おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ヴァイブレータ

2023-08-14 07:17:54 | 映画
「ヴァイブレータ」 2003年 日本


監督 廣木隆一
出演 寺島しのぶ 大森南朋 田口トモロヲ 戸田昌宏
   高柳絵理子 牧瀬里穂 坂上みき 村上淳 野村祐人

ストーリー
雪の夜コンビニに女が酒を買いに来る。早川玲、31歳。
フリーのルポライターをしている彼女は、いつからか頭のなかで聞こえるようになった“声”の存在に悩まされている。
いつか聞いた誰かの言葉や雑誌の文章、言えなかった自分の気持ちが“声”として彼女のなかでざわめき、そのせいで不眠、過食、食べ吐きを繰り返す玲はアルコールに依存していた。
白ワインとジンを探す彼女の目に、コンビニに入ってきた一人の男が飛びこむ。
長靴をはいたその男に反応した彼女のなかで、声がいう。「いい感じ」「あれ、食べたい」。
玲の視線に気付いた男はすれ違いざま、彼女の体に触れる。
それを合図にするように、コンビニを出て行く男の後を追う玲。
コンビニの外、トラックの運転席に座る男が見える。
トラックに乗り込む玲に男がいう。「ようこそ」。
男は岡部希寿というフリーの長距離トラック運転手だった。
ぎこちなく酒を飲みながら、やがてアイドリングの振動を感じながら二人は肌を重ねる。
夜明けになり、一度はトラックを降りた玲だが、再びトラックに戻る。
「道連れにして」という玲を乗せ、トラックは東京から新潟へ向けて走り出した。
窓の外を風景が流れるなか、二人はお互いのことを話し出す。
岡部には妻と子供がいること、長い間ストーカーの女につきまとわれていること、中学もろくに出ていないこと、工務店で働いた後、ホテトルのマネージャーをしていたこと、それからトラックの運転手を始めたこと、これが二台目のトラックだということ。
玲も自分の職業や、取材で会った女性から聞いた食べ吐きを自分でもするようになったこと、アルコールに依存していることを話す。
言葉を重ねながら、肌を重ねながら、男との時間に身をゆだねていく玲。


寸評
登場者二人だけのロードムービーと言ってもいい映画だけれど、とりわけ寺島しのぶが滅茶苦茶いい。
何がいいかと言うと、彼女の普通さだ。
けっして美人じゃない、むしろブス(失礼、他に表現の方法を知らないので)の範疇に入るし、スタイルもバツグンというわけでもない。
だけど、その普通さが極めて高い存在感を醸し出している。
時折見せる笑顔がやけに魅力的に映える。
ラストシーンの何ともいえない表情なんて、とても演技だけで出せるものではないのではないか。
彼女のもつ天分を感じるし、吉永小百合さんや沢口靖子さんなどの美人系女優には絶対に出来ない演技ではないかなと思った。
大胆に濡れ場を演じる度胸もいいし、その表現力でいやらしさをかき消しているのが又いい。絶賛に値する。
ちょっと倒錯したエロティシズムと言うか、ある種破滅的なセックスを通じて、その中から見えてくる現代人の孤独や優しさが微妙に表現されていたと思う。
また、寺島しのぶを受け止める大森南朋もなかなかいい。
特に彼の声がいい。
最初の一声を聞いただけで、この男は本当はやさしい男なのだと想像させた。

風呂場で寺島が男の胸に泣き崩れ「おかあさん・・・」とつぶやくシーンは愛に飢えてきた彼女の人生を想像させ胸が詰まった。
声の存在を象徴する時折挿入される字幕や、回想シーンの荒れた画面が、会話だけの映画に奥行きを持たせて余韻を引き出している。
テーマの描き方と言い、その表現テクニックといい、登場した頃の日活ロマンポルノの意欲的な若手作家達を思い起こさせた。


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