おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

不信のとき

2023-02-21 08:46:43 | 映画
「不信のとき」 1968年 日本


監督 今井正
出演 田宮二郎 若尾文子 加賀まり子 岸田今日子 岡田茉莉子
   三島雅夫 永井智雄 長谷川待子 笠原玲子 水木正子
   菅井きん 原泉 柳渉

ストーリー
結婚十年目の浅井(田宮二郎)は、妻で書家の道子(岡田茉莉子)と二人で暮らしていた。
子供はおらず、商事会社の宣伝部で働いている。
そんなある日浅井は、取引先の印刷会社の小柳社長(三島雅夫)に誘われて行ったバーでマチ子(若尾文子)と出会い、その日のうちに関係を持ってしまう。
一方、小柳老人もヌードスタジオの少女マユミ(加賀まり子)に惹かれ、老いらくの恋を楽しんでいた。
やがて、浅井は宣伝部長に昇格し、日頃「あなたの子供を産みたい」と言っていたマチ子は、清水市の病院で女児を出産し、浅井は子供が生まれた文化の日にちなんで文子と命名した。
喜ぶ浅井だったが、今度は妻の道子から妊娠したと告げられる。
妻には子供ができないと信じていた浅井にはショックだった。
同じ頃、小柳はマユミが自分の子供を出産してくれたと有頂天になっていた。
初夏になり、弟の義道(柳渉)に伴われたマチ子が文子を連れだって上京した。
だが、二人の関係は以前のようにしっくり行かなかった。
やがて、道子も予定通り出産し、マチ子はそれを知ると子供を預け、再び働きに出るようになった。
それから一年半が過ぎた。
道子の書が日展に入選したという喜びの直後、浅井はマチ子の家で急性盲腸炎で倒れた。
マチ子は機転を利かせ浅井をタクシーに乗せ自宅へ送り届けさせる。
病院に入院した浅井は道子とマチ子が鉢合わせしないように取り繕っていた。
そんなある日、美千子が文子を連れて見舞に訪れたマチ子を待ち受ける事態が発生する。


寸評
今ならDNA鑑定によって問題解決が図られそうなものだが、制作当時においてはこのような状況だった。
僕はベストセラーとなった有吉佐和子の原作を読んでいないが「不信のとき」とはよく付けた題名だ。
観客が抱く不信感は最後まで拭い去られることはなかった。
それは三人の女性が産んだ子供は本当は誰の子供だったのかと言うことだ。
三人の女性が子供を産んでいるが、浅井の妻道子の告白によって浅井は勿論、観客も不信感を抱くようになる。
マチ子は浅井を愛していたのかどうか、文子は浅井の子供なのかどうか?
過去に関係のあった人妻の千鶴子(岸田今日子)の連れていた子供は誰の子か?
人物的には自分勝手な行動のために身動きが取れなくなっていく浅井も面白い存在だが、何といっても若尾文子のマチ子がしたたか女で映画を圧倒する。
時にしおらしく、時に打算的な女、時に荒々しい女として魅力的に描かれている。
妻の道子はプライドが高く古風な女で世間知らずなところがあるのに、こちらもいざとなれば豹変する。
若尾文子、岡田茉莉子の対決は見ものである。
デパートの屋上で遊ぶ楽しそうな家族ずれを眺め、自分のふがいなさに沈んでいるように見える浅井が最後に見せるラストシーンの笑いは何だったのか。
千鶴子から、今連れている子供が浅井の子供だと言われて浮かべた自嘲的な笑いだったのか、幸せそうな家族の連れている子供も誰の子か分かったものではないと言う開き直りの笑みだったのか。
僕は今井正に社会派の左翼的監督のイメージを持っている。
青春映画の「青い山脈」でも戦後民主主義を高らかに謳い上げているし、冤罪事件の恐ろしさをリアルに描いてずさんな警察の捜査を告発し、社会派映画の代表的傑作となった「真昼の暗黒」や大手製作会社に断られるなどの苦労の末に完成にこぎつけた「橋のない川」などもある。
反面、娯楽色豊かなヒット作も数多く撮っており、この映画もその中に入ると作品である。
キネマ旬報ベストテンの常連監督だったが、晩年は不遇だったように思う。

「不信のとき」はポスターの序列問題で、田宮二郎が大映を退社し五社協定により干されたことでも記憶される。
宣伝ポスターの原案において、田宮の名が4番手扱いになっていた。
その序列は、大映の看板女優若尾文子がアタマ、2番目が松竹専属の女優加賀まりこ、トメ(最後)が岡田茉莉子(東宝や松竹で活躍後、当時は独立系の映画を中心に出演)で、田宮はトメ前となっていた。
田宮は誰が見ても大映現代劇のトップ男優であり、彼にとってこの序列は譲れない大問題であった為、撮影所長に抗議したが、「私の首にかけてもこの序列を変えることはない」と断られた。
田宮は大映社長の永田雅一と直談判し、「主役のお前がアタマに書かれるのが当たり前や」となった。
しかし「首をかけてもと撮影所長に言われたのだから、俳優の私が辞めるか所長が辞めるかしかない」と田宮が言うに及び、永田雅一は「おい、お前は横綱・大関クラスの役者だと思っているんだろうが、まだ三役クラスの役者だ。人事に口を出すな」と憤慨し、結果的に刷り直したポスターの序列は希望通り田宮がトップとなったが、永田は田宮を解雇し五社協定を持ち出して田宮を使わないように通達した。
田宮はその後、精神的に変調をきたしながら「白い巨塔」という傑作テレビドラマを残すが、結局猟銃自殺を引き起こしてしまった。


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