おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

横道世之介

2021-12-25 12:02:39 | 映画
「横道世之介」 2012年 日本


監督 沖田修一
出演 高良健吾 吉高由里子 池松壮亮 伊藤歩
綾野剛 朝倉あき 黒川芽以 柄本佑
佐津川愛美 大水洋介 田中こなつ
井浦新 國村隼 きたろう 余貴美子

ストーリー
1987年。長崎の港町生まれの18歳、横道世之介(高良健吾)は大学進学のために上京。
人の頼みを断れないお人好しな彼だったが、明るく素直な性格で周囲の人々を魅了していく。
嫌みのない図々しさが人を呼び、倉持一平(池松壮亮)や加藤雄介(綾野剛)らと友情を育む。
一方、年上の女性・片瀬千春(伊藤歩)に片思いをしたり、あるいはお嬢様の与謝野祥子(吉高由里子)との間に淡い恋が芽生えたりと大学ライフを謳歌していた。
やがて世之介に起こったある出来事から、その愛しい日々と優しい記憶の数々が呼び覚まされていく……。


寸評
横道世之介という風変わりな名前をした長崎から上京した青年の大学生活と、彼と関わった何人かの人たちのその後をスケッチ風に描いていく。
世之介を中心にして彼等の青春模様を描いていくが、同時に遠い青春の日々をも回想している。
過ぎ去った青春時代や大学生活、そしてかつて経験した友情と恋愛。
これらが描かれる時、その映画にのめり込めるかは、その描かれた事柄に同化出来るかどうかだと思っている。
その視点から言えば、どうも自分の学生時代とは時代が違うのか素直に同化はできなかった。
僕がいたサークルは女性がいなかったし、集まれば飲んだくれてやたら議論ばかりしていたクラブだった。
バブルの前だったし、キャンパスは学生運動の嵐が吹き荒れていたのだ。
これはやはり70年代と80年代の時代背景の違いなのだろう。

それでも、あの頃はちょっとばかしの純真さや純粋さも持ち合わせていた。
真剣に悩んだり苦しんだ苦い出来事も、そこを通り過ぎて何年もたてば懐かしい思い出となってしまう。
しかしそれらは今の自分を作りだした貴重な経験であり、今現実に生きている自分を生み出した大きな要因になっていると思うのだ。
だから、いくつになっても青春映画は楽しい。

さて、映画は世之介の不思議な性格を生かすように、人を喰ったような会話で笑いを誘う。
それを増長させるがごとき吉高由里子のお嬢様役は得な役回りで、彼女は翔子を見事に演じていた。
世之介がどうなったのかが意外に早く明かされてしまい、ちょっと早すぎるんじゃないかと思ったりしたのだが、その後に描かれる内容を切ないものにするための脚本の冴えと思い改めた。
これといった大きな事件もない学生生活が2時間40分も描かれるのに、まったく飽きることがないのがスゴイ。

カメラマンにしては素人的すぎる写真の数々。
茶色いシミの様なものが写された意味不明の写真もやがて感動をもたらす。
途中で何度か友人たちの現在の姿が挿入されて、彼らが世之介について語るシーンがあるが、そこでの友人たちの顔は一様に輝いていて、それが横道世之介の魅力を象徴していた。
世之介とお嬢様の祥子との恋愛は何とも初々しく、アパート前の雪の中でのキスシーンは美しい。
それが美しいだ けでなく切なく感じられるのは、その前に明かされた事実があるからだろう。
それが脚本の妙だ。

一方で、モノローグで語られる世之介の母が述べる世之介の魅力がイマイチ描き切れていなかったなと少し不満に思うのだが、それがこれまた劇中で語られる「普通の人よ」に対する意図されたものと判断するなら、また違った評価が有るのかもしれない。
僕自身はなにかちょっと物足りなさを感じたのだけれど、「キツツキと雨」などを思い浮かべると、これは沖田修一という監督の作風なのかも知れない。


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