おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

舞踏会の手帖

2021-10-28 07:49:59 | 映画
「舞踏会の手帖」 1937年 フランス


監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ
出演 マリー・ベル
   フランソワーズ・ロゼー
   アリ・ボール
   フェルナンデル
   ルイ・ジューヴェ
   ピエール・リシャール=ウィルム

ストーリー
秋も終わろうとする11月のイタリア、クリスチーヌは年かさの夫の野辺の送りを済ませたばかりである。
非常に人の良い夫ではあったが、年齢が離れすぎていた為にクリスチーヌは夫に愛を感じないままであった。
美しい若妻をいとおしむ余りか、夫は彼女に何人との交際も許さなかったのだ。
36歳のクリスチーヌは、もう一度人生を新しく出直そうと、夫の形見をすべて召使達に与え、思い出の品を炉に投げたところ、その中から一片の手帖が落ちる。
それはクリスチーヌが一人前の女として初めて舞踏会に出た折の、ダンス相手の男の名を書き記したものだ。
あの時の十人の若者達は、どうしているのであろう。
十六歳のクリスチーヌが秘かに愛を感じたジェラール。
瞼に浮かぶのは美しいシャンデリヤのもと、甘いワルツの曲に乗って、白いレースの裳も軽く、踊りに酔った20年昔の舞踏会だ。
亡き夫の秘書であったブレモンに頼んで、十人の男達の住所を調べて貰うと、その二人はすでに他界していた。
そして皮肉にもジェラールだけが、住所が解らない。
思い立った事だ、クリスチーヌは旅装を整えた。
先ず訪れたのはジョルジュの家だが、ジョルジュは20年前クリスチーヌの婚約を聞いた時自殺していた。
次はキャバレーの経営者となっているピエールだったが、今はジョウと名も変わって、夜盗団の采配を振る前科者で、ヴェルレーヌの詩を誦した昔日の面影はすでに失せていた。
ピアニストのアラン・レニョオルを訪ねると、今は神父ドミニックであった。


寸評
フランス映画の古典であるが完成度の高さに驚かされる。
オーバーラップの使い方やカメラワークは素晴らしいと思うし、雪崩のシーンなども迫力が出ている。
モノクロ画面に映し出される20年前のダンスシーンは美しい。
結果的に8人を訪ねることになるが、最初に訪ねたのはジョルジュ・オーディエの家で、彼はクリスチーヌの結婚を聞き自殺していた。
ジョルジュの母親はその事で気が変になってしまい、いまでも息子が生きているものと思い込んでいる。
年取ったクリスチーヌを当時のクリスチーヌの母親と思い込んで話し込む姿が痛々しい。
 2番目に訪ねたのはキャバレーの経営者となっているピエール・ヴェルディエだ。
ヴェルレーヌの詩を誦したやり取りが観客をホロっとさせるが、昔日の面影はない。
場所がキャバレーということで、フロアでショーが繰り広げられているが、ショーの女性が半裸なのが驚きだ。
日本映画において初めて女優が全裸になったのは1956年の前田通子とされているから、その点でもフランス映画は進んでいたと言える。
 3人目はピアニストだったアラン・レニョオルだったが、今は神父ドミニックとなっている。
彼はクリスチーヌ16歳の時、すでに40歳の高齢だった。
秘かにクリスチーヌを愛していたが、年齢に引け目を感じてストレートに伝えることが出来ず、自分の気持ちをそれとなく伝えていたのだが、クリスチーヌには伝わっていなかった。
自分の気持ちが上手く伝わらず、相手の女性に打ちひしがれるような態度を取られることはありそうなことだ。
 4人目の山岳ガイドとなっているエリック・イルヴァンと「過去のことを語るのではなく未来について語ろう」と言われていい雰囲気になるが、結局彼は彼女を置いて遭難者の捜索に出かけてしまう。
ただ彼が言う「当時は近寄りがたいものがあったけど今は話せる」という気持ちは分かるような気がする。
恋をしていた頃のクリスチーヌには恋い焦がれすぎて素直になれない所があったのだろう。
 5番目に訪ねたのは政治家志望だったフランソワ・パテュセで今は町長になっている。
全体の中では喜劇的要素を持ったパートとなっている。
女中と結婚式を挙げるところで、相手の女性がクリスチーヌと対局にいるような女性というのが面白い。
養子にした息子が不肖の息子となっているのは結末への伏線だろう。
 6番目のマルセイユで医師となっているチェリー・レナルは既に反狂乱の廃疾者だ。
内縁の妻にも暴力をふるうほどで、発作が起きた彼はどうやら内縁の妻を射殺したように思われるが、もしかしたら拳銃自殺したのかもしれない。
 7番目は生まれ故郷で理髪師になっているファビアンである。
手品が趣味の彼は娘にクリスチーヌという名前を付けているが、名付けた気持ちは分からぬでもない。
二人は懐かしい会場で催される舞踏会に出かけるが、クリスチーヌはそこで16歳の若い女性を見つける。
それはかつての自分の姿だ。
 そして最後に彼女が愛したジョルジュなのだが、湖の対岸に住んでいて亡くなったばかりで屋敷も処分される。
一人息子が残されており、彼を養子として引き取るハッピーエンドが用意されているが、全体のエピソードを振り返ると、昔の面影を追っても期待外れになることが多いと言うことだろう。
それでも昔恋した相手に会いたい気持ちは消えることはない。


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2 コメント

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良くできていると思う (FUMIO SASHIDA)
2021-11-04 08:36:23
シナリオのお手本みたいな映画ですね。
新藤兼人の映画『ひろしま』は、これを基にしています。
新藤自身が言っています。
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同感 (館長)
2021-11-05 07:55:40
まったくその通りですね。
8人のエピソードを描き分けているのが素晴らしいと思います。
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