おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

雁の寺

2022-05-20 07:11:51 | 映画
「雁の寺」 1962年 日本


監督 川島雄三
出演 若尾文子 木村功 高見国一 三島雅夫
   山茶花究 中村鴈治郎 万代峰子 菅井きん
   金剛麗子 荒木忍 寺島雄作 藤川準

ストーリー
洛北は衣笠山の麓、灯全寺派の孤峯庵は京都画壇の重鎮岸本南嶽(中村鴈治郎)の雁の襖絵で名高く、雁の寺ともよばれていた。
南嶽の愛人であった桐原里子(若尾文子)だが、南嶽の急死で里子の生活は一変する。
ある日、喪服姿の里子が山門を潜った。
南嶽の妾だったが、彼の死後、遺言により孤峯庵の住職慈海(三島雅夫)を訪れたのである。
慈海は里子のやわ肌に戒律を忘れた。
小坊主の慈念(高見国一)は若狭の貧しい寺大工の倅として育ち、口べらしのためこの寺に預けられ、宗門の中学校へ通っていたのだが、同じく貧しい家庭に生れた里子は、慈念に同情をよせるようになった。
ある夜、狂おしげにいどみかかる慈海との情事に耽溺していた里子は、障子に人影の走るのを見た。
慈念に覗かれていると知って、里子は愕然とした。
勉強がきらいな慈念の無断欠席をする日が多くなり、宇田先生(木村功)からそれを聞いた慈海は慈念を叱り、里子が庇うと、慈海は同情は禁物だといった。
若狭西安寺の住職(西村晃)から慈念の生い立ちを聞いた里子は、身をもって慰めようと彼の部屋に忍び入り、惜しげもなく体を与えたのだが、翌朝、慟哭する慈念の瞳が何事かを決するように妖しく光った。
夜更けに酩酊して帰った慈海は、何者かに襲われてばったり倒れた。
その夜明け壇家の平吉(伊達三郎)が兄の葬式を頼みに駆け込んだ。
里子は慈念を碁仇の源光寺に走らせたが、慈海はいない。
源光寺の雪州(山茶花究)は慈念の宰配で葬儀を出してやった。
棺桶の重さに不審を抱いた人々も、慈念の態度に気圧されたかたちで葬式は終ったのだが・・・。


寸評
モノクロ作品だが、タイトルが出る場面と最後だけはカラーとなる。
導入部がモノクロで描かれ、タイトルが表示されるときにパッとカラーになるときは衝撃が走る。
クレジットタイトルが終わると再びモノクロ画面となるのだが、この導入部で僕は作品に引き込まれた。
里子の女としての生きざま、住職と里子の愛欲生活、住職と小僧の慈念との葛藤、慈念の青春などを映画は描いていくが、どれも中途半端な感じを受けるものの住職役の三島雅夫のねっとりとした生臭坊主ぶりがいい。
キャスティングからして若尾文子の映画なのだろうが、彼女にこれと言った場面はないのだが、時々着物の裾が乱れてふとももがチラリと見えるシーンだけはエロチシズムがほとばしり官能的である。
この頃の映画には若尾が示したようなエロチシズムが画面上で展開されることが珍しくなかった。
直接的なシーンよりも遥かに想像を掻き立てる素晴らしい演出だと思うのだが、昨今はとんと見なくなった。

慈念を演じた高見国一のするどい眼光は印象深い。
彼は捨て子で両親の顔を知らない。
善良な寺大工の夫婦に育てられたが、貧しい家で子供も多かったことから口減らしのために寺に出された。
自分の過去を決して語らず、出自を知る若狭の寺の住職にも決して語ってくれるなと頼み込む。
その事が彼の青春にどのような影を落としたのかは分からないが、母親に対する慕情は人一倍強かったようであり、乞食村と称される貧しい村で育てられたことも彼には負い目となっている。
屈折した慈念の心の内を描いているとは言い難いが、無口だが鋭い眼光を持つ彼の表情でその事を表していて、時折彼が発する言葉が鋭く聞こえる。

里子の家も貧しく、彼女も実家に居ることはできず愛人とでしか生きていくことができない。
南嶽の愛人であったが、南嶽が寺にこもって鴈を題材にした襖絵を描いているのに付き添っているうちに、住職の慈海が彼女を見初めている。
南嶽が息を引き取るときに、あろうことか慈海に里子のことを頼んで死んでいく。
そこから慈海と里子の愛欲生活が始まる。
慈念はその様子を盗み見していたように思うが、彼が盗み見しているシーンはない。
里子はどのような気持ちからか慈念を可愛がるが、彼の若さに魅かれたのだろうか。
ある日、里子は慈念との関係で一線を越えるが、住職と慈念の間で苦しんでいる風でもない。
生きていくとに貪欲な女なのだろう。

慈念の決心は里子の愛欲に負けた為なのか、住職の厳しい仕打ちを恨んでのものか、それとも住職の俗人ぶりに愛想をつかしたことから来たものか。
慈念は自分の迷いを新しく住職としてやってきた宇田先生にぶつけるが明快な答えはない。
住職たちは厳しい戒律世界にいるが、一般人よりも俗人的である。

殺人と死体の処分だけは緊迫感が出ていた。
本作の出来を語るうえで村井博の絵画的な構図を意識した斬新なカメラワークは見逃せない。


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