おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

四谷怪談

2021-12-26 08:52:43 | 映画
「四谷怪談」 1965年 日本


監督 豊田四郎
出演 仲代達矢 岡田茉莉子 中村勘三郎
池内淳子 大空真弓 淡路恵子
小沢栄太郎 三島雅夫 平幹二朗
永田靖 滝田裕介 中野伸逸

ストーリー
民谷伊右衛門(仲代達矢)は主家没落後、傘張り職人に身を落していた。
妻のお岩(岡田茉莉子)は、彼と同藩の四谷左門(永田靖)の娘であったが、左門はお家断絶の時、御用金を盗んだ伊右衛門を嫌い、お岩を連れ戻し離縁を迫っていた。
お岩の妹おそで(池内淳子)は、そんな一家を淫売宿に出て支えていた。
おそでには許嫁の佐藤与茂七(平幹二朗)がいたが、もと四谷家の仲間直助(十七代目中村勘三郎)は、おそでに横恋慕し、おそでのもとに足しげく通っていた。
按摩の宅悦(三島雅夫)から、お岩が淫売宿に出ると聞いた伊右衛門は、左門と口論になり左門を殺害した。
時を同じくして、直助は、偶然与茂七と再会したおそでの様子から恋の叶わぬことを知って与茂七を暗殺。
事件を知ってかけつけたお岩、おそでの姉妹は、何者かに闇うちされたと言う二人に仇討ち助太刀を条件にお岩は伊右衛門のもとへ、おそでは直助と仮の世帯を持つことになった。
ある日、高師直の家中で、裕福な暮しをする伊藤喜兵衛(小沢栄太郎)の娘お梅(大空真弓)はふとしたことから伊右衛門を見染め、喜兵衛に伊右衛門をぜひ婿にとすがった。
結婚を条件に仕官を推挙するという喜兵衛の言葉は、伊右衛門を有頂天にした。
お岩が邪魔になった伊右衛門は、喜兵衛にそそのかされて、お岩に毒薬を与えたが、死にきれないお岩を見て、宅悦の紹介で雇った小仏小平(矢野宣)に、お岩と不義密通した罪を押しつけて、二人を斬り殺した。
目的を果し、武士への道が開けた伊右衛門とお梅との祝言の夜、お梅にのりうつったお岩の霊に、伊右衛門は苦しめられ、遂にお梅を斬殺した。
おそでは、宅悦から事の真相を聞き、直助に伊右衛門を斬ってくれるよう頼んだのだが・・・。


寸評
怪談話と言えばまず挙げられるのがこの「四谷怪談」だろう。
数ある怪談噺の中で、僕が民谷伊右衛門、お岩、按摩の宅悦、お梅などの登場人物をスラスラ言えるのも「四谷怪談」だけである。
三大怪談の内、残る二つの「番町皿屋敷」、「牡丹灯籠」に関しては辛うじて主人公たる女性の名前ぐらいなので、いかに「四谷怪談」がポピュラーかということだ。
しかしその僕も、鶴屋南北の「四谷怪談」を完璧に理解できているわけではない。
ほとんどが書物によるあらすじだったり、多く作られている映画を通じてのもであるから断片的だ。
本作はその中でも原作に近いものらしい。
民谷伊右衛門はスマートないい男というのが僕のイメージなのだが、仲代伊右衛門は優男と言う感じではない。
前半では仕官に飢えた悪人という感じで違和感を感じていたのだが、後半になってくると仲代のトレードマークともいうべき目ん玉をむいて狂っていく様が決まっていて、僕はその変化が面白かった。
演者は松竹から岡田茉莉子を迎えるなどしてスターが並んでおり、今となってはそれら往年のスターを見ることができるだけでも楽しい作品である。

大空真弓のお梅が伊右衛門を見染めるのだが、どのようなことを通じて伊右衛門に恋い焦がれるようになったのかがわからないので、娘可愛さのあまりお岩殺害の一翼を担う父親としての四谷左門の心の内もイマイチ感じ取れない部分がある。
そこにいくと直助の十七代目中村勘三郎はやはり上手いなあと感心した。
足先を使って屏風を開ける仕草とか、嫌われながらもお袖を愛し続ける姿などは、悪役にもかかわらず感情移入できるものとなっている。
伊右衛門に「女に惚れたことがあるのか」といったようなことを言い、惚れたお袖と一緒に死ねて本望だと言って息絶える姿などは、悪人にあるまじき純愛路線である。
調べてみると鶴屋南北の原作では、おそでは直吉の実の妹だと分かり、直吉は絶望のあまり自害するらしい。
むしろ原作の設定の方が劇的だと思うのだが、そうなればストーリーも若干変わっていただろう。

僕は会社勤めの晩年にM&Aの仕事にかかわったのだが、買い取ってくれる相手会社との交渉においては事業の継続と社員の雇用だけを要求した。
倒産していたら僕も含めて民谷伊右衛門のような悲哀を味わうことになった社員は大勢いただろう。
「人情紙風船」のような浪人の苦しい生活ぶりを描いた作品を見ると、いつもM&A案件の交渉時を思い出す。
年齢と能力によっては再就職が難しいと思われる人材がかなりいたのだ。
主家のお家断絶で左門の父娘たちも、伊右衛門も人生を狂わしている。
会社も突如の倒産という事態を引き起こしてはならないのだ。
幸いにしてあと数日と言うところで合意に至り、倒産の憂き目を逃れることができた。
自分としてはよく頑張れたと思う。
それにしても、伊右衛門ののし上がっていくことへの執念はスゴイ。
ラストシーンはその執念を見事に描いている。


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