おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

トリコロール/赤の愛

2024-01-21 06:56:15 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2019/7/21は「シャイアン」で、以下「シャイニング」「シャイン」「灼熱の魂」「社葬」「ジャッカルの日」「Shall We ダンス?」「シャレード」「十三人の刺客」「十三人の刺客」「十二人の怒れる男」と続きました。

「トリコロール/赤の愛」 1994年 フランス / ポーランド


監督 クシシュトフ・キエシロフスキー
出演 イレーヌ・ジャコブ ジャン=ルイ・トランティニャン
   フレデリック・フェデール ジャン=ピエール・ロリ
   サミュエル・ル・ビアン マリオン・スタレンス
   ジュリエット・ビノシュ ジュリー・デルピー

ストーリー
ヴァランティーヌは、イギリスにいる恋人の電話を頼りにモデルの仕事をしながら毎日を送っている。
通りを隔てたところには司法試験を目指しているオーギュストが住んでいた。
ある夜、仕事帰りに飛び出してきた犬を車で撥ねてしまったヴァランティーヌは、犬の飼い主である初老の元判事ジョゼフ・ヴェルヌに謝罪しに出向いた。
幸いなことに犬は大事には至らなかったのだが、ヴァランティーヌは当面の間、犬の面倒を見ることになった。
そんな矢先、ヴァランティーヌは新聞の記事で弟が麻薬で逮捕されたことを知る。
やがて傷の癒えた犬は自らジョセフの自宅に戻っていき、ヴァランティーヌが彼の自宅を訪れそこで彼女が見たのは、恋人同士の会話、麻薬密売人、妻子がありながらもゲイの愛人を持つ夫などの会話を盗聴しているジョセフの姿だった。
判事を辞めて以来、無気力に生きてきたジョセフはいつしか盗聴を生き甲斐にするようになっており、ヴァランティーヌの弟の麻薬問題のみならず、弟と彼女の父親が違うことすらも言い当て、盗聴を止めるよう促すヴァランティーヌを冷たく嘲笑した。
そんなある日、ジョセフが盗聴容疑で告発されたことが新聞に掲載され、ヴァランティーヌは自分が密告していないことを伝えるためにジョセフに会いにいった。
しかしそれは、ヴァランティーヌを呼び寄せるためにジョセフ自身が自首して仕組んだことだった。
やがてヴァランティーヌはファッションショーにジョセフを招待、ジョセフはヴァランティーヌに自分が人間不信に陥った理由を打ち明けた。
ジョセフは若き日に恋人が他の男と情事に及んでいたのを目撃して以来すっかり心が折れてしまい、判事の仕事をしているうちに心を閉ざしていったのだった。
それからというもの、ヴァランティーヌとジョセフは少しずつ心を通わせ合うようになっていった。


寸評
インターネットが普及しSNSによって人々がつながる世の中になっているが、描かれた時代においては電話が人と人をつなぐ重要なツールだった。
登場人物たちは電話を通じてつながっている人たちで、電話の内容はお互いの愛を確かめ合うものである。
ヴァランティーヌの恋人はドーバー海峡を隔てたイギリスにいるので遠距離恋愛である。
相手の男からは頻繁に電話がかかってくるが、相手が口にするのはヴァランティーヌの浮気を疑うような言葉ばかりで、やがてヴァランティーヌは恋人の愛しているという言葉に不信感を抱く。
司法試験に合格したオーギュストは恋人から万年筆を贈られ幸せ一杯だったのだが、なかなか恋人と電話連絡が取れないので彼女の家に出向いたところ、彼女は他の男と情事に及んでいてショックを受ける。
一見幸せそうな家庭の夫はゲイの愛人に焼きもちの電話をかけている。
電話を通じて一見濃密につながっていそうでありながら、実は希薄なものであるかのようだ。
それを見透かしているのが近隣の人たちの会話を盗聴しているのが元判事のジョセフである。
ジョセフはヴァランティーヌと弟は父親が違うこと、弟は麻薬の常習者であることを知っていてヴァランティーヌを驚かせるが、元判事の立場から個人情報を入手していたのだろう。
彼は裁判を通じての経験値なのか、盗聴を通じて感じ得たことなのか、あるいはそのどちらにもによって彼らの未来を予言している。
夫婦はゲイである夫の秘密を知って離婚するだろう、オーギュストの彼女は裁判に出たことで男と知り合い別れることになるだろうとヴァランティーヌに告げる。
盗聴裁判への出席が彼らを結びつけるのだが、それは運命とも言うべき偶然の出会いがもたらしたものだ。
三部作は運命あるいは偶然と言うこともテーマになっていたように思う。
ここではジョセフもオーギュストも同じような偶然の出来事で司法試験に合格している。

ヴァランティーヌはカーラジオに気を取られてジョセフの犬を轢いてしまう。
そのことで二人は運命的な出会いをすることになる。
二人を結び付けたものは、お互いに持っていた、あるいは持ち始めた「愛への不信」という感情であったろう。
ジョセフは今の自分がある理由をヴァランティーヌに語る。
ヴァランティーヌはジョセフに「人間はもっと寛容よ」と語るが、寛容であることは容易なことではない。
人が寛容であるためには慈悲の心や博愛の心を持たねばならない。
それがどんなに難しいことであるかは世界で起きていること、狭くは僕自身を含めた身の回りで起きることを思えば容易に想像できる。
しかし、それでも僕は出来る事なら寛容でありたいと思っている。
ジョゼフは新聞記事でヴァランティーヌの乗ったフェリーがドーバー海峡で転覆事故に遭ったことを知り、慌ててテレビをつける。
奇跡的に救出された生存者はわずか7人で、その中には一命を取り留めたヴァランティーヌとオーギュスト、「青の愛」のジュリーとオリヴィエ、「白の愛」のカロルとドミニクの姿がある。
三部作の完結編らしい終わり方で、ヴァランティーヌととジョセフの再会を感じさせながら、ヴァランティーヌのコマーシャル・フォトと同じアングル、同じ表情、同じ赤の背景で終わるラストは見事な演出であった。


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