各地区ごとの地方大会予選から勝ち上がり、甲子園球場でその集大成とも言うべき実力を、炎天下のもと発揮する、夏の大会。
夏ほどではないが、センバツはセンバツなりに、プロ野球球団の各スカウトの目が、光っている。
そして、各高校の野球部関係者の査定によって、これまた、まさにセンバツされて入学してきた「特待生」たち。
今大会でも、スカウト以上に、高校内部から、「査定」を受け続けている。
厚遇が、成績不振が理由で、削られ、取り消されることは、日常茶飯事だ。
ノートや、関係文書を、校名、名前などを一切出さないことを条件に何校もの人たちに、こっそり見せてもらったことがある。
大きく分けて、A,B,Cのランク別に記載されてあった。
なおかつ、A1、A2,A3.B1,B2,B3.Cと、さらに細かく分類。
入学金、もろもろの入学に当たっての諸経費(後援会費含む)、授業料、寮・合宿費などが、すでに入学時に、個々の選手がランク別に、細かく振り分けられる。
「この子はね、もう、最初からA1だったね。全部、免除。早い話しが、身一つでウチに来て頂く子。この子は、良いモノ持っているけど、鍛え方次第で、3年間でどう伸びていくか? 試していくタイプ。ん?B2さ」
B2は、入学金だけ免除だという。あとは、払って戴くカタチになるのだそうな。
それでも、親は経済的に助かる。母親だけで、生計を立ててる家庭は、大助かり。
「片親だけの子は、まあ、落としやすいことは、事実です」
「C? Cは、最初は、いないよ(笑)。在学中にケガをしてしまう。もちろん、練習中とか、試合とか、止む終えない場合だよ。遊んでて、不注意でケガをしてしまった場合とかは、もう、論外です。で、そのまま治らず、ず~っと、試合に出られないままだったりした場合は、一般入学してきた生徒と同じ扱いに、申し訳ないが、変えます」
ケガ、スランプ。他の部員と、協調性が皆無で、やっていけない選手。監督・部長の言う事、聞かない選手。そして、飲酒・喫煙。事件を起こした選手などなど。
教育的見地にも立ち、対外的にまずいことは、常に目を光らせて、隠しながら、なるべく早い段階で目を摘むという。
競合校が、常に蹴落とそうと、ことさらに、そういう情報を集め、地元マスコミや、高野連にタレ込もうとする。
「ソレはソレで、あんたたちみたいのがいるから、安心してられないんだよ」と、苦笑いするもいた。
査定は、1学年ごとに行ない、監督、野球部長らが話し合い、審議を重ねたうえで、データと突き合わせた上で、ランクと、待遇の上げ下げを決める。
「生徒には最後に諭す。何しろ、コレが絡むことだからね」
と言って、指で〇を作った。おカネを指すようだ。
「親御さんに連絡をとって、出来れば学校に来て頂いて、相談する。戦力になってるままの子には、そんなこと必要無いんだけどね」
「で、いままでの「条件」と、変わってしまったことをお伝えして、納得して戴く。最悪は、退部、退寮、その子の地元の高校への編入学も、お薦めする。まあ、ハッキリ言うと、辞めて戴く。お払い箱って言ったら、問題あるけどね」
「選手自身はね、やっぱり、自分の置かれている立場や、状況をうすうす知っているからね。いざとなっても、何も言わない子が、殆んどだね」
「おカネについては、親御さんしか知らない。子供には、私たちは、一切詳しく言わないし。だってね、フツ~の一般入学してきた子にだって、いくらかかる、コレはかからない、とか、親は子供さんに聞かれない限り、話さないでしょ?」
了承を得たら、後援会の1部の幹部、そして理事長などに、報告するという。
今大会でも、主力戦力とみなされた、不動のレギュラーの選手たちは、甲子園のマウンドや、内・外野で、躍動していた。
北海道の「駒大苫小牧」には、兵庫県尼崎市南武庫之荘中学校卒で、宝塚ボーイズで内野手として活躍していた、安田大将。
「宝塚ボーイズ」は、すでに書いた、田中将大(まさひろ)がいたチーム。安田もまた、監督のラインで、強力な推薦があった。大将と、将大。
「それは、偶然ですよ」と、事情を教えてくれた人は、笑った。
同じく、宝塚ボーイズにいた黒臺騎士(くろだい・ないと)は、新潟県にある「日大文理」へと赴いた。
もう1人、この日大文理には、なんと栃木県の古豪・作新学院中学部にいて、栃木ヤング・ベースボールクラブで野球をやっていた小太刀緒飛がいるのが、目を惹く。作新を蹴ってまでして、行った。
大阪府豊中市にある「履正社」には、愛知県名古屋市にある桜ヶ丘中学校卒の、永谷暢章(のぶあき)投手が、リリーフとして甲子園のマウンドに立った。
この履正社は、92年の歴史があり、戦中には、なんと、満州へ修学旅行に行かせた秘めた過去がある。12年半前には、大阪府茨木市に専用グラウンドを作り、甲子園では、いずれ書く問題校「専大北上」と初出場で当たった過去がある。
高校は豊中市にあるが、選手は大阪府内に限らず、滋賀県、兵庫県など、関西圏から広く集めている。
それは、履正社に、とどまらない。
京都にある「龍谷大平安」、京都府福知山市にある「福知山成美」、兵庫県にある「報徳学園」、奈良県五條市にある「智弁学園」など、関西にある高校は、ホントに広く関西圏から選手を集めている。
中には、選手個人が自ら希望して古豪と呼ばれる伝統校に、セレクションを受けたりして、入学している者も目に付く。
そのため、誰が明白な特待生なのか、即断しにくい面もある。
とはいえ、入部出来たところで、部員が50名以上おり、激烈なレギュラー獲りが、待ち受けているのが、実情だ。
かつては、100人以上、部員がいた。少子化は、野球部にも及んでいる。
関西圏が、今もって、広島県以上に、良い選手の主要草刈り場になっていることは、間違いが無い事実だ。
広島県内の中学生は、県内の高校で野球を続けている選手が圧倒的に多い。そこはそれ、県外流出を防止している背景もある。
栃木県の「佐野日大」は、地元佐野市より、小山市、鹿沼市、宇都宮市、上三川町、下野市など、県内から広く集めてチーム編成している。
東京都にある「関東第一」には、埼玉県越谷市立新栄中学校卒で、春日部ボーイズにいた、伊藤雅人がいる。
山梨県の「山梨学院大付属」には、静岡据野シニアにいた、菊池海斗が、主将としてチームを牽引していた。
高知県の「明徳義塾」は、スポーツ競技全般に特待生がいることでも、広く知られている。
好投手として、今日も投げた岸潤一郎は、兵庫県の尼崎市立中央中学校卒で、西淀ボーイズで活躍していることで、知られており、獲得した。
また、長崎県にある「創成館」は、九州圏内に広く網を巡らしており、佐賀県みやき町立三根中学校卒で、佐賀ドリームスで頭角を現し、2年前には「Uー15(15歳以下)日本代表」にも選出された、鷲崎淳を獲得している。
もう1人、小野田弥啓も、福岡県飯塚市立穂波中学校卒で、荒川ウエーブで活躍していたことにより、獲得した。
甲子園や、地区大会の予選で早くから目を付けられ、この中から、いずれドラフトに掛けられる者も、出るかも知れない。
では、高校はどのようにして、網を巡らしていくのか?
その事実と背景は、次回に書くことにする。
その裏で、学校の見立て違いもあり、ひっそりと硬式野球部と、高校を去った選手たちも、実は・・・・多い。
(続く)