おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

半世界

2021-09-21 07:07:00 | 映画
「半世界」 2018年 日本


監督 阪本順治
出演 稲垣吾郎 長谷川博己 渋川清彦
   池脇千鶴 竹内都子 杉田雷麟
   信太昌之 菅原あき 堀部圭亮
   牧口元美 小野武彦 石橋蓮司

ストーリー
生まれ育った地元の山中の炭焼き窯で備長炭を作り、なんとなく父から受け継いだ仕事をやり過ごすだけの日々を送る39歳になる炭焼職人の高村紘(稲垣吾郎)。
紘には家庭もあり、反抗期真っ只中の息子・明(杉田雷麟)もいるが、父から受け継いだ備長炭づくりを生業としているだけで、今の仕事に特別な思い入れがあるわけでもなく、先行き不安定な仕事を理由に家の事はすべて妻の初乃(池脇千鶴)に任せていた。
紘はそんな家族に対する無関心な姿を同級生・光彦(渋川清彦)に指摘されてしまう。
初乃は家計のこと、息子のことで頭がいっぱいで、絋が父親から継いだ“高村製炭所”は受注が減ってジリ貧、息子の高校進学も危うい状態。
その息子は悪い仲間からいじめられているようで、そのことを全く気にも留めない絋に初乃はいらだつ。
そんな単調な日常をただやり過ごすだけの毎日が続いていたある日、中学時代からの親友で、自衛隊員をしていた沖山瑛介(長谷川博己)が妻子とも別れて一人で突然の帰郷を果たす。
誰もいない実家に暮らし始めた瑛介は引きこもっていた。
同じ中学の同級生だった三人は久々に3人で酒を酌み交わす。
瑛介は何か深い事情を抱えているようだったが、多くを語ろうとはしなかった。
やがて瑛介は絋の仕事を手伝うようになった。
光彦が車の販売でヤクザともめていたので、瑛介は相手を叩きのめして警察沙汰となる事件が起きた。
紘と光彦は次第に瑛介が地元を離れてから過ごした過酷な経験を知り、人生の半ばを迎えた男3人にとって旧友とのこの再会が、残りの人生をどう生きるか見つめなおすきっかけとなる。


寸評
瑛介は元自衛官で海外派遣にも行っていたのだが、部下の早乙女が戦場での経験が原因で入水自殺したことに必要以上の責任を感じたことで家族との関係もおかしくなったようで、ひとりで生まれ故郷の空き家になっている実家に戻ってくる。
瑛介の見た世界は想像を絶する世界だったことはニュース映像などを見ている我々には容易に想像がつく。
それが現実の世界で、平和な日本に暮らしている我々の世界は半世界だと瑛介は感じている。
それに対し「こっちだって世界なんだ」と紘が叫ぶシーンは胸を打つ。
紘は備長炭の炭焼きを生業としているが、炭焼きも後継者がいない職業ではないかと思う。
そんな職業を据えたのは意表を突いた着想で、農業や漁業の後継者問題以上に斜陽産業に思われることが物語にハマっていると思う。
テレビを見ていると色んな人の過酷な実情や、つらい状況などが放映されることがある。
しかし、この人たちは大変だとの感想を聞くと、気楽な稼業のサラリーマンだってがけっぷちの世界で生きているのだと僕は叫びたくなる。
こっちにはこっちの世界があり、テレビに映る世界だけが大変な世界ではないと言いたくなる。
それぞれにはそれぞれが抱える世界があるのだ。

光彦は39歳になるがまだ結婚をしていない独り身である。
姉の麻里(竹内都子)は父親(石橋蓮司)よりも年上の藤吉郎(牧口元美)と結婚しようとしている。
紘は息子を全く気にかけていない風でもないのだが、どう接していいのか分からないので上手くいっていない。
瑛介は別れた息子のことが気になるようだが、戦場の後遺症なのか突如としてキレまくることがある。
三人はそれぞれに問題や悩みを抱えているのだが、幼なじみの親友同士とあって言いたいことを言い合える仲で、お互いを心配する関係でもある。
僕は3歳で母に連れられ実家に戻り、幼稚園は叔母の家に居候し、小学校は元の実家に戻り、中学校は転居したので彼らのような幼なじみと呼べる人はいない。
気安く家を行き来して、時には泊まり込むような彼らの交流を見ていると羨ましく思える。
瑛介は実家に住み着いてから暫くは心を閉ざして閉じこもっていたが、紘の炭焼きを手伝い三人で飲む機会を持ったことで急に饒舌になり早乙女のことを語りだす。
この急変に僕は違和感を持ったのだが、早乙女との関係が明らかになったことで、このシーンはこのシーンで意味があったのだと思えるようになった。

物語は幼なじみ三人の関係を描いていて、三人を演じた稲垣吾郎、長谷川博己、渋川清彦が熱演しているが、異彩を放っているのが初乃の池脇千鶴で、彼女の演技は輝いている。
生活の中での何気ない態度や、息子に突き飛ばされた時につぶやく「近づいてみたら大きかった・・・」と言うシーンに彼女の存在感がにじみ出ていた。
上手いし、貴重な女優である。
ラストシーンはある程度予測できたものではあるが、それでもホッとするし、明にサンドバッグを叩かせているのが何よりも良かった。


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