おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

家族

2019-03-10 10:06:44 | 映画
「家族」 1970年 日本


監督 山田洋次
出演 倍賞千恵子 井川比佐志 笠智衆
   前田吟 富山真沙子 春川ますみ
   寺田路恵 三崎千恵子 塚本信夫
   梅野泰靖 花沢徳衛 ハナ肇

ストーリー
東シナ海の怒濤を真っ向に受けて長崎湾を抱く防潮提のように海上に浮かぶ伊王島。
貧しいこの島に生まれた民子と精一が結婚して10年の歳月が流れ、剛、早苗が生まれた。
精一には若い頃から、猫の額ほどの島を出て、北海道の開拓集落に入植して、酪農中心の牧場主になるという夢があったが、自分の会社が潰れたことを機会に、北海道の開拓村に住む、友人亮太の来道の勧めに応じる決心をする。
桜がつぼみ、菜の花が満開の伊王島の春四月、丘の上にポツンと立つ精一の家から早苗を背負った民子、剛の手を引く精一の父源造、荷物を両手に持った精一が島を出る。
北九州を過ぎ、列車は本土に入り、福山駅に弟の力が出迎えていた。
苛酷な冬と開拓の労苦を老いた源造にだけは負わせたくないと思い、力の家に預ける予定だったが、狭い2DKではとても無理だった。
家族五人はふたたび北海道へと旅立ち、やがて新大阪駅に到着し、乗車する前の三時間を万博見物に当てることにしたが、結局入口だけで引返し、この旅の唯一の豪華版である新幹線に乗り込んだ。
東京について早苗の容態が急変し、救急病院に馳け込むがすでに手遅れとなり早苗は死んでしまう。
東北本線、青函連絡船、室蘭本線、根室本線、そして銀世界の狩勝峠、旅はようやく終点の中標津に近づいていった・・・。


寸評
僕がこの映画の一番好きなところで、しかもいつも大泣きしてしまうところがある。
それは笠智衆の息子で井川比佐志の弟役である前田吟が、福山の駅で別れたあと涙を流しながら車を運転するシーンだ。
狭い団地に住んでいる彼は、引き取りたくても父を引き取れない。
ちょっとした手土産を渡すのがやっとだ。
そんな自分を思ってか、帰りの車を運転しながら涙を流す。
ぬぐってもぬぐっても流れる涙を止めることができない。
自分を育ててくれた家族がいる一方で、自分がまず守らねばならない家族がいて、してあげたいと思っても出来ない父へのいたわり。
僕には、そんな彼の気持ちが痛いほどわかって、いっしょに泣くことしかできない。 

典型的なロードムービーで日本列島を縦断するような形で物語が進行していく。
その間に起こる出来事はこの家族がしょってしまっているのか辛いことばかりである。
北海道には連れて行く気のなかったおじいちゃんも結局連れて行かざるを得なくなる。
田舎者の彼らには大阪万博も、梅田の地下街も疲れるだけのものでしかなかった。
持参している金額のこともあって贅沢はできない旅である。
東京では末娘の早苗が死んでしまう。
どうしてこんなにも不幸がこの家族に訪れてしまうのかと思う悲しい出来事だ。
早苗の死は今後の不安も重なって、家族間に、特に夫婦間に波風を立てる。
夫の精一には家族を養う責任がある。
見込みのない故郷の伊王島を捨てたが、目指す北海道で成功が約束されているわけではない。
そんなイライラが民子に辛く当たらせるが、民子は家族を守っていかねばならない。
普段は大人しいおじいちゃんは精一の父親でもある。
不甲斐ない精一を「お前がしっかりしなくてどうする」と叱り飛ばす。
笠智衆は日本のおじいちゃんといった感じで、いつもながらいい味を出す。

やっとの思いで北海道についた一家は歓待を受ける。
おじいちゃんはその喜びの表現として酔った勢いで炭坑節を歌う。
朴訥としたその歌声はなぜか心にしみる。
しかしそれでもこの家族に最後の悲しみが覆いかぶさる。 悲しい物語だ。
まったく明るさの見えない物語だが、最後にあすへの希望を描き出す。
それが子牛の誕生だ。
民子のお腹にも新しい生命が宿っている。
新し生命が、やっと、やっと、この家族に光を照らす。
倍賞千恵子の弾んだ声がいつまでも耳に残る。
僕はやっと救われたような気分になれた。


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