おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

竜二

2020-07-17 09:03:32 | 映画
「竜二」 1983年 日本


監督 川島透
出演 金子正次 永島暎子 もも
   北公次 佐藤金造 岩尾正隆
   小川亜佐美 菊地健二 銀粉蝶
   高橋明 檀喧太 大塚五郎

ストーリー
花城竜二(金子正次)は新宿にシマを持つ三東会の常任幹事だった。
新宿近辺のマンションに秘密のルーレット場を開き、舎弟の直(佐藤金造)とひろし(北公次)に仕切らせ、そのあがりで優雅にやくざ社会の中を泳ぎわたっている。
その彼も、三年前は器量もなく、イキがったり暴力を誇示した結果、拘置所に入れられていた。
妻のまり子(永島暎子)は竜二の保釈金を工面するため九州の両親に泣きつき、両親は竜二と別れるならという条件で大金を出してくれた。
竜二の器量があがったのはそれからだ。
安定した生活がつづいたが、充たされないものが体の中を吹きぬけて行く。
竜二はかつての兄貴分で、今は夫婦で小料理屋をやっている関谷(岩尾正隆)にその思いをぶっつける。
「金にはもうあきた。子供や女房に会いたい」という竜二に関谷は「俺はそう考えた時、俺自身を捨て、女房・子供のために生きようと決めたんだ」と言う。
そんなある日、竜二は、新宿のある店の権利金をめぐってこのトラブル収拾を組の幹部から頼まれた。
このトラブルを見事に解決した後、竜二はカタギの世界へ踏み込んでいった。
小さなアパートを借り、妻と娘とのごくありふれた生活が始まった。
かつてとは較べものにならないほどの安月給だが、竜二にとって生まれて初めての充実した生活だった。
三ヵ月経ったある日、かっての兄弟分・柴田(菊池健二)が、竜二をアパートの前で待っていた。
シャブ中で見る陰もなくやつれ果てている彼は、竜二に金を借してくれという。
これを期に、竜二の心の中に、焦りと苛立ちが芽生えるようになった・・・。


寸評
ヤクザ映画ではあるが縄張りをめぐる抗争や、その中で行われる凄惨な殺しの連鎖が一切描かれていない。
竜二は確かにヤクザ者だが、小市民でもあり、家族を持ったことで悩む男の姿を別角度から新鮮に描いている。
優しい笑顔を見せたかと思うと一転して凄んで見せたりするのだが、そのギャップの表情がすごくいい。
竜二がヤクザな男でいる時は眉間にしわを寄せるらしくて、娘のあやが同じ表情をするシーンが愛らしい(あやを演じたのは金子正次の実のお嬢ちゃんのももちゃんである)。
僕は学生時代に配送業のアルバイトをしていたことがあり、仕事仲間に今は堅気となりトラックの運転手をしているヤクザ上がりのAさんという方がおられた。
消した刺青が消えきれなかったのか夏でも黒い七分袖のシャツをいつも着ていて、普段は実に大人しい方だったがある時、丁寧なお願いをしたにもかかわらず無視する態度をとった相手を怒鳴りつけたことがあった。
その迫力にそれまで粋がっていたチンピラのような男が震え上がって車をどけたのだが、その時僕は普段の物言いとは違う本物のヤクザの怖さを垣間見たのだった。
竜二はその時の体験を思い出させてくれる人物である。
俺も昔は悪かったと嘘吹き、若頭に可愛がってもらったと自慢気に言う男の手の甲に煙草を押し付ける竜二の表情は素晴らしい(というよりスゴイし、怖い)。
竜二はこの時、堅気は無理だと悟り、堅気の生活と決別したのだろう。
まり子があやを連れて他の主婦と共に店に並ぶ姿を見て去っていくが、その前に竜二はすでに堅気生活との決別を決めていたのだと思う。

妻子は妻の実家に帰っていたが、竜二は妻と子供の為に足を洗って堅気になろうとする。
組に引退を宣告した竜二は舎弟の直とひろしと別れのグラスを傾けている。
切断に失敗した小指を見せる直は突然、大声で泣き出す。
竜二は直の肩を叩き、酒をついでやり、両脇の2人の頭を撫でてやる。
そして竜二のつぶやく声だけが流れてくる。
「花の都に憧れて、翔んで来ました一羽鳥、ちりめん三尺ぱらりと散って、花の都は大東京です。金波・銀波のネオンの下で、男ばかりがヤクザではありません、女ばかりが花でもありません。六尺足らずの五尺のからだ、今日もゴロゴロ、明日もゴロ、ゴロ寝さ迷う私にも、たった一人のガキがいました。そのガキも今は無情に離ればなれ、一人淋しくメリケンアパート暮らしよ。今日も降りますドスの雨、刺せば監獄、刺されば地獄。…私は本日ここに力尽き、引退致しますが、ヤクザモンは永遠に不滅です…」。
なんか心に響くつぶやきだなあ。
父親は借金を頼みに来たヤクザを夫に持つ娘に、長男やその妻の手前、無条件で金を渡してやれない。
男との手切れ金の金だと偽って渡している。
母親は挨拶に来た竜二に、正座して「何があっても・・・」と声を詰まらせ娘のことを頼む。親とはつらいものだ。
ヤクサ賛歌の映画ではないが、やはり人は自分が能力を発揮できる場所で生きるべきなのだ。
竜二は住み慣れた世界でイキイキすることを、妻のまり子はひろしと会った時の竜二に感じていたのだろう。
個性と能力を発揮できる場所がヤクザ社会なのはいただけないのだが・・・。
真っ暗なスクリーンに流れるショーケンの「ララバイ」を目をつむりながら聞いた。


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