転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



文学、といわれるようなジャンルの本を読んでごらん、
と担任の先生から言われた娘は、手始めに、
学生向けに書かれた『ギリシア神話』を手に取った。
部分的にせよ、知っている名前や物語が出て来るので、
読みやすいと考えたようだった。

だが、しばらく読むうちに、娘は笑いが止まらなくなった。
神話が、そのように味わい深かった、というのではなかった。

「みんな、のびとるんよ~~

娘の読んでいた訳本は、ギリシア語名のカタカナ表記が、
長母音に関して忠実で、娘にはそれがたまらなかったのだ。
パンドラが「パンドーラ」、アポロンが「アポローン」、
と表記されていたあたりは、まだしも耐えられた。
だが、「ミーノース王」と「ミーノータウロス」の件になると、
娘には、完全に、変なスイッチが入ってしまった。

「ダイダロスはダイダロスなのに、息子はイ~~~カロスっ」

リュンケウスやペルセウスは何故かノビておらず、
アンドロメダがアンドロメーダーになることもなかったが、
ペルセウスは「ゴルゴーン」に襲われ、
ヘラクレスも案じた通り「ヘーラクレース」になり果てていた。
天を支えているのは「アトラース」、
彼が手を離したあと重い天を背負わされた「ヘーラクレース」は、
『なにくそ、と身体中に力を入れて、うんとふんばる』
と書いてあり、この微妙な訳文も娘にはオオウケだった。

さて、物語は「アルゴーの船出」に差し掛かった。
話の発端は、とある時代の、ギリシアのひとりの王子。
その名は、プリクソス

「……………!!!」

これまで、さんざん、伸びーる名前に翻弄されつづけた挙げ句、
不意に出現したプリクソスによって、
娘は、とうとう急所をツかれてしまったようだった。
娘は本に顔を伏せて、窒息するほど笑った。

プリクソス、プリクソス、プリクソス、………、
………と娘の頭の中では、いつまでも、
「エーコー」がかかっていたのだった。

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