おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

友よ、静かに瞑れ

2024-01-15 06:45:38 | 映画
「友よ、静かに瞑れ」 1985年 日本


監督 崔洋一
出演 藤竜也 原田芳雄 倍賞美津子 林隆三
   佐藤慶 高柳良一 六浦誠 成田三樹夫

ストーリー
沖縄の小さな港町・多満里、一見うらぶれた感じのする男・新藤(藤竜也)がホテル“フリーイン”に車を止めた。
彼は旧友・坂口(林隆三)がこの町の再開発を企てている下山建設の社長(佐藤慶)に刃物で襲いかかって逮捕されたという新聞記事を読んで、はるばるやって来たのだった。
フリーインはその坂口が経営するホテルで、彼は下山建設の大規模な買収に応じず、執拗ないやがらせや脅迫にも屈していなかった。
その坂口を逮捕したのは下山建設と癒着している徳田刑事(室田日出男)だ。
フリーインは、フロント係・小宮(高柳良一)が坂口の留守をあずかり、それに町のクラブ“KENDO”を経営する坂口の愛人・志摩(倍賞美津子)とそこで働く時枝(宮下順子)、静子(中村れい子)、留美(伊藤麻耶)、冴子(JILL)が住みついていた。
新藤は事件の真相を探るべく単独で動きだし、やがて事件の真相が分かった。
夜。寝ていた新藤は突然、下山建設のチンピラ・石井(中西良太)に拳銃をつきつけられ、外に連れ出された。
その危機を救ったのは意外にも下山建設の開発部長・高畠(原田芳雄)だった。
彼は男として、坂口や新藤の心情が理解できるが、立場上、二人と対立しなければならないことに、じくじたる思いを抱いていた。
新藤が必死になって坂口を釈放させようとするのには理由があった。
船医の新藤は坂口の命が肺ガンであと数ヵ月だと知っていたのだ。
新藤は徳田と下山建設との癒着の証拠を徳田につきつけて坂口を釈放しようとする。
深夜、新藤は下山建設の事務所に行き、高畠との凄絶な死闘の末、証拠書類を手にした。
坂口が釈放され、新藤、息子の竜太(六浦誠)が坂口を迎え、その様子を下山たちが見守っていた・・・。


寸評
崔洋一が手がけたハードボイルド映画であるが、題名が示す通り静かな作品で少々退屈する。
内容からすればテンポが遅すぎたように感じる。
その分、ホテル“フリーイン”やクラブ“KENDO”の雰囲気は上手く引き出せており、シュワブの町の描写が沖縄の雰囲気を十分に感じさせている。
下山建設はリゾート開発での儲けを企んでおり、地上げを推し進めている。
ただ一人、坂口だけは反対しており、立ち退きに判を押していないことで嫌がらせを受けている。
バブル期などではよく描かれたヤクザ組織と結託した企業による地上げを背景としている。
当初は反対していた住民も今は立ち退きに賛成していると語られるだけで、下山建設あるいはヤクザによる悪どい仕打ちは描かれていないので、下山に対する反感はあまり湧いてこない。
住民は実勢価格の倍で買ってくれて次の住む場所まで世話をしてくれていると下山建設を擁護している。
下山建設側に買収された者たちなのだろうが、坂口の為に開発が出来ないことを責めているから、描き方として善悪をはっきりさせているというものではない。
フリーインやKENDOも住民から嫌われて客が寄り付かなくなっている。
これでは住民は坂口を迷惑に思っていて、誰も彼を支持していないという状況に見える。
下山建設のリゾート開発を阻止する理由付けが弱いように思える。
映画は藤竜也と原田芳雄が殴り合うシーンまではムードだけを醸し出して進んでいるような印象である。

新藤は逮捕監禁されている旧友の坂口を助け出しに来ているが、坂口は一向に姿を現さない。
最後の最後になってやっと姿を現すが、最後まで一言も発しない。
まったくセリフなしの描き方はユニークで面白いと思った。
倍賞美津子によって坂口が下山を襲った理由が語られているが、それが伏線となってラストを迎える。
そして藤竜也も余命が3ヶ月ほどになっている坂口にやりたいことをやらしてあげたいと言っていたことが、倍賞美津子の発言に加えて二重の伏線となっている。
懐に入れた手からこぼれたのはレモンだ。
レモンは学生時代に新藤と坂口が半分ずつかじり合った果物で、竜太がきらいな食べ物だ。
坂口との友情と、竜太の成長を示す小道具として印象深い。
顔をそむける竜太に父親の死にざまを見せるのも、倍賞美津子の発言が伏線となっている。

共演者の中では倍賞美津子もいいがやはり原田芳雄が渋い。
藤竜也の新藤が「俺も坂口も、もう捨てるものはないと思っていた。ところが、あいつは何か背負っていた。ずり落ちそうなら、支えてやろろうかと思ったわけだ」と言う。
原田芳雄の高畠は「俺もあんたも坂口さんももう下り坂だからね。だから、何か背負ってないと転がり落ちて、すぐに爺さんになっちまうからよ」と返す。
若くはない僕にはジーンとくるものがある会話だ。
二人が殴り合う場面はなかなかの迫力であったが、最後のシーンを撮りたいためにムード作りをしてきたことが静かな映画と感じさせたのだと思う。


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