おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬

2020-05-20 09:03:38 | 映画
「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」 2005年 アメリカ / フランス


監督 トミー・リー・ジョーンズ
出演 トミー・リー・ジョーンズ
   バリー・ペッパー
   ドワイト・ヨーカム
   ジャニュアリー・ジョーンズ
   メリッサ・レオ
   フリオ・セサール・セディージョ

ストーリー
米テキサス州。メキシコ人カウボーイのメルキアデス・エストラーダ(フリオ・セサール・セディージョ)は、ある日突然、山間にある放牧場で銃弾に倒れる。
彼の遺体を目にした同僚のカウボーイ、ピート・パーキンズ(トミー・リー・ジョーンズ)は、生前のメルキアデスと交わした、彼が死んだら故郷ヒメネスへ運んで埋める約束を思い出した。
まずピートは、この殺人事件を闇に葬ろうとする地元警察官に憤りを感じ、自ら必死になって犯人を捜す。
そして、赴任してきたばかりの国境警備隊員マイク・ノートン(バリー・ペッパー)がメルキアデスを誤って撃ち殺したことを突き止めた。
ピートはマイクを拉致し、メルキアデスの遺体をラバに担がせ、以前メルキアデスに見せられた故郷ヒメネスで家族と撮ったという写真と地図を頼りに、メキシコへと向かう。
マイクの誘拐を知った警察と国境警備隊に追われながら、長く苛酷な旅が続く。
その間にマイクの妻ルー・アン(ジャニュアリー・ジョーンズ)は、ひとりテキサスの町から去ってしまった。
そしてようやくピートは、写真に写っていたメルキアデスの妻であるはずの女性を見つけるが、彼女には別の夫がおり、メルキアデスのことを全然知らないという。
しかも地元の住人たちは、ヒメネスという村など存在しないと言うのだ。
困惑するピートだったが、とある場所をヒメネスだと思い込み、そこでメルキアデスの葬儀を行なう。
そしてマイクを釈放すると、ひとり馬に乗ってその場を離れるのだった。


寸評
国境を描いた作品に時たま出くわすが、それはベルリンの壁だったり、中東の紛争地域だったりしたのだが、アメリカとメキシコの国境にも大きな隔たりがある。
金網で仕切られた場所もあるようだが、多くはここで描かれた地続きの場所なのかもしれない。
目に見えない線で分けられているその地域は、一方は富める町で、一方は貧困にあえぐ村である。
メキシコからテキサスへ人々は富を求めて移動している。
作中でもあちらで働いていたと話す若い女性が登場し、この辺ではみな英語も話せると言う。
メルキアデスもそんな不法移民だった。
あまりの流入の多さに大統領候補だったトランプ氏は「メキシコ国境にメキシコ負担で万里の長城の様な壁を築く」と宣言したくらいだ。
テキサスからメキシコへと境界を越える目的のほとんどが逃亡だと思われる。
ピートも警察、警備隊に追われながらテキサスからメキシコへと入っていく。
逃亡の道連れは死体のメルキアデスと、そのメルキアデスを射殺してしまったマイクだ。
この異様な三人の組み合わせと、国境近辺の殺伐とした風景が作品を覆いつくしている。

若いマイクが赴任した場所はテキサスの片田舎の様で、娯楽も少なく離れた場所にあるショッピングセンターへ行くのが気晴らし程度の町だ。
マイクの妻はそこへ出かけるが、マイクは一緒に買い物に出かけない。
殺したメルキアデスのことが気になっているようでもあるが、ここでの生活で夫婦間に亀裂が生じかけている。
刺激のないこの町の所帯持ちの女たちは別の男と寝ることが楽しみの一つになっているようだ。
ほっておくとマイクの若い妻もやがてそうなってしまうのかもしれない危うさを持っている。
結局彼女はこの町を一人で去ってしまった。

一種のロードムービーとも見て取れるが、その場合の重点は旅の友とか、出会った人々との心の交流あるいはトラブルなどが描かれるのが常である。
出会った人で印象に残るのが盲目の老人である。
老人は貧しいながらもピート達を優しく迎え入れるが、別れ際の頼み事として「殺してくれ」と申し出る。
敬虔なキリスト教徒である彼は自殺は神に背く行為なので、殺してくれと切望したのだが、ピートは自分も神に背きたくないとそれを断る。
命の大切さをやんわりと描き、老人は追ってきた警備隊に逃亡者など見ていないと告げるが、その見えない目はピートらの旅の無事を祈っていたように思えた。

妻にさえ最低だと思われたマイクも最後には何かに目覚めたようで、去っていくピートに「一人で大丈夫か」と声をかけることでそのように思わせるが、無事帰っても妻はもういないのである。
ピートは旅を通じて家庭を持ちたいと思ったのだが相手は拒絶した。
ピートは孤独な日々をどこで送るのだろうかと思うと、男の約束を果たしたピートの後姿が思わず泣ける。
トミー・リー・ジョーンズの初監督作品だが、老獪な演出が見て取れた力作であった。


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