あの四宮(しのみや)洋平が?
ひさびさに、その名前を目にした。もはや、日本ラグビー界では、過去のヒト。まさに「元」ラグビー日本代表そのもの。
この結婚報道に対して、早くも女子バレーボールのファンとおぼしき男性や、荒木のファンらしき男たちが、結婚しても「遠距離別居夫婦」になるのでは? という文面や、危惧がチラホラ見かけられた。
なにしろ荒木、今年のロンドン・オリンピックでは、チームの主将として銅メダルを獲得した牽引車となったお人。現在の「格」では、四宮より上。まだまだ現役は続けられる実力はあるし、チームも手放したくない逸材。
先の危惧は、荒木が日本の「東レ」に所属しており、かたや四宮はイタリアのラグビーチームにいるから、というところから推測されたもののようだ。
しかし、ブログを見ると、四宮は今は日本にいて、それも左足のケガのリハビリ中。とりわけヒザが、写真で見る限りだが、治療もさらに必要なくらいの重症に思える。。
そんななかで、自分の結婚話が、チラッとにせよ、世間に知られ、久々に自分が注目されたことは、人の3倍プライドの高い四宮にとっては、内心嬉しくて、ニンマリしてるに違いない。
”俺も、まだまだ捨てたもんじゃないんだな。日本じゃ有名人”と。
かつて四宮は、日本のトップリーグや、その下部リーグのチームに、社員としてではなく、「単年プロ契約」選手として、3チームを渡り歩き、時折り試合に出ていたが、実力の峠は越えていたため、契約更新は常に厳しい状況が続いていた。
試合後も、所属チームの選手と談笑することもない。殆んど単独行動。かつての彼を知る古参の記者と立ち話はたまにするものの、話しは「来シーズンは、どうするの?」といったことが中心。 顔をよく知らない記者には、質問は耳に届いていても、いつもシカトと無視。
彼に笑顔で寄ってくるのは、これまた古参の顔なじみファンが1人か2人。残念だが、今のラグビーファンは、昔の四宮の活躍を知らない。
たまに記者会見を開く。ニュージーランドから始まって、イタリアやフランスのクラブチームや、プロの1部、はたまた2部のチームに入団するという発表の時だ。
一見、晴れ晴れしいはずの会見だが、そこでクッキリと浮かび上がり続けるのは、予想を超える待遇と生活の厳しさ。
ある国では、時給いくらのアルバイトをしながら、それを終えてチームの練習に参加。試合の出場給は、わずかだという。それでは、とても暮らしていけそうもないため、出国前に医療法人のスポンサーが付いたりした。
「金銭的には、とても厳しい状況ですが」と、会見で思わず四宮が漏らすこともあった。スポンサーが、付いて、やっとの「プロ選手」としての、海外生活の日々。言葉も流ちょうに話せないままのため、意思の疎通にも苦労している。
そのうえ、フランスの2部のチームでは、試合のメンバーには書かれていても、ず~っと出場出来ず。やっと出られたのは、最終戦の、それも途中からの、たった10分間だけ。
他の選手との言葉の壁以上に、実力の差を痛感したと言う。
そして今は、自分の強みであったはずの走力を生かすことも出来ない、左足の負傷・・・・・・。
会見場には、”厳実”を知って、先を危ぶむ、ひんやりとした空気がいつも漂う。
実は元々、海外のラグビーのトップ選手のプロ年俸そのものが、サッカー選手に較べて、とても低い背景がある。観客動員はそこそこあるものの、チームや試合を支援するスポンサーの数が違う。その額のケタが違う。
そのこともあり、ラグビーファンなら、ため息漏らして憧れるトップの実力選手ですら、日本円に直して年俸3000~4000万円。
そんな彼ら、スタープレーヤーを獲得すべく、日本のトップリーグのチームは、年俸5000~6000万円も払う。
なかには、現役というより、「昔の名前で、出てい~ま~す」的なジャパン・マネー目当てのヒトもいたが、契約条項は、とても細部にわたり、選手有利になっている。 そのなかには、まだ現役なのに「自叙伝」を出し、そのプロモーションのために帰国して行ったスター選手すらいた。
そのチームのスタッフは、苦笑いをしていた。
痛いのかゆいの、いろんな理由で休場出来る。相次いで、ジャパンに来る裏側には、そんな事情も隠れている。
サッカー選手は個人スポンサーやCMも付き、年収は軽く億を越し、10億円を超えるスタープレーヤーもいるのは、ご存じの通りだ。
人気度がそもそも違うと言ってしまえば、ラグビーファンには辛い。
そんな現実のなか、四宮がトライを挙げたとか、活躍してるとの海外報道も、聞こえてこなかった。
今年も8月にイタリアのチームに入団したものの、先述の左足のケガをして11月にはすでに帰国。
そのチームそのものも、今シーズンは2勝6敗の戦績だ。来期の契約更新は、とても厳しいのではないだろうか。
四宮の所属しているチームより、はるかに格上の,俗にいうスーパーリーグ、「スーパー15(フゥフィティーン)」に組み込まれている、世界的にも有名なチームに、この秋、相次いで日本の選手が、3人も入ることが決まった。
野球で言うならば、アメリカのメジャーリーグの球団に入ったようなもの、そう例えた報道もあったが、その通りだ。
トップリーグの強豪チームであるパナソニック・ワイルドナイツの田中史朗(ふみあき)と、堀江翔太の2人は、ニュージーランドにある「オタゴ」代表という地域チームに入り、2部の地方代表選手権試合に出場して、実績を作った。
スクラムが組まれた後の、キレのあるボールさばきと、その後の作戦の展開を読み取るチカラが問われるスクラム・ハーフというポジション。田中史朗は、オタゴのスクラム・ハーフをまかされ、地方代表選手権(ITMカップ)では、12試合全てに先発出場。
その力量と、小さいながらも身体を張ったプレイが目に留まり、ラグビーの本場、ニュージーランドの有力チームである「ハイ ランダース」入りが決まった。
日本に可愛い新妻と共に帰国。テレビカメラの前で、感激と喜びのあまり、言葉に詰まって、涙をぬぐった。
その一部始終は、ユーチューブで見られるはずなので、興味のある方は、田中のあまりの童顔に驚きつつ、顔を覚えておいて欲しい。
2人目は、堀江翔太。田中と同じく「オタゴ」代表で、今までつちかった能力をアピール! スクラムを組むときの要のフッカーというポジションで、堀江は先発起用こそ1試合だったが、チームメイトに疲れが見え始めた途中から、11試合に出場。
その素晴らしい、身体を張った数々のプレイが、オーストラリアの新興チーム「メルボルン・レベルズ」入りにつながった。ここには、かつて日本のチームでプレイした選手がコーチをしており、堀江にとっては良い環境といえる。
オタゴは、連戦連勝。選手権の決勝まで進出した。残念ながら、16-41で負けたものの、2部の選手、いわばマイナーの下から、いきなりメジャーに大抜擢された2人。
大リーグと同様、代理人(エージェント)が介在・仲介し、入団交渉が行われる。2人は、現在は日本の「パナソニック・ワイルドナイツ」所属の正社員選手。
それが、世界の最強チームのプロ扱いの選手となるわけだ。
堀江も、田中に負けず劣らず可愛い新妻・友加里さんを連れて、喜びの帰国。
「細かい交渉とか、条件とかは、エージェントにまかせてます」と、田中も堀江も口を揃える。
現在は、年収500万円前後(推定)。それが、プロとして、どの位評価されるのか?
カネなんかよりも、南半球最高峰の舞台で、自分の実力を試したい!という気概が、2人からは溢れていた。
帰国して、すぐさま、2人は観衆に、気迫溢れたスーパーラグビーのド迫力プレイを見せつけている。ケガが心配なほどだ。
その2人に続けとばかりに、世界レベルの”大本命”マイケル・リーチが、ニュージーランドの「チーフス」に、”トレーニングメンバー”の1人として参加決定。
これ、言って見れば、プロ野球の短期合宿トライアウトみたいなもの。
競う相手には、元オールブラックス(ニュージーランド代表)の選手もおり、厳しいが、リーチならば麻雀じゃないが、1歩抜け出て、チーフス入りを掴むのではないか。そう信じている。
”スーパー15”は、来年2月に、その名の通り、南半球の最強を賭けて15チームが戦い始める。
むろん、すぐレギュラーの枠を勝ち取れるほど、世界最高峰リーグの覇権を争うチームは甘く無い。
まず枠は、ポジション別に、3人で競わされ、1人に絞られる。
田中と堀江のポジション枠には、正直、最強とおぼしき選手がズラズラリ。そこから落ちても、1チーム30人枠に残れるか?
社員のままで、入れるのか? その辺りの条件は、どうなっているのだろうか?
「今、トップリーグのシーズン中ですしね。すべての調整や、社内交渉は、それが終わってからになるんじゃないでしょうか」
チームスタッフは、そういった。
「すべてがクリアにならないと、公表もなにも出来ませんね」
パナソニックには、チーフスに昨年までいて活躍していた、ソニー・ビル・ウイリアムズがいるが、帰国して胸の手術したり、なかなか「大活躍」とまでには至っていない。
来期は、再び他の国でプレイするなどとも報じられている。単年契約の、本人にすれば”顔見世興行”のつもりだったのだろうか?
さまざまな”オプション”が、”世界のソニー”クラスともなると、契約書に細かく付随してくるという。
「年俸」「試合ごとの出場給」「住まいの保障」「家族のアレコレ」「練習手当て」「ケガした場合の処遇」などなど。
幸いというべきか、田中と堀江のエージェントは、つわものだ。2人も、そしてマイケル・リーチも英会話は堪能だ。
加えて、2人には新妻が付いており、異国での生活は、精神的にも安定できる。
出来れば、小野澤宏時にもチャレンジして欲しいのだが、本人にその気はないようだ。
世界の最高峰の試合で、次々と身体を張ったプレイを見せて、そこで積みあげた実績を、2015年、そして、我が国で開催される2019年のワールドカップで、何人もの日本人選手が披露して欲しい。
先述した四宮や、サラセンズで活躍した岩渕健輔(現在、15人制日本代表チームのゼネラル・マネージャー)などが、先鞭をつけたが、「世界の厳しさと、実力の壁」を聞けば聞くほど、知らされた。痛感もした。
だが、ここにきて、ようやく花が開きそうだ。
幸い3人とも、明るく、性格もいい。記者のウケも良い。
サッカーのように、「海外組は、次の国際試合には出場が出来・・・・・・」
などという文章が、スポーツマスコミに溢れる日を夢みつつ、この1文を終える。