おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ワンダフルライフ

2024-04-05 17:55:45 | 映画
「ワンダフルライフ」 1999年 日本


監督 是枝裕和
出演 ARATA 小田エリカ 寺島進 内藤剛志
   谷啓 伊勢谷友介 由利徹 横山あきお
   原ひさ子 白川和子 吉野紗香 志賀廣太郎
   内藤武敏 香川京子 山口美也子 木村多江
   平岩友美 石堂夏央 阿部サダヲ

ストーリー
月曜日。木造の建物の事務所に、所長の中村(谷啓)、職員の望月(ARATA)、川嶋(寺島進)、杉江(内藤剛志)、アシスタントのしおり(小田エリカ)たちが集まってきたが、彼らの仕事は死者たちから人生の中で印象的な想い出をひとつ選んで貰い、その想い出を映像化して死者たちに見せ、彼らを幸福な気持ちで天国へ送り出すというものだ。
火曜日。死者たちは、それぞれに印象的な想い出を決めていく。
戦時中、マニラのジャングルで米軍の捕虜になった時に食べた白米の味を選んだおじいさん、子供を出産した瞬間を選んだ主婦、幼少時代、自分を可愛がってくれた兄の為にカフェーで「赤い靴」の踊りを披露した時のことを選んだおばあさん、パイロットを目指してセスナで飛行訓練した時のことを選んだ会社員などなど。
だが、中には想い出を選べない人もいた。
渡辺(内藤武敏)という老人は、自分が生きてきた証を選びたいと言うが、それが何か分からない。
伊勢谷(伊勢谷友介)という若者は、あえて想い出を選ぼうとしなかった。
水曜日。今日は、想い出を決める期限の日だ。
望月は担当の渡辺に彼の人生71年分のビデオを見せることにした。
望月はモニターに映った渡辺の妻・京子(石堂夏央)の顔に一瞬目を奪われるのだった。
木曜日。撮影クルーの入念な打ち合わせの後、スタジオにセットが組まれ、撮影の準備が進んでいく。
金曜日。撮影の日である。渡辺も漸く想い出を選ぶことが出来た。
土曜日。死者たちは、再現された自分たちの想い出の映画を観て天国へと次々に旅立って行った…。
今週の仕事を終えた望月は渡辺からの手紙を見つけたが、そこには望月と京子のことが書かれていた。
実は、この施設で働く職員は皆、想い出を選べなかった死者たちで構成されており、先の大戦で京子の愛を確信するまでに到らないまま彼女と死別した望月は、彼女との想い出を選べないでいたのである。


寸評
ありそうな題材だが、それをドラマチックに描くのではなく、まるでドキュメンタリー映画のように撮っているので作品の在り方として新鮮に感じる。
所長の中村が「今週は先週よりも多い22名を送り出すことになる」と発表するので何が始まるのかと思っていると、あるおばあさんが昨日死んでいると伝えられることでこの映画の世界をイメージすることになる。
送り出される人たちは千差万別で色んな思い出を語り始める。
演じているのは内藤武敏や由利徹 、白川和子、伊勢谷友介など知った顔もあるが、市井の人が語っていると思われるような人も多くて、その自然な語りのシーンはドキュメンタリー番組を見ているような印象を受ける。
聞かれている内容は「人生の中で一番印象的な思い出は何か」ということで、見ている僕も同じ問いかけを自分自身にしていて、意識は画面に半分、自分の頭に半分となっている。
たった一つを挙げるとすれば・・・と思い出を辿ることになる。
幼少の頃からの成長過程での出来事、高校、大学の青春時代の甘酸っぱい思い出が頭をよぎる。
社会人として経験したこと、結婚とその後の家庭生活なども加えて、一番の思い出を探すが中々ひとつに決めきれず、もしかすると僕も一つを言えないのかもしれないと思ってくる。
たくさんありすぎる幸せな人生だったのかもしれないとも思うのだが、一つを挙げることの難しさにもぶち当たる。
苦しかったことが今となっては楽しい思い出ともなっているので随分と厄介な作業である。

渡辺と会話を交わす中で、望月は「私たちの世代は」という言葉を口にする。
そのことで望月も戦死している人物だと分かるのだが、アッと驚く急展開という風ではない。
告白される内容は興味深いものではあるが、ドラマ的演出を避けてきていたので、僕も知らず知らずあちらの世界に入り込んでいたのかもしれず、ごく自然にその事実を受け入れることが出来るようになっている。
川嶋も残してきた子供のことが気にかかり成仏できないでいる。
3歳の子供が成人するまで見届けるということで、この職員たちの立場が明確になるという脚本はよくできている。

語られた話を映像化する場面は興味津々だ。
ディスカッションは映画制作の現場そのもので、それぞれが撮影のアイデアを出しあって作品を撮りあげていこうとしているのにくすぐられるし、セットの撮影現場や飛行機と雲の特殊効果に工夫を凝らす場面などは、多分に楽屋落ち的なところがあって、16ミリで映画製作をした経験のある僕は随分楽しめた。

京子の愛を確信するまでに到らないまま彼女と死別した望月は、彼女との想い出を選べないでいたのだが、自分も人の幸せな想い出に参加していることの素晴らしさを知る。
望月がそのことを語るシーンに僕は感動すると同時に、僕が楽しい思い出としている青春の恋を、彼女も楽しい思い出としてくれているだろうかとの思いが頭の中をよぎった。
面白いのは、あちらの世界に行ってしまっているはずのしおりが秘かに望月に思いを寄せていることだ。
しおりはあちらの世界で一番の思い出を得たことになるが、それは彼女の行っている仕事と相容れないものだ。
そのふくらみがあればもっと面白くなっていたかもしれないなと思ったが、それだとこの作品のドキュメンタリー的演出は消え去り、ファンタジー恋愛ドラマに模様替えしてしまうから、やはりこれでよかったのだと納得。


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