あるニヒリストの思考

日々の思いを綴る

深層心理の敏感な人について(自我その136)

2019-06-21 17:33:58 | 思想
勘違いしている人が多い。自らの意志で生き、自らの意志で行動し、自らの行動を意識し、自らの感情を意識して暮らしていると思っている人が多い。しかし、そうではない。意志や意識という表層心理は後発の動きなのである。まず、深層心理が思考し、感情と行動の指針という欲望を生み出し、それによって、人間は生きているのである。先発の動きは、深層心理によって引き起こされるのである。意志や意識という表層心理は、深層心理の動きがあって、初めて、動き出すのである。しかし、一般的には、意志や意識が重要視され、深層心理は、例外的な動きとして、捉えられている。しかし、真実はそうではない。常に、深層心理が思考し、感情と行動の指針という欲望を生み出し、表層心理が、時には、深層心理が生み出した欲望を意識し、それを意志したり、抑圧したりするのである。それでは、深層心理とは、何であろうか。一般的に、深層心理は無意識と呼ばれている。むしろ、無意識という言葉の方がより普及している。無意識について、辞書では、「精神分析の用語。本人は意識していないが、日常の精神に影響を与えている心の深層。心理学で、通常意識に上らない識閾の領域。夢・精神・分析などによって意識化が可能になる。潜在意識。」と説明している。そして、深層心理については、「人間の精神活動のうち、意識されていない心的領域。無意識。日常の意識生活に働きかけている無意識下の心理。奥深くに隠れている心の働き。外に現れない無意識の心の働き。」と説明している。このように、深層心理と無意識は、同じ意味である。しかし、無意識という言葉は、意識という言葉に無という否定を表す助字を付けた言葉であり、主体は意識にあるということを言外に表現しているから、同じ意味であるが、敢えて、無意識に換えて深層心理という言葉を使うのである。それは、先に述べたように、人間の感情や行動は、深層心理の働きによって生まれているからである。表層心理は、時に意識し、時に意志し、時に抑圧するだけなのである。つまり、本質的には、人間の主体は深層心理にあるのである。人間は、自ら意識して思考するという表層心理の働く前に、既に、自らが気付かないうちに、深層心理が思考し、感情と行動の指針という欲望を打ち出しているのである。表層心理は、時に、深層心理が生み出した欲望を意識し、意志したり、抑圧したりするだけなのである。一般的には、意識して行動する方が無意志の行動より多いと考えられている。しかし、真実は、逆である。無意志による行動の方が意識しての行動より多いのである。誰が、「次は右足、次は左足」と意識して、歩くだろうか。誰が、品詞や活用形などの文法を意識して考えて、文を作るだろうか。誰が意識して考えて、人を好きになるだろうか。さて、深層心理の欲望は、深層心理自らが持っている、対自化・対他化・共感化の作用によって生まれてくる。対自化とは、人は、物や動物や他者に対した時、それをどのように利用するか、それをどのように支配するか、彼(彼女)がどのように考え何を目的としているかなどと考えて、対応を考えることである。対他化とは、他者に対した時、自分が好評価・高評価を受けたいという気持ちで、彼(彼女)が自分をどのように思っているか、相手の気持ちを探ることを言う。共感化とは、他者と、敵に当たるために協力したり、友情を紡いだり、愛情を育んだりすることを言う。人は、物や動物や他者に対した時、この三化のいずれかの姿勢で当たる。この三化の中で、深層心理の欲望が最も激しく動くのは、他者に対した時の対他化である。喜怒哀楽の感情のほとんどは、他者に対した時、対他化の結果、自らがどのように思われているかを知ることによって起こる。それほど、他者の自分に対する評価が、人の気持ちを左右するのである。特に、深層心理の敏感な人は、他者の自分に対する評価によって、心が大きく揺れるのである。他者から好評価・高評価を受けると、ある人はは有頂天になり、ある人は歓声を上げ、ある人は威張り出す。他者から悪評価・低評価を受けると、ある人は気持ちが大きく沈み込み、ある人は相手に激しい憎悪の感情を抱き、ある人は恥ずかしくて居たたまれない感情になり、ある人は自殺を考えるほど気持ちが重くなるのである。しかし、たとえ、自分の深層心理が敏感であることが嫌いであったとしても、自分の意志では、どうすることもできない。人間は、先天的に、深層心理の感度、つまり、敏感、鈍感が決まっている。そして、それが性格に繋がっている。だから、人間は、先天的に、性格も決まっているのである。さらに、自分の意志で自分の深層心理を変えることはできないから、性格は、一生、変わらないのである。さて、深層心理の敏感な人には、怒りっぽい、心が傷付きやすい、いつまでもくよくよしている、いつまでも根に持っている、復讐心が強い、嫉妬深い、よく笑いよく泣くなど、感情の起伏の激しさが外面に現れる特徴がある。なぜならば、深層心理の敏感な人は、他者からの評価に、心が大きく動くから、必然的に、欲望も強くなる。その強い欲望を、表層心理が抑圧しようとしても、抑圧できないからである。深層心理の欲望が強いから、いつまでもくよくよしている、いつまでも根に持っている、復讐心が強い、嫉妬深いなどの思いが長く持続するのである。傷害事件を起こしやすいのもストーカーになりやすいのも深層心理の敏感な人の特徴である。それも、また、深層心理の欲望が強いからである。芸術家が多いのも、深層心理の敏感な人の特徴である。それは、深層心理の敏感な人は、心が激しく動揺し、心のバランスを失い、そのバランスを取り戻そうとして、芸術に表現するのである。つまり、芸術に、心の傷を表現することで、昇華するのである。傷害事件を起こす人の多くは、激しく心が傷付けられ、心のバランスが失われたので、バランスを取り戻そうとして、自分の心を傷付けた人の心を傷付けようとして、相手に暴力を振るったのである。ストーカーになる人は、失恋によって激しく心が傷付けられ、心のバランスが失われたので、バランスを取り戻そうとして、相手につきまとって、相手に新しい恋人を作らせないようにして、失恋の事実を認めないようにしたり、自分の心を傷付けた相手の心を傷付けて、失われた心のバランスを取り戻そうとして、相手に暴力を振るったり、殺したりするのである。精神疾患に陥りやすいのも、深層心理の敏感な人の特徴である。それは、他者から悪評価・低評価を受け続け、それに伴い、心も激しく動揺し続け、バランスを失い続け、深層心理がそれに堪えられなくなり、自らを、精神疾患にすることによって、現実から逃れようとするのである。確かに、その他者からの悪評価・低評価から逃れることはできるが、日常生活全体に大きな支障が出るのである。さて、このように、人の深層心理の感度、人の性格は、生まれつきのもので、一生、変わることはない。自分の性格を知ることによって、自分の深層心理の感度を知ることが大切である。深層心理の敏感な人は、心が傷付けられ、心のバランスを失いそうな場所には近寄らないことが大切である。また、深層心理の敏感な人は、他者から悪評価・低評価を受け続けている環境にいるならば、即刻、環境を換えることである。確かに、人間は、ある程度は、逆境に堪えることができるが、深層心理の敏感な人の感情の揺れは、揺さぶり続けられたならば、精神疾患に陥らなければ堪えられないほど、高まるからである。日本全体で、かつて、「克己」、「根性」、「大和魂」、「逃げるのは卑怯者のすることである」、「逃げるのは恥ずべき行為だ」などの言葉で、我慢して、そばに居続け、今までと同じことを繰り返すことを強要し、強要されたが、それは、政治権力者、資本家、教師などの上に立つ者が、大衆、労働者、生徒を、自らの意図の下に支配したいという意図が隠され、それらが美徳として誤って解釈されていたからである。「君子危うきに近寄らず」であり、環境を換えること、逃げることは、決して、卑怯者のすることでも恥ずべき行為でもない。最も良いのは、深層心理の仕組みを知り、他者の思いに囚われないことである。「たかが他者の思いではないか」、「人生はゲームのようなものだ」などと考えた方が良いのである。実際に、そうなのだから。


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