「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」 2017年 タイ
監督 ナタウット・プーンピリヤ
出演 チュティモン・ジョンジャルーンスックジン
チャーノン・サンティナトーンクン イッサヤー・ホースワン
ティーラドン・スパパンピンヨー タネート・ワラークンヌクロ
サハジャック・ブーンタナキット
ストーリー
小学生のころから成績はずっとオールAで、中学時代は首席となった天才的な頭脳を持つ女子高生リンは裕福とは言えない父子家庭で育ったが、その明晰な頭脳を見込まれ、進学校に特待奨学生として転入する。
そこで彼女は、性格はいいが成績に難のあるグレースと友だちになる。
グレースは一定以上の成績をとらなければ演劇部の活動を禁じられることになっていた。
グレースに勉強を教えて試験に臨ませたリンだったが、試験中にとっさにカンニングを手伝ってしまう。
試験後、リンはグレースの彼氏であるパットの家に招かれた。
彼は甘やかされた金持ちの子供で、答えと引き換えに代金をもらうというビジネスを持ちかける。
最初は消極的であったものの、リンはピアノの手の動きを利用して、試験中に答えを教える“ピアノレッスン方式”という方法を編み出す。
彼女のカンニングを利用する生徒は次第に増えたが、そのカンニングは別の奨学生である真面目なバンクに阻まれ、彼女は父から、そして奨学生剥奪という形で学校からも叱責され、奨学金を得る機会も剥奪される。
パットとグレースがリンにアメリカの大学に留学するため世界各国で行われる大学統一入試・STICを舞台にするカンニングをもちかけ、彼女は一団に戻った。
このテストは同一のものが全世界同日に行われるため、リンはそのテストが最初に始まるオーストラリアで試験を受け解答を送るという計画を立て、パットは数百万バーツの収入を得られるよう顧客を募った。
彼女はこの計画にはバンクの協力が必要であると考えていたが、そのバンクはこのような不誠実な計画には絶対にのらなそうであった。
ただ偶然にもバンクは路上で凶悪犯に襲われ、大学奨学金の試験を受けられなくなった。
リンは彼に計画をもちかけ、裕福な家庭でないバンクは選択の余地なく渋々同意する。
寸評
タイの映画と言うだけでも珍しいのだが、カンニングをテーマにしているというのもユニークな内容である。
僕は何とか大阪でも有数の進学校に合格したのだが、さすがにそこでは落ちこぼれで、数学の授業などでは何を言ってるのかチンプンカンプンで、授業はまるで拷問を受けているようなものだったので、勉強ができないグレースやパットの気持ちは分からぬでもない。
もっとも高校時代は彼らの様にカンニングを行ったということはなかった。
大学での試験になると、ゲーム感覚でカンニングを行う連中が多くいたし、僕もカンニングでなんとか単位を取得したこともあった。
出そうな問題の解答を机に書きうつす者、端の席に座った者は壁に筆記する者もいたし、カンニングペーパーを隠し持つ者もいた。
映画に描かれていたように僕も鉛筆を利用したが、あのような高等な物ではなく、鉛筆を二つに割り先だけ芯を残しその間にカンニングペーパーを忍ばせるという芸術品を用意していた。
友人からは、それを作る時間があれば暗記すればいいのではないかと冷やかされもしたものだ。
自慢にはならない苦い思い出である。
リンは両親が離婚して父親と暮しているが、成績は超優秀でスポーツもできる天才児である。
父は教師だが裕福ではない。
友人のグレースは印刷会社の娘で、可愛くて性格も良さそうだが頭脳の方は出来が悪い。
恋人のパットは裕福な家の生まれだが、どうやらグレース以上に頭が悪い。
彼らがリンから答えを教えてもらう手段がユニークで観客を楽しませる。
4択のマークシート方式なので、ピアノを弾く指の動きで教えるという着想が面白い。
バンクという天才男子学生が登場するのだが、この男子学生は正義感の持ち主ながら共感できる存在ではない。
それはいくら不正をしている相手とは言え、仲間を密告するというこの年代では一番嫌われる行為を行っているからである。
バンクの家は母子家庭で、母親がクリーニング店を経営している貧しい家庭の為、彼は母親の手伝いをしながら勉強している苦学生である。
本来なら同情されるであろう立場なのだが、前述のこともあり感情移入は出来ない。
結局彼は金の為にカンニングビジネスに加担することになるのだが、正義感あふれるバンクの変節ぶりはこの映画の魅力でもある。
主人公のリンが最終的に改心するのは当然に思うが、最後に見せるバンクの態度は驚きだ。
僕はタイの国情を知らないが、見ている限りにおいては貧富の格差は大きく、学歴社会でもありエリートは海外留学しているという印象である。
時差を利用したカンニング場面になるとサスペンスの様相を呈してくる。
携帯電話のラインを使ったり、鉛筆にバーコードを印刷したりと、アイデア満載で楽しめるのだが、どうも乗り切れないものがあるのはどうしてだろう。
主人公のリンが根暗的に見えるし、何だか悲壮感を感じてしまって身につまされてしまうからだったように思う。
もう少し、スカッとした作品にすれば傑作になっていたような気がする。