。
勝ちたい!!という、魂までも!
そして、決して軽やかではないが、山元と同様、足を使い、体を前後、左右に無駄なく振って、山元の5発に2発ぐらいの数のパンチを、ひょいと、かわしている。
見切れてる!? オイオイ、マジかよ。これ、ひょつとして・・・・・
むろん、山元のクセとも言うべき、大振り左右のフックは、殆んど喰いもしない。
取材後から試合までのたった半月で、相当自分を追い込んで練習し、パンチの強弱を付けたコンビネーションも完成させたと、見るほかない。また、山元のクセや、パンチの変幻自在のパターンの対策も、驚くほど成されていそうだ。
それよりも、何よりも、相手に向かう「気持ち」が、ガラリと一変していた。
「気持ちがねえ、弱いんだよねえ。いいモノは、持っているんだよ」 そう言っていた、田中栄民トレーナーの言葉が、試合を見ながら、甦ってきた。
その「気持ち」が変われば、との思い。その上で、いいモノが、試合に出れば今までと違うぞ、との、師の想い。
そして、変わっていた! これほどまでに!? と、ビックリしながら、リングを見つめた。
山元の左ジャブ、続く左ストレート、ヒット! まだまだ、強打、随所にのぞく。 強い! 6位の看板は、ダテじゃない。
一場も、小さくシャープな、左右のジャブをヒットさせる。2ラウンド、終了。
大きなリード差は見られないが、2人の試合中の心境を推し測って見ても、一場のマイペースが、キラリ一筋、リングから光って見える。
< 3ラウンド >
上気してか、打たれた影響か、出てきた一場の顔が赤い。
山元、またも右ボデイパンチ、続いて左フック。対する一場、小さく、右フックの早いダブル 。お互い、打ち終わりを狙うなど、上手さも光る。
と、思ったら、ふらつく感じで、山元、右の大振り。単なるバランス崩してのパンチならば分かるが、妙に気になるのが、山元の体全体の色艶の無さ。スパーリングや、練習の時の見栄えと、全然違う。ゴングが鳴る前から、気になっていた。減量の失敗?? まさか!
パンチも、浮き出す。気のせい?なら、良いが。
「調整の失敗? ないない」と、試合後の、山元。高橋トレーナーも、試合前「いつもより、絶好調の仕上がりです」と、言っていたのを信じたい、のだが・・・・・
接近戦の流れで、頭がぶつかったのか、いきなり一場の「左側頭部」から、大量の血が、ど~っと流れ出した。
「集中しろ!」と、高橋トレーナーの声が飛ぶ。血を気にせず、集中しろということか。
山元は、左フック。ひるむことなく、一場もフックで応酬。
左の顔全体が、鮮血で覆われる一場。
見かねたレフェリーが、ストップかけ、一場をリング・ドクターの元へ呼ぶ。
ドクターは、一場の血をぬぐい、傷の大きさと深さを見る。まだ大丈夫との判断が下され、試合再開。
それでも、一場のこの目!(写真左の右側)。その奥に、”魂”を見た。決して、大げさじゃ無く。
山元、荒っぽい打ち方に、変わる。もはや、乱打乱打! 一気にたたみかけて、勝負を決めてしまいたい、そういう気持ちの表れか?
一場の流血、さらに、ひどくなる。左目にも血が流れ込み、見にくくなっているのではないか?
あっ! 山元も、右目の上を切る。血が流れ、打ち合うたびに、互いの血が、飛び散り、胸板に貼りつく。さながら、かつてのプロレス、流血戦。
ますます、一場の顔半分が血だらけに。
どちらも、リング・ドクターに呼ばれる。 が、試合は、続行された。
超満員の観客どよめき、ざわざわするなか、ようやく、3ラウンド、終了のゴングが鳴る。
場内にアナウンスが、流れる。
「両選手の傷は、どちらも偶然のバッティングに、よるものです」
「バッティング」とは、改めて言うまでもないが、「頭と頭のぶつかること」と、日本ボクシング・コミッションのホームページの中の「基礎知識」の項にある。
どちらにも、減点されない、カウントされない。そういうことだ。
この試合の設定は、8ラウンド。双方の傷により、半分のラウンド以内、つまり4ラウンド終了までにレフェリーが選手生命と今後のことを考慮したうえで、試合をストップした場合、選手の負傷を理由に、試合結果は、引き分け、ドローとなる。
6(ラウンド)なら、3。 10なら、5。 12なら、6終了までにということ。
時折り、後楽園ホールで、見かけられる光景だ。ドローを下された両選手とも、タオルを傷跡に巻いたり、押さえたりしながら、ガックリ、首を落として下がってゆく姿を見るにつけ、砂を噛むような、何とも言えない気分になる。
この試合、5ラウンドを、1秒でも超えると、ジャッジは成立。5ラウンド途中までの採点で、勝敗は、「負傷判定」という形で裁定される。満点ならば、50点ということだ。
この試合は、この先、どんな展開と、結末を迎えるのだろうか!?
そんな詳しいことを知らない観客にしても、2人の傷と、勝敗の行方を気にしつつ見守っていた。
レフェリーの想いと判断1つに、かかっているなか、両陣営のセコンドと、当の2選手の思惑と、心理と、駆け引きと、作戦と。
一気に叩きのめすことが出来ればいいが、逆に相手の流血と傷が広がったら・・・・・。次の4ラウンドの中で、レフェリーが大きく腕を左右に振ったら、即刻、オシマイ。この数か月の、厳しく、苦しい練習が、一瞬にして気泡に帰すことになる。
その練習を、短い期間と時間ではあるが、つぶさに見てきた身にとっては、それで「引き分け」は、辛い。5ラウンド以降での採点による引き分けなら、まだしも・・・・。
う~ん・・・・微妙、う~ん・・・・・・・・・。
< 4ラウンド >
そんな想いを断ち切るように 、カ~ン! とゴングが鳴り響いた。
両者、パンチを繰り出していくと、たちまち流血が目に流れ着く。一場に至っては、吹き出る感じだ。山元の右フックが、一場にヒット! グラりと、一場の身体が、したたる血と共に揺れた。
両者、初のクリンチ。あせりと、疲れと、今までのダメージの蓄積ゆえか。
レフェリー、一場を呼んで、リング・ドクターの元へ連れてゆく。これで3度目。ああ、これで、試合続行不・・・・と思いきや、なんと、試合再開に!
んん・・・・このレフェリー、なかなか、やるわいと、ココロでニンマリ。ほっとする気持ちと、半々。
一場、甦ったかのように右フック一発! 今度は、山元、グラリ。
一進一退、そう見えなくもないが、的確性と、1ラウンドのノックダウンを、明白に盛り返せていない山元。
番狂わせ、そう言ったら失礼だが、一場、リードを保ったままと見た。
とはいえ、< 5ラウンド >に、なんとか突入! いつ、試合が止められるか、危険性をはらみながら。
一場、右フック! この、パンチ。渾身のチカラを込めて、そう表現してもいいくらいの、まさに「決定打」的パワーを、持っている。
クリンチ、また、クリンチ。双方から出る。
一場、苦しげな顔をチラリ見せた時、タイミング良く、見かねたレフェリー、割って入って、一場、4度目のドクター診察。
・・・・・・・・・ああ、レフェリー、腕、振った!
「一場選手の左側頭部の傷が、これ以上の試合続行は不可能と判断し・・・」
時、5ラウンド開始して、50秒。次いで5ラウンドの、ここまでの採点で勝敗を「負傷判定」として認定すると、アナウンスされた。
どよめく、ぎっしり満員の客席。
リング・アナウンサーから、少しの間ののち、スコアが、読み上げられた。
「48-47。 48-46。 そして、49-47」
3-0だ。獲ったな。そう、心でつぶやいた。山元には、悪いが・・・
「勝者! 青コーナー、一場仁志!」
その瞬間、一場は、声にならない心で叫んで、リングに膝まづき、突っ伏した(写真・左下)。
「想い」が、伝わってきた・・・・
回されるVTR。放送されそうも無いのに。うながされ、立ち上がった一場は、小林トレーナー(写真上の白い帽子)に、幼な子のように抱きつき、喜びを爆発させた。
静かに、リングを降りる山元。
控室の通路では、小林トレーナーに、巻いていたバンテージを切り除いてもらっている一場が、いた。陣営の緊急止血が上手くいったのか、流血量ほど傷がひどくなかったのか、時折り笑顔を見せて、お祝いと激励の言葉に次々と答えている一場。
頭に巻いていたタオルまで、取り去っていた。
ー傷は?
「思ったより、ひどくないみたいで」
「目が、見えずらかったですね。(レフェリーに)何度か止められて、危ないな、とは思ってました」
ー相手の、あの大振りの左右のフックがくることは? 見切ってるように、見えたけど?
「あれは、最初から来るだろうなと、分かっていました。小林さんと話しあって、体振って、よけながら、パンチ出していって、きっと後半、相手はあの大振り重ねて、疲れてくるはずだ、と。そこから、後半勝負だと、教えて戴いて。そのつもりでいました」
-それが、1ラウンド、あれは右フック? 練習重ねていた?
「はい。相手が、バランス、悪かったので、カウンター、狙って」
言いながら、時折り、笑みが浮かぶ。
-5ラウンドで止められた時、自分ではリードしてるかな?と
「う~ん、ダウン取ったこともあったし・・・・」
ーこれで、おそらくランキング入り?
「ハイッ! そうなると、いいですね」
もう、医務室へ行かねばならないので、ここで止めた。
近くで、一場が所属する角海老宝石ジムの幹部が、「ラッキー、ラッキー」と喜んでいた。
田中”師匠”トレーナーに、「作戦通りでしたか?」と、水を向けると、ニヤッ。
一方の、山元。多忙の歌手活動のスケジュールの中を縫って駆けつけた山川豊など、10人近くのワタナベジムのスタッフや選手が見守るなか、うなだれたまま、やはりバンテージを取ってもらっていた。
聞きずらい雰囲気の中、う~ん・・・・・・・あえて空気を読まず、切り裂くかの様に、質問。
ー1ラウンドのダウンは、相手の右フックで?
「・・・・・そうですね。踏み込んできて、右フックに、かぶさるようにして・・・」
「調子は悪くなかったですよ。結果は・・・・プロが、判定してるんで・・・・・。勝ったとは、おも・・・・・・」
あとは、言葉にならず・・・・・・・。紫色のタオルをかけて、医務室へ(写真・左上)。山元のスパーリング・メイトといっていい、天笠尚(あまがさ・ひさし。日本フェザー級チャンピオン)も観戦に駆け付け、通路に立つが、あえて山元に、目線は送っても、声かけず。
ボクサー同士に通い合う心と、さりげない気遣い。
高橋トレーナーは、言う。
「2-1かな? 悪くても、ドローだと思ってましたけれど・・・。試合は、結果が全て。指導していた、トレーナーの私の責任です」
誠実このうえない、高橋らしい言葉に、それ以上は聞けなかった。
2時間半後、少し元気を取り戻した、山元がいた。また、ランキングを上下するエレベーターに乗り込む客となってしまった。笑顔は、ない。
「ランキング? もう、東洋太平洋なんて、いらないっすよ。また、一から、やり直しっすね」
それより前。帰ろうとした一場に遭遇した。
お疲れさまでした。おめでとう、という私に、一場は、こうキッパリ、言い切った。
「実は・・・聴いて、もらえますか? ボク、この試合に賭けてました!!」
ああ・・・・やっぱり!