転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



6月の渋谷での『BASARA』は観なかったので(娘は観に行った・笑)、
12日の大劇場は、私にとっては久しぶりの花組だった。
一般的に、平日3時は最も入りの悪い公演時間帯だが、
B席から見ていて、二階は案外お客さんがいたし、
特に当日限定のB席最後列が全部埋まっていたことがわかったので、
この際、大劇場も歌舞伎座の幕見みたいな感覚で、
もっと当日席を出せば良いのではないか、と思ったりした。
舞台が遠くて条件的には良いとは言えない場所でも、
誰に対しても等しく当日にのみ売り出され、なおかつ他より安い、
という席には、それなりに支持があるものなのだ。

と、それはともかくとして、今回の公演、
まず前半のお芝居は、植田景子 脚本演出による
『愛と革命の詩―アンドレア・シェニエ―』だった。
「『植田景子』は植田紳爾が名作を書いたときだけ使う筆名」、
という痛烈な説が某宝塚本に出ていたことがあったが(笑)、
私としても、植田景子先生は宝塚を「分かって」いる方だ、
という信頼が以前からある。
…という言い方だとエラソーかもしれないが、少なくとも景子先生は、
私が「宝塚だ」と思っている部分を確かに共有して下さっていて、
そこを外さない作劇をして下さる、という好ましさが私にはあるのだ。
その意味で、今回の『アンドレア・シェニエ』も
最初から最後まで、心地よく安心して観ることができた。

詩人アンドレア役らんとむ(蘭寿とむ)くんは、さすがの安定感だった。
今時の宝塚だと、決して長身の男役とは言えないと思うのに、
丈のある上着の着こなしが巧いし、主役然とした佇まいがあって、
大仰な台詞も抵抗なく聞かせてくれるし、文句が無かった。
歌は音程の高い部分が上がりきらない箇所があったと幾度か感じたが、
芝居歌として聞かせどころを確実に聞かせる歌い方だったので、
これまたさほど気にならなかった。
らん(蘭乃はな)ちゃんとの声の相性が良いのも相変わらずで、
このふたりのデュエットは本当に耳に快いものだった。

その、らんちゃんはトップ娘役としての経験も既に十分で、
貴族の令嬢であった時代のマッダレーナの高慢さも似合っていたし、
革命ですべてを失ったことにより、
アンドレアの詩に共鳴するほど心の目が開かれ、
生きることの本質を理解するようになる、
…という変化・成長も、少しも唐突でなかった。
そこに絡んで来るのが、みりお(明日海りお)くんで、
「組替えで来た人」という先入観がこちらにあるせいか、
芝居のあちこちで、やや浮いて見えるような気がしたのだが、
それがまた、革命政府の闘士カルロ・ジェラール、という不安定な立場には
絶妙に似合っていたのだから、面白いものだと思った。

今回の舞台で私が強く心惹かれたのは、
Angel Blackを演っていた柚香光(ゆずか・れい)で、
まだ研5かそこらだと思うのだが、彼女の姿はなかなか印象的だった。
最初は名前も知らずに、観ていて「誰!?」と思った。
休憩中にプログラムを買って、初めて名前を覚えたのだ。
そのAngel Blackと、冴月瑠那の扮するAngel White
(こちらは可憐だった。Angelsが二人並ぶとBL的なヤバさ)とは、
それぞれ、「悪なるもの」「善なるもの」を体現する存在なのだが、
私の印象ではこの二人は決して敵対する関係ではなく、
むしろ「二人で一人」のようなパートナー同士に見えた。
レイくんのAngel Blackは妖しい雰囲気がとても魅力的で、
動きも大変に美しく、首の角度一つにも色気があったし、
それらが、B席からオペラグラスも使っていない私のところに、
ちゃんと届いていたことには、心から感服した。
私にとってノーマークの若手だったのに、
オーラを二階の後部席まで飛ばしてきた力量は素晴らしかった。

このお芝居の新人公演の配役を見ると、彼女は、
二番手である上記みりおくんのジェラール役を貰っているので、
劇団も今、レイくんを育てる意向があるのだろうかな、
という印象を持った。
後半のショーでも、第三場『蜃気楼』でみりおくんの相手役に抜擢されていて、
これまた注目されるに十分な役で、観ていても面白かった。
レイくんに出会えて、今後の花組を観る新たな楽しみができたのは、
私にとってこのたびの大きな、そして久しぶりの収穫だった。
しかしAngel Black同様、ショーで務めたのも『幻』の役だったし、
今回は妖怪変化モノ(笑)だけしか観られなかったので、
生身の人間役だとどうなるのか、また姿は良くても歌うとどうなのか、
という点については、私にはほとんど判断材料がなかった。
ご縁があれば、次の機会には、そのあたりを是非(^_^;。

さて、芝居が当たりだとショーはハズレ、またはその逆、
ということが私の観劇歴にはこれまで結構あったように思うのだが
(例えば旧東宝時代にはD席1100円を買いつつ、よく、
「100円の芝居と1000円のショー」などと言ったものだ・爆)、
今回は後半のショー『Mr.Swing』もまた、意外にもなかなか良かった。
作・演出は稲葉太地、…とあったが、何しろ、
本公演デビューが2010年雪組宝塚大劇場公演『Carnevale 睡夢』、
というお若い先生なので、私は全然予備知識などなく、
ゆえに全く期待していなかった(殴)………のだが、
これが実に手応えがあって、楽しかったのですね(^_^;。

出だしからエネルギー全開なのも気に入ったが、
私にとっては、第4場In Full Swingでのらんとむくんの明るさが
ほかの何より鮮やかで、強く印象に残った。
らんとむくんは、コメディが巧かったのだな?と今更だが思った。
そういえば、2008年の宙『雨に歌えば』のコズモ役も良かったという記憶がある。
コメディの巧い人は本当に芝居が巧い、と私は思っているので
(元・雪トップのユキ(高嶺ふぶき)ちゃんなど、その典型!)、
ショーの一場面とはいえ、こういうものを観られて幸せだった。

みつる(華形ひかる)くんも、ふうと(望海風斗)くんも、
お芝居でも思ったがまことに綺麗な男役さんだなと感じ入り、
現在の花組の布陣は、みりおくん加入もあって実に豪華だなと思った。
そんな中、みーちゃん(春風弥里)が、もう卒業して行ってしまうのかと、
第8場エピローグではそれを特にはっきりと感じて、とても切なく思った。
私の、みーちゃんとの出会いは2010年3月バウ公演『Je Chante』だった。
若いにも関わらず男役度の高い、味のある人だと思っていたのに、
こういう、イイ余韻を残してくれるような男役に限って、
どういうわけだかあるときあまりにも潔く区切りをつけて、
去って行ってしまうのだよな……。

……というわけで、芝居もショーも予想以上に楽しめた観劇だったのだが、
唯一、私にとって宝塚らしくなかったのは、
芝居・ショーともに、主題歌がほとんど記憶に残らなかったことだった。
これはまたどうしたことだ。
宝塚歌劇は、帰りに花の道を歩きながら我知らず主題歌が鼻歌になり、
うろ覚えの歌詞を繋いでご機嫌で鼻ずさみながら駅に向かう、
というのが当然だと思っていたのだが、
今回に限り、私はどちらの主題歌も出てこなかった。
そんなにアッサリした主題歌だったっけ。
それとも私の耳が変になったのだろうか??
今、プログラムを開いて歌詞を眺めてみても、
『♪聞こえる 翼の羽音 魂の声が 自由求め 平等 愛 魂の翼 広げ』
……って、意味わからんし(殴)、
どんな旋律だったか、全く思い出せないんですが???

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