おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ボクサー

2023-03-16 09:43:48 | 映画
「ボクサー」 1977年 日本


監督 寺山修司
出演 菅原文太 清水健太郎 小沢昭一 春川ますみ 地引かづさ
   伊佐山ひろ子 新高恵子 名和宏 大泉滉 唐十郎 具志堅用高

ストーリー
熱気と興奮が渦巻くボクシングスタジアムに、今日も隼の姿があった。
よれよれのレインコートに身を包んだ隼こそ、元東洋チャンピオンである。
過ぎ去った栄光の夢を追っているのかもしれないが、今はもう彼に気づく者は誰もいない。
隼が天馬と出逢ったのは弟の死が原因であった。
隼のたった一人の弟淑はビル解体の工事現場で、機械の故障による不慮の事故で死亡した。
そのクレーンを運転していたのが天馬である。
不幸にも同じ工事現場で働く仲間の事故、しかも同じ職場の女性みずえと淑は結婚を間近かにひかえていた。
そして天馬もみずえに恋心をいだいていたことから「わざとやったんだ」という心ない噂が、失意の隼の耳に伝わってきた。
「涙橋食堂」には毎日いろんな人が集まってきたが、天馬も常連の一人である。
食堂に来た隼は、天馬がボクシングジムに通っていることを知る。
天馬はチャンピオンを夢みて沖縄から上京していて、初試合の日が迫っている。
毎日のハードな練習も効果なく、天馬はマットに沈んでしまった。
彼の不自由な片足に限界をみたジムは天馬を見捨てる。
ジムを追われた天馬は隼を訪ね、チャンピオンになりたい一心で隼に頼みこむが、隼は何度も断った。
しかし、天馬の熱意に胸を開いたとき、隼の顔には笑顔がもどっていた。
隼と天馬のトレーニングが始まり、そして天馬にチャンスがやってくる。
東日本新人王決定戦をひかえて、トレーニングにも熱がはいり、天馬は予戦を勝ち抜いた。


寸評
天満は足首が悪くてフットワーク上のハンデとなっているのだが、そのハンデをいかにして克服していくのかというプロセスがないので盛り上がり感に欠けている。
トレーナーの隼も視力が低下しているようなのだが、それが物語に全くと言っていいほど絡んでこないのも消化不良を引き起こしている。
うがった見方をすれば、当時現役世界チャンピオンであった具志堅用高のシャドーボクシングと、清水健太郎のそれとの切れの違いを隠すために足を不自由に設定したのかもしれないと思うし、清水健太郎とのバランスから菅原文太も視力が落ちていることにしたのではないかと思わせる。
それでもボクシングファンだった寺山修司が監督しているので、東映らしからぬ独特のテイストがあり、寺山修司のボクシングに対する造詣の深さもうかがえる。
木場の水上に浮かんだ丸木の上でトレーニングする姿などは日本のトレーニングらしくていいシーンだ。
ボクシングファイトのシーンになると、一応の水準は満たしているものの、このような場面の描き方、撮り方はアメリカ映画に一日の長があるなと感じさせた。

隼は現役時代に勝てる試合で戦いをやめてしまったのだが、その理由が「やめたくなったからだ」というものなのだが、その延長線上に今の隼があるはずなのに、それがよく見えない。
安アパートでビラ貼りなどの仕事で暮らしているようなのだが、そうなった経緯もよくわからない。
妻とは別れているようなのだが、娘とは交流を持っているし、妻もよりを戻したそうだ。
この家族関係もなんだかよくわからない。
娘の描かれ方が、どこか訳アリ風になっているが、彼女が嘘の言い訳をして天満の試合を見に来ず旅立っていく余韻も僕には浮いたものに感じてしまった。
「涙橋食堂」に集まってくる連中は、大泉滉をはじめよくわからん連中なのだが庶民であることに間違いはない。
そこで繰り広げられる彼等の姿は物語とは直接の関係はない。
浮世離れした庶民の生活が作品とマッチングしていない感じなのだが、あれは寺山修司のアングラ劇団的なお遊びだったのだろうか。
兎に角、彼等は下町のヒーロー的な天満を応援している。
駆け出しのボクサーはこのような人々に支えられているのかもしれない。

印象に残り、驚かされたのは人生の最後を不幸な結末で締めくくったボクサーの名前が読み上げられたことだ。
名前を知っているボクサー、例えばピストン堀口、大場政夫などだが、特に戦後間もない頃のボクサーの亡くなり方に衝撃を受けた。
今となっては日本ボクシング上の歴史的人物となってしまった、かつてのチャンピオンたちの姿が懐かしい。
ファイティング原田、海老原博幸、柴田国明、西城正三などが観客としてほんのわずか姿を見せるのだが、ボクシングファンでもない僕でも「あー、いたいた・・・」と懐かしく思えた。
ラストシーンはちょっとドラマチックすぎるとは思うが、清水健太郎が菅原文太に倒れ掛かったところのストップモーションで終わるのはよかった。
寸前の血を流し張れ上がった清水健太郎のメイクが効いていた。


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