ガードするグローブを押しつぶすかのように、スピードあふれる、伊藤雅雪(写真上の、右側)の左フックが打ち込まれた。
スパーリング相手のパンチを見切った瞬間に、スッと放った!
11月25日に迎える試合に備えて、この日もスパーリングを行なうと聞いたので、伊藤の所属する「伴流(ばんりゅう)ジム」へと、足を運んだ。
到着が遅れた関係で、ジムの扉を開けるなり、伊藤のパンチが勢いよく飛んでいるのが、目に飛び込んできた。
前回書いた、強豪、仲村正男の、ブン!と、空を切り裂いて振りまわすパンチをまるで寸止めの如く、皮膚1枚手前の、ギリギリでかわしていた、伊藤雅雪。
今度は一転して、相手の右ストレートが、アゴ下に突き刺さる寸前、右ストレートを相手の顔面に叩き込んでいた。(写真上)
0・1秒早く打ち抜けば、相手のパンチの勢いは弱まり、届かずに止まる。
伊藤は、スーパー・フェザー級のプロボクサー。同級世界チャンピオンの内山高志が、動体視力が抜群に良いということは、知られているが、この伊藤も、かなりの良さ。
「そうですか?」
ソレを確認すると、笑顔を崩した。
「自分では、そうは思わないんですが、相手の出すパンチを、見切れる自信は、まあ・・・・あります」
「それでも、かなり相手の(パンチ)もらっちゃっているんで、まだまだ反省すべきところは多いんですけどね」
スパーリングの相手は、協栄ジムの三瓶数馬(さんぺい・かずま)(写真下)。まだ、19歳、ジムのホームページを開くと、たった1戦しか試合をしていないかのように記載されている。ひど過ぎるズサン!
「そうなんですよねえ」と、苦笑い。
すでに、2013年度、全日本スーパー・フェザー級新人王にも輝いており、且つ、KOで勝ち「技能賞」も手にしているというのに・・・・・。
来年の2月くらいに、相手未定ながら、次戦が予定されている。
「三瓶君はサウスポーで、強くって、とっても苦手なタイプなタイプなので、これまでもスパーリングの相手をさせて戴いてるんです」と、伊藤は終了後、三瓶に礼を言いつつ、答える。
ちなみに、伊藤雅雪もまた、全日本の同級新人王を手にしている先輩だ。
三瓶の他にも、出稽古のようなカタチで、かなり数多くのスパーリングのラウンド数をこなしてきた。
「いくつ? さあ、僕、そ~ゆうの数えないんですよ。今までも、すいません」
この日も見られたが、相手との距離、タイミング、ノーモーションのパンチ、大きな単打で距離をグイッと詰めて行く。
ヒット&ウェイ。引く、出る。フェイント掛ける、回る、足を自在に使う、打ち合い。
さまざまなことを、スパーリングを重ねながら、試している。
今度の相手は、フィリピンのライアン・セルモナ。
戦績は、16勝5敗。うち、KOは、9勝。
かつては、東洋・太平洋(OPBF)同級1位まで、上り詰めた実力者。現在は、東洋・太平洋こそ10位だが、何かとランキングに問題と不正を抱えているIBFでは12位。
背は、伊藤より低く、ベタ足。それで、前へ前へ詰め寄って行き、チカラ一杯左フックを、対戦相手にぶち当てる。
あせると、とたんに大振りとなりがち。
そこを、伊藤が、どうさばき、どう勝つか!?
実は、セルモナ。今年の4月14日、後楽園ホールのリングにあがっている。この日、伊藤も同じ日に、同じリングで試合。
中野和也相手に、倒し、倒されのスリリングな展開を、繰り広げた。7ラウンド。ついに3度のダウンを奪い、1分50秒。文句無しのKO勝ちをおさめた。
ライアン・セルモナは、江藤伸悟と戦い、偶然のバッティングで、額から出血。6ラウンドで、負傷判定に持ち込まれ、0-3のジャッジで負けた。
その試合、自らも試合があり、残念ながら、伊藤はその目で見ていない。
勝った江藤は、先月10月13日。日本タイトルを奪うべく、内藤律樹(りっき)と対戦。
接戦の末、ジャッジほどの大差はない、辛くも内藤はベルトを半分だけ巻けた、負けた内容。
むしろ、江藤の大健闘の拳闘が、目を惹いた試合であった。
その内藤に勝つ前に、伊藤は、迫りくる11月25日に、「DANGAN116」の8試合目というメインの試合で、このライアン・セルモナに、なんとしても勝たねばならない。
「単に勝つだけではダメなんです。完全に倒して勝たなきゃいけないし、そのつもりで試合に臨みます」
すでに、脳裏の片隅には、打倒・内藤律樹のイメージは、組み立てられているようだ。
さて、どうなるか?
どう、勝つか?
倒そうとばかりに、勢い込み、あせると、逆にセルモナの様に、ボクサーは大振りになりがち。
その愚を、どう排除して、頭脳明晰(めいせき)に、試合を運ぶか?
意図通りに進まず、後半のラウンドで、倒そうとばかりに大振りになった時、不意にセルモナの左フックを喰らう危険性もはらむ。
内藤と戦う可能性は、どうなるのか?
伊藤本人、及び、「伴流ジム」の会長兼トレーナーは、「分からないんですよ」と、苦笑。
ならばと、内藤のジムに聞くと、いともあっさりと、答えが返ってきた。
「伊藤クンとは、来年の2月になりますかねえ。チャンピオン・カーニバルで、チャンピオンと挑戦者として、戦うことになると思いますよ」
おおっ!
まだ、来年の夢を見るのは早いが・・・・期待したい。
まずは、一つ目の壁をぶっ倒してからだ。
勝てば、世界のランキングにも、書き込まれるかもしれない。
試合前。妻子を実家に帰し、今は、孤独。
ストイックに、自己に厳しく、リングに向かう・・・・。
残念ながら、テレビ中継は、無い。他の試合にも目を向けて、是非、25日、後楽園ホールに足を運んで欲しい。
良い試合。見ごたえのある試合になると、思う。