おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

湯を沸かすほどの熱い愛

2017-09-08 07:54:33 | 映画
先日、映画館で最後にタイトルが映画を見たのだが、そういえば昨年も最後にタイトルが出る映画があったなと思い当たり再見。


監督:中野量太
出演:宮沢りえ 杉咲花 オダギリジョー 篠原ゆき子 駿河太郎 伊東蒼 松坂桃李

ストーリー
夫の一浩(オダギリジョー)とともに銭湯を営んでいた双葉(宮沢りえ)は、他ならぬ夫の失踪とともにそれを休み、パン屋店員のバイトで娘の安澄(杉咲花)を支えていた。
ある日職場で倒れた彼女が病院で検査を受けると、伝えられたのは末期ガンとの診断であった。
2~3カ月の余命しか自分に残されてはいないと知り落ち込む双葉だったが、すぐに残されたやるべき仕事の多さを悟り立ち上がる。
まずいじめに悩み不登校寸前に陥った安澄を立ち直らせ、級友たちに言うべきことを言えるようにさせること。
そして行方不明の一浩を連れ戻し、銭湯を再度開店するとともに家庭を立て直すこと。
双葉は持ち前のタフさと深い愛情で次々と仕事をこなし、一浩とともに彼が愛人から押し付けられた連れ子の鮎子(伊東蒼)をも引き取って立派に家庭を立て直した。
その上で、彼女は夫に留守番をさせて娘たちと旅に出る。
彼女の狙いは、腹を痛めて得た娘ではない安澄を実母に会わせることだった。
道すがら出会ったヒッチハイク青年拓海(松坂桃李)の生き方をも諭し、義務を果たそうとした双葉だったが、やがて力尽きて倒れる。
だが、彼女の深い思いは家族たちを支え、そして拓海や、安澄の実母・君江(篠原ゆき子)、夫の調査に当たった子連れの探偵・滝本(駿河太郎)の心にも救済をもたらすのだった。
静かに眠りについた彼女に導かれるように、新たな繋がりを得て銭湯で行動しはじめる人々。
彼らを見守る双葉の心が、煙となって店の煙突から立ち上った。

寸評
典型的な難病もので、典型的な母もの作品だが、意表を突いた展開とストーリーが観客を引き付ける。
難病物の割には作品自体が重くなく暗くない。
それは双葉の宮沢りえが末期癌を宣告され落ち込むが、すぐに立ち直り明るく元気に振舞い、最後に自分がしなければならないことに邁進していくからである。
その姿は自然体で悲壮感がないので見ている僕たちは救われた気持ちになる。
伏線を張りながら、あるいは結論を次のシーンに持ち越すような描き方でストーリーが進行していく。

蒸発していたオダギリジョーが帰ってくるが、その時にしゃぶしゃぶで迎えるのだが、そのエピソードからして軽妙なタッチでこの作品の雰囲気と双葉の性格を表していた。
娘の安澄は学校でイジメにあっているのだが、母親の双葉は「逃げないで現実に向き合え」と叱咤する。
現在の風潮としては、イジメにあっている子供が学校に行きたくないと言えば休ませたほうが良いとされているが、双葉はそうではない。
安澄はイジメを克服するが、克服する場面も感動的だが、その前に父親が朝ご飯を食べて行かなかった安澄に牛乳を届けるシーンが挿入されていて、脚本が細かい点にも心を割いていることがわかる。

この家に鮎子という女の子がしかたなく同居することになるが、実は双葉、安澄、鮎子にはある共通点がある。
この共通点が終盤になって明らかになっていくのだが、この展開はアッと驚かされる。
映画を見慣れた者にはある程度の予測は付くとは言うものの、この展開は予想以上だ。
双葉はこれが最後と安澄と鮎子を伴って車での旅行に出かける。
出発前にすべてを話すと一浩に告げているので、いつ自分の病気を話すのかと思っていたらそうではなく、安澄は別の出来事で母の病気を知ることになる。
この一連をくどくど描いていないので深刻にならない場面だが、胸に迫ってくるシーンとなっている。
鮎子が母の「誕生日に迎えに来る」という言葉を信じて、元の家で待っているシーンも涙を誘う。
鮎子は番台の金を盗むが、それは交通費を得るためだったということも鮎子の行動によって判明する。
双葉が安澄と同様に鮎子に注ぐ愛情が感じ取れる描き方も心を打つ。
双葉が抱きしめるのは彼女の愛情が抱きしめさせているのだ。
双葉は安澄も鮎子も抱きしめ、そして旅の青年拓海も抱きしめる。
彼等は双葉の抱擁に追って彼女の愛を感じるのである。

明るいシーンと、そうでないシーンがバランスよく散りばめられている。
一浩は調子のよい男で、結婚前には双葉をエジプトに連れていくと言っていたようなのだが、そのエピソードも感動をもたらす。
それに関するシーンは3度登場するが徐々に盛り上げていく展開で、最後のシーンは感動的だ。
そこで宮沢りえが発する「生きたいよお・・・」のつぶやきには涙せずにはいられない。
ラストシーンはファンタジーで、現実的ではないがここでタイトルが出る演出も納得させられる。
病床の姿を演じるために減量した宮沢りえにすごさを感じた。


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