おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

マルサの女

2020-04-22 14:39:40 | 映画
「マルサの女」 1987年 日本


監督 伊丹十三
出演 宮本信子 山崎努 津川雅彦 大地康雄
   桜金造 松居一代 室田日出男 汐路章
   上田耕一 小澤栄太郎 佐藤B作 橋爪功
   伊東四朗 大滝秀治 マッハ文朱 絵沢萠子
   高橋長英 芦田伸介 小林桂樹 岡田茉莉子

ストーリー
税務所の調査官、板倉亮子(宮本信子)は、小柄で顔がソバカスだらけの不美人だが、脱税を徹底的に調べるやり手だった。
ある日、彼女は一軒のラブホテルに目をつけ、そこのオーナー権藤英樹(山崎努)が売り上げ金をごまかしているのではないかと調査を始める。
権藤には息子の太郎(山下大介)と内縁の妻、杉野光子(岡田茉莉子)がいた。
権藤は一筋縄ではいかない相手で、なかなか証拠も掴めない。
そんな時、亮子はマルサと呼ばれる摘発のプロとして国税局査察部に抜擢された。
マルサとしての調査経験を積んでいった亮子は、上司の花村(津川雅彦)と組んで権藤を調べることになった。
ある時、権藤の元愛人、剣持和江(志水季里子)から、彼の今の愛人である鳥飼久美子(松居一代)が毎朝捨てるゴミの袋を調べろとタレコミの電話が入った。
亮子たらは清掃車を追いかけ、やっとのことで証拠の書類を見つけた。
権藤邸をガサ入れする日が決まり、当日の朝、出かけた光子を亮子は尾行。
権藤邸に花村たちが入った途端、連絡を受けた他の何人かが権藤の取り引き先の銀行、久美子のマンションを同時にガサ入れする。
光子の見張りを交代して権藤邸に向かった亮子は、権藤と喧嘩し、大金を持って飛びだした太郎を追いかけ慰め邸に戻ると、調査はほぼ完了で証拠は何もつかめていなかった。
権藤を中心にした暴力団・政治家・銀行が絡んだ大型脱税との戦いが始まった・・・。


寸評
マルサと言う言葉を一般化させた作品だと思うし、軽快な音楽が耳に残る一級のエンタメ作品である。
脱税捜査を行う通称マルサの活躍を描いているが、脱税者と査察のやり取りが内幕物としての面白さを十分すぎるぐらいに描いている。
板倉亮子は当初税務署の調査官だが、ソバカス顔でいつも寝ぐせの頭をしているシングルマザーというキャラクターが印象深い。
税務署時代は飲食店やパチンコ屋の売り上げ除外を摘発するが、飲食店の老夫婦なんか庶民かそれに毛が生えた程度で、巨悪に挑んでいると言う感じではない。
それでも店の総菜を自分たちの食事に供しているのは売り上げ除外で、ダンナへの売掛金として処理し会社(店)は修正申告、一家は店に代金を支払うことになる。
老夫婦は自分たちのような者からではなく、もっと悪どい奴から取ればいいと息巻くのだが、亮子は「悪どい奴はどこの誰だか教えてほしい!」と食って掛かる。
庶民側の気持ちも、税務署側の気持ちもわかるやり取りだ。

権藤と言う役名は山崎努のデビュー作である黒澤明の「天国と地獄」で彼が敵対視する男の役名で、伊丹十三は多分にそのことを意識してオマージュとしているのかもしれない。
この男は悪徳政治家やヤクザとも交流を持っている言わば悪者なのだが、キャラクターとして憎しみが湧かない。
彼は脱税を繰り返し蓄財しているのだが、一方で個人的贅沢をしているわけではない。
子供にも贅沢させていないし、持っていた大金を盗んだのではないだろうなと問い詰めている。
息子を愛してそうだし、どこかまともなところがあり、経営しているホテルへのこだわりにおいても夢を追いかけている男なのである。
見ていると脱税をするという行為そのものを楽しんでいるようでもある。
片や脱税のプロ、片や脱税摘発のプロで、お互いにプロ同士の尊敬の様なものが湧いてくるのが面白い。
権藤が「あんたプロだね。俺、そういうの好きだよ」という一言がそれを物語っている。

暴力団関東蜷川組の組長・蜷川喜八郎の芦田伸介は、交通事故で負ったトレードマークの様な傷を生かし、凄みのあるヤクザを見事に演じている。
「5000万が大金か大金でないかは感覚の問題だろ」と凄む姿が板についていた。
津川雅彦は中年の中間管理職を演じて、新たな境地を開いたように思う。
若かりし頃に演じた日活時代の優男のイメージは全くない。
査察が一斉捜査に入る状況も楽しませる。
査察とはこのようにやるのだなと言う内幕物の面白さを上手く描けていた。
権藤はプロとしての亮子に愛情を感じていたのだろう。
忘れていったハンカチをずっと持っていたし、彼女を誘い、断られると彼女に手柄をプレゼントしている。
権藤の足が悪いのはキャラクター上のものだったのだろうか。
不自由である必要性を感じなかった。
それにしても、これは内幕物としては一級の娯楽作品になっていることだけは確かだ。


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