おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

寒い国から帰ったスパイ

2022-07-26 06:51:06 | 映画
「寒い国から帰ったスパイ」 1965年 アメリカ


監督 マーティン・リット
出演 リチャード・バートン
   クレア・ブルーム
   オスカー・ウェルナー
   ペーター・ヴァン・アイク
   シリル・キューザック
   ウォルター・ゴテル

ストーリー
イギリス諜報部の連絡員の1人が“ベルリンの壁”のイギリスの検問所のすぐ近くで射殺された。
おりしも、東ドイツの諜報機関の主任で、かつてのナチ党員ムントの残忍な行動がますます激しくなっていたときだった。
イギリス諜報部のベルリン主任リーマスはただちにロンドンに呼びもどされた。
そこでリーマスはある目的のために、イギリス諜報部を馘になった野良犬になることをいいわたされた。
やがて、リーマスは酒びたりの日々を送るようになった。
やがてリーマスは彼が勤めた小さな図書館に働く娘ナンと愛し合うようになった。
そして、ある日リーマスは下宿屋の主人と小さなトラブルを起こして、傷害罪で投獄された。
イギリス諜報部では、出獄してきたリーマスを再び呼びよせ、東ドイツへの潜入を命じた。
目的は、ムントがイギリスの諜報部員であるという証明をつくりあげ、ムントに疑惑の眼を向けるユダヤ人の部下フィドラーにそれを告発させるというものだ――むろん、それには裏があるのだが……。
やがて、東ドイツ人アッシェがリーマスに近づき、リーマスは逆スパイとして東ドイツのフィドラーのもとに送られたが、思惑どおりフィドラーは、リーマスの証言を得て、ムントが敵のスパイであることを最高議会で告白した。
だがムント側の弁護士は証人としてナンを呼び、ナンの口からリーマスが東ドイツへ潜入する直前イギリス諜報部と連絡をとっていたことを聞き出した。
事態は逆転しリーマスと、フィドラーは逮捕された。
が、その夜リーマスは、ムントに導かれて、ベルリンの壁に向かっていた。
ナンに聞かれるままリーマスはことの真相を告げた。
実はムントは、もともとイギリス諜報部のスパイだったのだ・・・。


寸評
スパイものとしては追いつ追われつの逃走劇もカーチェイスもアクションも無い。
演出や音楽も地味な作品である。
したがって痛快娯楽作品とはなっていない。
反面、そのことによって東西冷戦下の最前線の緊張感が伝わってくる作品となっている。
名優リチャード・バートンの重厚で陰鬱な演技がリアル感を醸し出している。
東西冷戦下のベルリンは自由主義圏と共産主義圏によって分断され、ベルリンの壁によって分離統治されていた特殊都市で、そこでの両陣営の諜報活動が描かれているのだが、人間関係とか目的とかが分かりづらい。
僕の理解力とか想像力とかが不足しているためなのかもしれないがスパイ物としての緊張感に欠けているような気がする。
リーマスは図書館に働く娘ナンと愛し合うようになるが、恋愛物ではないのでその経緯は深く描かれていない。
やがてナンは重要な役割を担うようになるが、彼女の立場も消化不良を起こすような描き方に感じた。

ムントの抹殺を目的としていながら、対象のムントは終盤まで登場しない。
そのせいもあって、東側の裁判という場でムントが登場してからの急展開は観客を引き付ける。
ムントと権力争いをしているフィドラーがリーマスの送金に関する証言をもとにムントを告発する。
ムントを葬り去ることに成功するかと思われたところでナンが呼ばれ形勢は逆転するのだが、ナンの戸惑う様子が生々しい。
フィドラーが出世欲に駆られていたということで逮捕され、リーマスもイギリスのスパイであるとして逮捕されてしまうとい逆転劇が起こる。
そしてそこから更なる大逆転劇が起きて、ムントによりリーマスは救出されることで事の全体像が浮かび上がるという仕掛けである。
リーマスは逃亡のための車中でスパイという仕事の暗部をナンに語る。
その上で二人は西側への逃亡を図るのだがナンに悲劇が起きる。

壁の向こうではリーマスに乗り越えてこいと待ち構えている西側の諜報部員が待ち構えているが、リーマスはナンのもとに向かい射殺されてしまう。
結局、リーマスはタイトルとは違って寒い国(東ドイツ)から帰れなかったのだ。
最後は純愛物のような結末となっているのだが、ナンを撃ったのは脱出を手伝った男だから、秘密がバレルのを防ぐためにナンは殺されたのではないかと思う。
国家という組織の中にあっては、大勢の国民の安全を図るために、一人の命など見捨てられてしまうという非情を感じさせた。
管理官が、時として東側よりも冷酷なことをしなくてはならないと語っていた通りのことが起きたと言うことだ。
ナンが撃たれ、リーマスも共に射殺されるという悲劇の結末のためには、もう一工夫欲しかったところだ。
ドラマ的に盛り上げる演出を排除している所がこの映画の魅力になっていることは理解できるのだが、でもやはり見終った後の喪失感の様なものは感じたかったなあ・・・。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿