おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

少年時代

2019-08-04 09:16:33 | 映画
「少年時代」 1990年 日本


監督 篠田正浩
出演 藤田哲也 堀岡裕二
   山崎勝久 小日向範威
   岩下志麻 細川俊之
   河原崎長一郎 三田和代
   仙道敦子 大滝秀治
   芦田伸介 大橋巨泉

ストーリー
昭和19年10月、戦況の逼迫する中、東京の小学校五年生だった風間進二は、富山に縁故疎開することになったが、ひ弱な優等生タイプの進二は学校ではよそ者扱いを受ける。
富山で最初に進二に近づいてきたのは地元のリーダー武で、田舎での生活に不安を抱き始めていた進二は、そんな武に親しみを感じるのだった。
ところが武は学校でよそ者扱いされる進二を無視し、自らも進二に対しい高圧的な態度で接してきた。
進二は武の矛盾する態度が理解できないまま、皆の前では召使いのような扱いに甘んずるのだった。
年が明けたころ、進二は東京からの荷物を受取りに行った隣町で悪童どもにからまれる。
だがそれを救ったのは武だった。
春になり、病欠していたクラスの副級長須藤が復学してきた。
武は須藤の巧みな策によって権力を失い孤立してしまう。
武はかつての取り巻きたちにまで屈辱的な仕打ちを受けたが、毅然とした態度を守り続けるのだった。
進二は今こそ真の友達として対等なつきあいが出来ると思って武に近づくが武は頑なに進二を拒んだ。
やがて終戦となり、進二が東京に帰る日が来た。
叔父や叔母、級友たちが見送りに来てくれたが、その中に武の姿はなかった。
汽車が走り出し、もはやあきらめかけていた時、少し離れた田んぼの道を必死に手をふりながら走る武の姿があった。
進二も夢中で手をふりかえしたが武の姿はみるみる小さくなっていったのだった。


寸評
少年時代とはこの映画を見る者にとっては思い出の世界のはずだ。
僕は戦後っ子で、空襲も知らないし、疎開も経験がない。
しかし少年時代はあったわけで、この作品で描かれた少年たちの世界は間違いなく存在していた。
映画はそんなノスタルジーの世界を演出するように、セピア調の画面の中で物語を進めていく。
冒頭で父親の細川俊之が「田舎はいい人たちばかりだ」と言って進二(藤田哲也)を送り出す。
ラストでは迎えに来た母親の岩下志麻が「何事もなくてよかった」と言う。
父親の言ういい人たちとは、疎開者に対して親切にしてくれる叔父たち一家のような大人たちであり、母親の言う何事もなかってとは、命があってよかったの意味で、子供たちの間にあった出来事は知る由もない。
子供たちは彼らなりの世界の中でいろいろな問題を引き起こし、彼らの世界でそれらを解決していたのだ。
描かれていた懐かしさを感じる出来事は、今はすっかり年を取ってしまった僕にはノスタルジーを感じさせた。

疎開先は叔父の家だが、門柱には靖国の家の札が掛かっており、この家の息子は戦死していることが分かる。
進二は一人で疎開してきたので、ばあちゃんが「東京で皆が死んだらこの子が一人だけ残る事になる」と現実めいたこと言って母親たちを不安がらせる。
実際、東京大空襲はあったわけで、ばあちゃんの言った通りのことが起こらないとも限らなかった時代だ。
しかし子供は与えられた環境に順応していくたくましさを持っている。

ここからは進二と武(堀岡裕二)の奇妙な関係が描かれる。
武は級長を務め、子守をするなど家の手伝いもするしっかり者だ。
ガキ大将でもあり、進二には皆の前では辛く当たったりするのだが、二人の時は格段の親切を見せるのである。
となり村での進二のピンチには一人で助っ人に駆けつける義侠心も持っている。
どうもこれは進二を独り占めしたい感情の表れで、進二と同じく親戚筋に当たる美那子(小山篤子)が現れ、大人たちの仲良くしたら良いとのはずんだ声を聞いて、それまで上手に描いていた飛行機の絵にバッテンを入れる行為に出ていた。
同じ5年生という大阪から疎開してきている美那子は武にとってはライバルの登場だったのだ。
武が度々他の子供たちに、進二には構うなといった行動をとるのもその独占欲の現れだったのだろう。
しかし進二は美那子に言われた言葉で変心する。
弱虫と言われ、ガキ大将に取り入っていると言われ、武にも反発を見せ始める。
女の子を前にした、少年とはいえ男のプライドを見せる誰しもに心当たりのあるシーンだ。
写真館のエピソードがラストを飾り、見送る武の姿が目に焼き付くいいエンドだった。

振り返れば、僕の少年時代にもK.T君というガキ大将がいた。
彼よりも早く帰ることを許さず、早く帰ろうものなら子分たちを引き連れて追ってきた。
この行為は母親たちの抗議と、彼の転居でなくなったが、学芸会の発表会にはわざわざ駆けつけてくれて皆が喜んだことを思い出す。
初恋とともに、僕の少年時代を飾る思い出である。


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