< リアル 高校野球 ルポ > センバツ「21世紀枠」が、岩手県立不来方高校を選出!部員たった10人!ということが注目されているが、実は・・・。率いる小山健人・監督は、あの「三陸沖超津波大震災」に遭遇
「たった10人で!」 とか、「わずか10人!」の硬式野球部員で、この3月19日に開幕される、センバツに、「21世紀枠」とはいえ、岩手県立の「不来方」(こずかた)高校が選出された!ということが、驚きを伴って一斉に、先日報じられた。
おおっ!確かに10人だ。
野球は9人で、1チーム。だから、紅白の練習試合や、チームに分かれて、連係の守備練習も出来ない。
その分を、打撃練習で補い、いままでの数十倍もの素振りを、雪に埋もれたグラウンドを見つめながら、屋根のある校舎の通路などで、寒さをしのいでやっている選手の姿の、取材VTRが流されていた。
しかし、なあ・・・・・・。
大手マスコミや、新聞紙は、全国各地に、部員が9人に満たず、別の近隣の高校の野球部とともに「数校連合チーム」を、大会の予選のたびに、寄せ集めて組織し、試合に臨んでいるという、現実ならぬ「厳実」をまったく知らないんだなあ、取材不足だなあ・・・と痛感させられた。
だから、わずか、とか、たった、という意識。
だが、年々そういう高校とチームが、増えているという事実。高野連にも取材続行中、問い合わせたところ、その事実を認めた。
一昨年の夏。
「高校野球100年の裏で起こっている、衝撃ルポ」 君の母校の硬式野球部員が、0人に成る日は近い! という通しタイトルで、連載記事化。
北から南へと、校名と事実を列挙して、取材を重ねながら書いて行った。
苦労した割には、ぶっちゃけたハナシ、検索数は少なかった。
そんな記事を、マスコミはチラリとも見かけもしなかった・・・・・ということだろう。
で、めげずに立ち直り・・・・・にしても、あれっ?と、疑問がわいた。
というのも、部員が足りない野球部が、いずれも共通して苦労しているのが、先ほど書いたように、さまざまな打球の飛ぶ方向、高低、球速、はずみ方 微妙なバウンド、など、ありとあらゆることを想定しての守備練習と、内外野の連係プレーの正確さと捕球技術の乏しさ。
こればっかりは、どうしても人数が必要不可欠。
だから・・・・・予選試合近い週末に数時間、数校の部員が遠くから自費で集まって守備練習をしている。それだけ。で、地区予選1回戦で、その9割が、6~7回コールド負けで、終わっている。
だが、打撃練習などは、究極1人でも出来る。
良いバッター、素質・素材が良い主砲が3人いれば、時に打ち勝つことは可能ではあるが・・・・・。
にしても、この不来方高校。
ずっと、10人前後と言う、部の存続危機が続いていたんだろうか?
少なくとも、一昨年夏、岩手県内事情を取材した際に、そのような情報は、この珍しい校名の記憶は無かったし、活字にもしていなかった。
確かに、昨年の10月15日。1回戦とはいえ、東北大会にまで勝ち進み、あの悪名高き「特待生プロ軍団」と言える、青森県の「青森山田高校」と並ぶ、甲子園常連校「八戸(はちのへ)学院光星」相手に、0-2の惜敗。
それも、1回と2回に、各1点づつ入れられただけ。追加点、許さず、というしぶとさ。
負けたというのに、光星の大人数部員を背にして、自信がついたような、あふれる笑顔で応援団席に向かって走り寄る(写真左下)姿との、ギャップ!
打撃練習だけで、2点に強豪を抑え込んだ???
本当かなあ? そんな「奇跡」にも似た行為が、可能かい?
調べてみたら、や、やっぱり!
今でこそ10人足らずだが、昨年の夏の県大会までは、24人もいた!
だから、守備練習も、紅白戦も可能だった。
でなければ、特待生軍団相手に、公式戦1軍相手では、こうはならない。
昨年の夏以降、3年生が13人も、ごっそり退部し、なんだかんだあって万年補欠だった選手も含め、今は10人、というわけ。
ちなみに、センバツ開幕前の3月9日に、岩手県内では県立高校の入学試験があり、1週間後の16日に合格発表がある。
現部員、3年生が7人。2年生が3人。女子マネージャーは、3人。
今年の4月以降の方が、危機に陥る・・・・かも知れないが、ここまで有名になった野球部。おそらく入部希望者が押し寄せるであろう。すぐ、レギュラー入り出来るはずという、甘い考えで。
さらに、今回、この野球部を調べるなかで知ったのだが、珍しい校名の「不来方(こずかた)」。
実はコレ、盛岡地方を昔から表わす言葉。
少なくとも、江戸時代の前から、570年間は地域住民によって、そう呼ばれ続けている地名。
県都が「盛岡市」に変わっても、岩手大学の学園祭の名は「不来方祭」だし、市内には「不来方橋」があり、地方競馬の重賞レース名は「不来方賞」。
この高校は、盛岡に隣接する「矢巾(やはば)町」にある。わずか29年前に設立された新設校ながら、校名に地域住民に根強い想いが込められた「不来方」を、あえて掲げた、というわけだ。
ちなみに、スポーツのクラブ、昨年でサッカーには、男子54人、女子でさえ25人も所属。
ラグビーも、男子24人に対し、女子が6人もいる!
もちろん、特待生は、いない。ソレに賭ける、カネも無い。出す気も、無い。
この硬式野球部、ムカシから強い戦績を残しているわけでは無い。例えて言うなら、ソコソコ。
2014年の夏の甲子園大会出場を賭けて出た、県大会では、1回戦が、7-5.2回戦が、5-1.そして、3回戦で特待生軍団の「盛岡大附属」に当たり、0-6で敗退。
翌、2015年の同大会では、1回戦で早くも、1-3で敗退している。
部員0人に限りなく近い「連合チーム」もすでに出ていて、2014年には、「前沢」「宮古水産」「沼宮内」「大迫」、そして「雫石」の、互いに遠距離の「5校連合」で出たものの、「大船渡」相手に、0-10の6回コールド。
次いで、2015年には、「前沢」「沼宮内」「大迫」の「3校連合」に減りはしたが、健闘むなしく3-14で惨敗。
いかに人数が少ないと、まともな練習そのものが出来ないかの証明でもある。
今回も、「21世紀枠」。特待生校に象徴される、「単なる試合での強さ」「戦績」では計らない、総合的な見地で検討、審議され、選出されている。
かつて、生前の牧野直隆・高野連会長に、山手線内で偶然出会ったことがある。
その際、直撃。
手付かずのままにしていた、特待生高校の悪しき問題には正直、苦慮していたが、一方で手掛けた「21世紀枠」については、
「アレは、自分で言うのもなんですが、やって良かったなあと、思ってます」と、笑みを浮かべて言っていたのが、今でも記憶に残っている。
2001年にこの枠が、センバツに限ってではあるがスタート。いまだに、評価が下がらず、衰えていないのは、その面があるからに他ならない。
ただし、現在まで43校が選出され、出場を果たしたが、1回戦を勝ち抜いたのが、そのうち10校でしかない。
昨年の県の秋季大会で、準優勝を手にし、「21世紀枠」で甲子園に行けることになったのは、ここの野球部の監督をしている、小山健人の指導能力と、ひたむきに野球に賭ける情熱と、実直さが、結実したものではないか?
どちらも、球児ではないか?と勘違いしそうなくらい、写真左の小山健人の顔は、すでに30歳にもなったというのに、童顔で、若い。
この「不来方」に赴任してきたのは、2年前。 その前は、「県立山田高校」でも、数学の教諭をしながら、硬式野球部の監督をしていた。
岩手県の「山田町(まち)」。
そう聞いて、あの、2011年3月11日に東北沿岸を一気に襲いまくった、「三陸沖超津波大地震災害」を、すぐさま想い起こす人は、今、どのくらいいるであろう・・・・・。
実は山田町は、超津波が引いたのち、大火災が発生し、さらに悲惨さに拍車を掛け、焼け野原と化した。
日々、風化されてゆき、クチだけの「復旧」「復興」が式典のたびに、オカミの間で、意味もなく泳いでいる今、あの日、小山健人は、その真っただ中に、その身を置いていた。
当時、彼は24歳。
山田高校の校舎こそ、高台に建っていたため、津波をかぶるのはまぬがれたが、山田町の住民500人が死亡。400人が、行方不明という惨状。
つまり、住民の15人に1人が、この世から消えたという、悲惨な事実。
小山が指導していたなかには、住む家を失い、家族をも失った生徒・選手が多くいた。
前日まで練習に励んでいたグラウンドには、陸上自衛隊の救援物資と隊員を乗せた大型トラックが、ズラリと並び、高校の体育館は被災住民の避難所と化した。
選手・生徒は、ボランティアに時間を割く日々。小山もまた。同様。
そんななか、心迷いながらも、約1か月後の4月7日。
意を決して、野球部は、練習を始めた。
小山、自ら、グラウンドの片隅で練習に使えるところを整地し、まだ使える用具を揃え、汚れを落として、一歩、また一歩と歩み出した。
選手は、残った10人でスタート。
くしくも10人。6年後の今また、10人。
背後にそびえる太平洋の海原は、多くの人間を呑みこんで引きづり、巻き込んで去ったとは思えぬほど、青く静か。
地元の記者の評判は、とても良い、小山健人。
被災後の彼と野球部を軸にした、ノンフィクションの力作も書かれたほどだ。
山田町の復旧は、昨年の夏の段階でも、遅々として進んでいないまま・・・・。
堤防も、いまだ建設中の状態だ。
そんな教師監督が、6年後の今、他校の特待監督が知らない「あの日」の想いを胸に3・11後、同じ10人を率いて、甲子園で、特待生軍団ひしめき合う強豪校相手に、どんな軌跡と奇跡を、大震災を忘れかけた全国民にみせてくれるか!?
実は、心ひそかに、しかし、熱く、期待している
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