おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ゼロ・ダーク・サーティ

2019-09-09 09:42:33 | 映画
「ゼロ・ダーク・サーティ」 2012年 アメリカ


監督 キャスリン・ビグロー
出演 ジェシカ・チャステイン
   ジェイソン・クラーク
   ジョエル・エドガートン
   ジェニファー・イーリー
   マーク・ストロング
   カイル・チャンドラー
   エドガー・ラミレス
   ジェームズ・ガンドルフィーニ
   クリス・プラット
   フランク・グリロ
   ハロルド・ペリノー
   レダ・カテブ

ストーリー
CIAは巨額の予算をつぎ込みながらも9・11テロの首謀者ビンラディンの行方を掴めずにいた。
そんな手詰まり感の漂うビンラディン追跡チームに、情報収集と分析能力を買われたまだ20代半ばの小柄な女性分析官マヤが抜擢される。
マヤは中東を専門に扱い、さっそくCIAのパキスタン支局へ飛んだ。
マヤはアメリカ同時多発テロ事件に関連して捕らえたテロリストの過酷な拷問にも立ち会い、取り調べの過酷な現実に戸惑いを見せる。
そんなマヤの奮闘もむなしく捜査は依然困難を極め、その間にも世界各国で新たな血が次々と流されていく。
捕虜の尋問から、ビン・ラディンの連絡係であるアブ・アフメドという名を聞き出すマヤ。
だが、上司の支局長はその情報の信憑性を疑い、頻発する自爆テロの阻止を優先した。
アルカイダの医師を買収し、情報を聞き出そうとするCIAだったが、会談場所に現れた医師は身体に爆弾を巻いた偽物で、自爆によってマヤの同僚のジェシカが死亡した。
さらに、アブ・アフメドがすでに死んでいるという情報も、マヤにもたらされた。
膨大な情報の解析から、アブ・アフメドの本名が割り出され、死亡情報は誤りだと訴えるマヤ。
懐疑的だった上層部もついに折れて、アブ・アフメドの親族の電話番号を知るために大金が使われた。
電話の盗聴から、アブ・アフメドの居所がパキスタンだと特定された。
さらに追跡を続け、アブ・アフメドがアボッターバードという町の屋敷に住んでいることが判明した。
この屋敷にビン・ラディンがいると確信し、及び腰な上層部に攻撃を訴え続けるマヤ。


寸評
冒頭に9・11で死にゆく被害者の声を集めた音声だけの映像(?)が流れる。
かなりの時間を割いているが、画面は真っ暗なままであの日の記憶を呼び起こす。
日本語字幕がないところもあり、僕に語学力が有ればその効果はさらに増長されていただろう。
アルカイダ及びウサマ・ビンラディンに対する憎しみを植え付けるが、我々よりも米国人にとっては尚更のものが有るに違いない。
ではこれは「復讐」を賛美し、さらには国威発揚を図るプロパガンダ映画なのかというとそうではない。
映像が流れだしてから延々と続く卑劣な拷問は、人格を無視した内容で気分的に滅入ってしまい、むしろ国家の威信失墜を象徴しているようですらあるのだ。
水攻めというひどい拷問も行われており、後半に入ると非人道的な捕虜の扱いに異を唱えるオバマ大統領のニュース映像が挿入される。
CIAという組織のある意味でスゴイ部分を見せられるのだが、どうしても日本の現状を想像してしまう。
日本はスパイ天国とも言われ、CIAのような組織はない。
あれば、このような行動がとれる部門と人員を作り出さねばならない。
情報を得るためには超高級車のランボルギーニも与える組織活動に目を見張ってしまう。
前半ではアルカイダ撲滅に向かって暗躍する国家組織の姿に日本人の僕は目が釘付けとなってしまうのだ。

ビンラディンを殺すという発言が度々発せられて、この作戦はビンラディン探索計画ではなくビンラディン殺害計画だったのだと知らされる。
それでもその後に起きた数々の自爆テロやらを見せられると、やはり首謀者の抹殺は妥当だと思ってしまう。
マヤの同僚の女性ジェシカが情報提供者になりすました人物の自爆テロによって殺害されてからは、拷問に戸惑い気弱になっていたマヤがビンラディン殺害に執念を燃やすようになる。
復讐の鬼と化すようになるマヤの変化に疑問を挟めないような説得力がある。
上司に食って掛かる強い女に変質するのは、別な視点で見れば恐ろしいことなのだと思う。
ビンラディンの捕縛作戦当日の内容などは興味深いし描き方にも本物らしく見せる緊迫感が有る。
否応なしに襲撃作戦に興奮を覚えてしまうのだ。
襲撃班は抵抗する敵をためらいもなく射殺していく。
やらなければ自分たちがやられるのだから当然の行為なのかもしれないが、男性であろうと女性であろうと容赦なく、さらにはためらいもなく止めの銃弾を撃ち込んでいく(さすがに子供たちを殺すことはない)姿にゾッとする。
その冷徹な行動の背後にあるものにも恐ろしいものを感じる。
憎しみが憎しみを呼ぶ負の連鎖を見てしまうのだ。
そして場内の暗転がおわり明るさが戻った時、僕たちは戦争に潜む快楽の罠に気づかされるのだった。
ラストで「どこへ行くのか?」と問いかけられたマヤの標的の消えた喪失感を漂わせる顔を思い起こすと恐ろしくもあった。
ビンラディンを殺害したが、アメリカを敵とみなす組織のジハードは終わるわけではない。
20世紀が戦争の世紀だとすれば、21世紀はテロとの戦いの世紀になるのだろう。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿