おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

彼らが本気で編むときは、

2024-08-26 06:58:34 | 映画
「彼らが本気で編むときは、」 2017年 日本


監督 荻上直子
出演 生田斗真 柿原りんか ミムラ 込江海翔 門脇麦
   柏原収史 品川徹 江口のりこ 高橋楓翔 小池栄子
   りりィ 田中美佐子 桐谷健太

ストーリー
小学5年生の少女・トモ(柿原りんか)は母・ヒロミ(ミムラ)と貧しい母子家庭で暮らしていた。
ヒロミはろくに家事をしないのでアパートの部屋はいつも散らかしっぱなしで、トモは毎日コンビニのおにぎりを一人寂しく食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、ヒロミは突然男を追って蒸発、取り残されたトモは叔父のマキオ(桐谷健太)が経営する書店に駆け込んだ。
現在、マキオはトランスジェンダーの介護士・リンコ(生田斗真)と同棲しており、最初のうちはリンコに馴染めなかったトモも次第にリンコの優しさに触れていった。
トモはリンコが作ってくれた美味しい料理に舌鼓を打ち、今まで一度も味わったことのない“家族団らん”を初めて体感していた。
ある朝、学校を休んだトモが目を覚ますとリンコとマキオは出勤しており、机にはトモの朝食と昼食の弁当が用意されており、部屋の中には何やら用途不明の毛糸の編み物が置かれていた。
公園で弁当の蓋を開けてみると、それは生れて初めてのキャラ弁だった。
荷物を取りに自宅へ戻ったトモのところに、近所に住む同級生・カイ(込江海翔)が現れた。
トモはカイが学校中でゲイの疑いをかけられるようになってからは距離を置いていた。
その後、トモは時間の経った弁当を無理やり食べてお腹を下し、それを知ったリンコは謝罪の意も込めてトモを抱きしめようとしたが拒否されてしまった。
帰宅したトモの元に、リンコの母・フミコ(田中美佐子)が再婚相手のヨシオ(柏原収史)を連れてやってきた。
ある日、トモがリンコとスーパーに行くと、そこではカイが母・ナオミ(小池栄子)と一緒に買い物をしていた。
リンコを変質者扱いするナオミにキレたトモは売り物の洗剤を彼女にブチまけ、警察沙汰となった。


寸評
トランスジェンダーと家族の在り方を静かに語りかけてくる、これまで撮ってきた癒し系ではないが荻上監督らしい作品だ。
性転換手術をしていることを除けば、リンコは介護士としてごく働く普通の女性だ。
彼女は心の整理もついているので、偏見や差別にも耐えることが出来る。
リンコと対比的に描かれるのがトモと親しかったカイだ。
カイは自分の意識は女性であることを言い出せないでいる。
柔道着を斬ることや水着姿になることを嫌っているが、親を含めた周りの大人たちはその事に気づかないでいる。

それぞれの親も対照的に描かれる。
カイの母親である小池栄子はリンコを差別的に見ていて、カイの変化にも無知である。
カイの変化に罪深いとさえ告げる。
自死しようとした子供に対する言葉だから、彼女は間違った愛情を注いできた母親と言える。
児童相談所に密告したのも彼女らしいことが匂わされる。
自分の差別意識を自覚しておらず、逆にいい人ぶって自己陶酔しているような所がある人だ。
自分は正しいと信じている厄介な人の代表者である。
一方の凛子の母親である田中美佐子はリンコの良き理解者だ。
子供として愛しており、リンコを苦しめたら承知しないとトモに脅しをかけている。
息子の変化を受け止め、今では娘として接している。
ズケズケとトモにも語り掛けるが悪意はなく憎めない人だ。

トモはリンコとの生活に馴染めなかったが、やがて疑似親子として心を通わせるようになる。
実の母親から愛情を注いでもらっていなかったトモは家族の一員となっていく。
それでもやはり実の親の方がいいのだ。
リンコにとっては辛い現実を突きつけられたことになる。
最後でトモはリンコが編んだ毛糸の“おっぱい”に触れる。
リンコの母がリンコの為に編んだ“おっぱい”の代わりであり、トモが触れたリンコの“おっぱい”の代わりでもある。
その感触は愛にあふれた母親からの贈り物だったのだ。
トランスジェンダーに対する差別を声高に叫ぶことはなく、受け入れてもらったリンコと理解されないカイ、受け入れたリンコの母と受け入れられないカイの母、煩悩を燃やしたマキオの母とこれから燃やそうとしているリンコ、相対する二人を描きながら静かな筆致でそれぞれの家族を描いていたのは荻上直子らしい演出であった。
トランスジェンダーに対する無理解を訴える唯一とも言えるエピソードが、リンコの入院時の対応である。
トモは悔しさと怒りをかみ殺して必死で編み物をする。
病院の対応は、やはりおかしいと思う。
気になるのはカイのその後である。
あの母親はカイを理解できるとは思えず、カイは結局家を出て行かざるを得ないのではないかと思う。
家族の形はそれぞれだが、子育ては難しいものだとも思わされた。


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