おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

緋牡丹博徒 鉄火場列伝

2023-02-06 07:54:00 | 映画
「緋牡丹博徒 鉄火場列伝」 1969年 日本


監督 山下耕作
出演 藤純子 鶴田浩二 丹波哲郎 若山富三郎 待田京介 里見浩太郎
   河津清三郎 疋田泰盛 古城門昌美 西田良 八尋洋 三島ゆり子
   中村錦司 榊浩子 五十嵐義弘 名和宏 天津敏

ストーリー
明治中頃の四国徳島。
緋牡丹のお竜(藤純子)は、子分清吉(高宮敬二)を重病のまま刑務所から出迎えたものの、折からの嵐の中で途方に暮れてしまった。
そんなお竜を救ったのが江口(待田京介)だった。
だが清吉は世話になった藍の小作人茂作(中村錦司)の家で他界してしまう。
その頃、百姓たちは地主である旦那衆にしいたげられて、小作料争議を起していた。
ところが旦那衆は江口を代表とする交渉を拒否し、さらに鳴門川一家の鳴門川兼蔵(天津敏)は旦那衆の命によって悪くどい仕打ちに出た。
鳴門川は四国一帯に勢力を伸ばす観音寺親分(河津清三郎)と手を結び、徳政一家を乗っ取ろうとしていた。
そんな折、茂作の息子猪之吉(五十嵐義弘)がイカサマをしたことから、江口が傷つけられ、千吉(里見浩太郎)が殺された。
遺体を引取りに来たお竜に対し、鳴門川、それに千吉の親分武井(名和宏)の殺気がみなぎった。
だが、居合わせた三次(鶴田浩二)の機転で事なきを得、お竜は窮地を救われた。
三次から鳴門川の悪事を聞いた武井はお竜と手を結び、観音寺を敵に回した。
そんなある日、清吉に怨みを持つ博徒の小城(丹波哲郎)がお竜に迫った。
だが、小城はお竜の態度に好意を抱き、勝負をあずけた。
お竜が熊虎(若山富三郎)を尋ねて道後へ向った留守の間に、鳴門川と観音寺は武井を闇討ちにし、阿波踊りの当日を迎えた。
三次は、武井に対する恩義から大尽賭博の真っ只中に乗り込んだが斬られてしまい、小城の看病のかいなく死んでしまったことでお竜の怒りは爆発し、阿波踊りに興ずる鳴門川を倒した。
一方、お竜から事の一部始終を聞いた熊虎(若山富三郎)も観音寺の前で盃を割ると容赦なく斬り込んだ。


寸評
「緋牡丹博徒シリーズ」は藤純子の名を不動にした人気シリーズで全8作があり、山下耕作は1作目とこの5作目を担当している。
本作の脚本に笠原和夫がシリーズ中で唯一参加しており、「鉄火場列伝」は山下耕作と笠原和夫の作品と言えるのかもしれない。
加藤泰の作品に盲目のおきみという少女が登場し人情物の要素を盛り込んでいるが、シリーズ中で一番人情物として成り立っているのがこの「鉄火場列伝」だと思う。
反面、他の作品で見られるお竜とゲストスターとの間に生まれる思慕の感情は薄められている。
鶴田浩二の仏壇三次は渡世のしきたりで叩き切った男の遺児である”お香代”を我が子として育てているが、最後には実の父親を殺した男なのだと告げてほしいと言い残して死んでいく。
お香代は実の両親を亡くし、三次にも死なれ、引き取って育ててくれそうな江口の妹・由美(三島ゆり子)とけなげに阿波踊りを踊ることで涙を誘おうとしているのかもしれないが、それにしては三次とお香代の描き方は消化不良感が拭えない。
母恋物語としてはお香代の実の母がすでに死んでいたことなどでエピソードが不足気味のように感じる。

緋牡丹のお竜は通り名の通り右肩に緋牡丹の刺青を施しているのだが、その刺青を見せることは稀で、本作では斬られた肩口の間からわずかに見える緋牡丹を披露している。
お竜の小太刀による立ち回りなどに工夫を見せているものの、そこに至るまでの盛り上がりは任侠映画としてはもう少し用意されていても良かったのではないかと思う。
任侠映画の見どころは、主人公が我慢に我慢を重ね、ついに堪忍袋の緒が切れて殴り込みに行くところにある。
「鉄火場列伝」では阿波踊りの雑踏の中でお竜が鳴門川に拳銃を突きつけて路地に連れ出すところから最後の大立ち回りに入っていくという展開で、感情の高まりを味わう時間を我々に与えてくれていない。
お竜は兄弟分の四国道後の熊虎親分の助けを借りて殴り込みをかけているのだが、宿敵の一人である観音寺は熊虎親分によって成敗されている。
観音寺一家相手に大暴れしている熊虎親分の結末が描かれていないので、そちらは一体どのような決着を見たのか結論が欠落している。
最初に観音寺に一撃を加えているので仕留めただろうことは想像できるのだが、その後も乱闘は続いていたのだから、やはり最終決着は示すべきだった。
お竜と鳴門川の対決は熊虎親分の活躍と同時並行的に描かれているが、最後は因縁があって決着が持ち越されていた小城によって後始末をつけてもらっている。
小城はどのようにして後始末したのだろうか。
山下耕作は任侠映画の傑作「総長賭博」を撮っているが、そこでの名和宏の描き方をここにも持ち込んでいる。
最初は主人公に敵対してそうな雰囲気を出しているのだが、最後には改心したかのような振る舞いを見せて殺されていくという役回りである。
完全な悪役が圧倒的に多い名和宏だが、山下作品においてはいい役回りを得ている。
鶴田浩二、待田京介をダブル・ゲスト的に描いたことで中身が散漫になってしまったことは否めない。
藤純子の大きな瞳はこの頃最盛期だった任侠映画の華だった。


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