おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

妖星ゴラス

2023-05-16 07:19:22 | 映画
「妖星ゴラス」 1962年 日本


監督 本多猪四郎
出演 池部良 上原謙 志村喬 坂下文夫 白川由美 水野久美
   佐々木孝丸 小沢栄太郎 河津清三郎 西村晃 佐多契子 田崎潤

ストーリー
アメリカやソ連に続いて日本でも宇宙開発が推進されJX-1隼号が打ち上げられ、艇長の園田博士(田崎潤)をはじめ乗組員は土星を目指して長い旅に出た。
ところが丁度その頃、パロマ天文台が「冥王星より約36分の方向に黒色彗星が見つかった」という重大な発表をおこない、ゴラスと命名されたその星の質量が地球の約6000倍だとわかる。
その進路に当たる太陽系の各惑星は壊滅的な影響を受ける恐れがあり、事態を重大視した宇宙管制委員会は、宇宙を航行中の船に連絡を取り、観測に協力するよう呼びかけた。
園田は自分たちがゴラスに最も近い位置にいることを知り、積極的に観測に参加してデータを収集したが、隼号はその引力に引き寄せられてしまい、その燃え盛る炎によって消滅し、データだけが地球に届けられた。
そのデータを解析した結果、ゴラスはやがて地球にぶつかる進路を取っていることが判明。
日本政府からその事実を知らされた各国の首脳陣は大慌てになり、普段は対立している国々も地球の危機には協力せざるを得なくなる。
こうしてゴラス対策本部が設けられ、世界の科学者たちが意見を交換しあった。
そして日本宇宙物理学会の田沢博士(池部良)が、巨大なロケット噴射ノズルを南極に建設し、その推進力によって地球自体の軌道を変えるという大胆極まる解決策を提案した。
最初は夢のような案だと考えられていたが、各国の隠していた技術によってそれが可能だということが分かり、さっそく建設が始まる。
計算の結果、地球は40万キロメートル移動させられることが決まり、完成したロケットは100日間に渡って巨大な炎を吐き出し続ける。
温度が上昇したため、南極の溶けた氷の下から巨大な怪獣が出現することもあったが運行は順調に進んだ。 


寸評
映画のジャンルにSF作品があるが、日本の場合においては特撮映画と称したほうがピッタリとくる。
まず思い浮かぶのが「ゴジラ」や「ガメラ」に代表される怪獣ものである。
特に東宝はモスラだのキングギドラだの、ありとあらゆる大怪獣を生み出した。
しかし怪獣映画は怪獣が変われど、結局は怪獣同士のバトルが見せ場となるパターンで描かれ、ストーリーとしてふくらみを持たせづらかった側面があったように思う。
一方で空想科学映画と称される作品群があり、多くは「地球防衛軍」や「宇宙大戦争」などの宇宙ものである。
こちらの方はパターン化された描き方の作品もあるが、自由な発想のもとに撮られた作品も多く存在する。
その中でもこの「妖星ゴラス」はピカイチの出来で、特撮映画を多く撮った本多猪四郎監督もこの作品が一番気に入っていたようである。
怪獣映画にも共通することだが、日本の特撮映画の特徴の一つと言えるのがミニチュアを使った都市の再現などの広大なパノラマ撮影だと思う。
この作品ではかつてない程の大規模なミニチュアが用いられ、南極の建設現場ではミニカーが作業しているのに笑ってしまうが、特撮チームの努力がうかがえ笑いはどこへやらで感動してしまう。
ゴラスの引力で東京が水没してしまっているミニチュアセットもCG処理になれた今では懐かしさを感じる。
宇宙ロケット、宇宙ステーションなどはおもちゃのようなものだが、映像からはノスタルジーを感じさせられる。

この映画が製作された前年に旧ソ連がガガーリンを乗せた初の有人による人工衛星を打ち上げ、ガガーリンが言った「地球は青かった」に僕たちは感激した。
しかし宇宙開発は軍事につながっており、ソ連のミサイル技術が自分たちの技術よりも進んでいることに驚いたアメリカは宇宙開発を急ぎ、東西冷戦は宇宙開発へと突入していったのだが、この映画は東西冷戦時代へのアンチテーゼでもあった。
科学の勝利を高らかにうたい上げるストーリーは正に世界平和に対する賛歌である。
東宝お得意の怪獣は、終盤に南極の基地建設を妨害するアザラシのような巨大怪獣として登場するが、全編の中では添え物と言った感じで登場への賛否は分かれるところであろう。
これはミュージカルなのかと言いたくなるような歌とダンスのシーンがあるのはまるでインド映画の様で、あれは観客へのサービスだったのだろうか。
鳳号の乗員でゴメス探索に向かった金井(久保明)が記憶喪失になってしまうのだが、そのエピソードはストーリーの中で生かされていなかったように思う。
記憶喪失から回復した時に、何か重大な情報をもたらすのかと思ったのだが、ただ目覚めただけだったのには肩透かしを食ったような気分になった。
金井と野村滝子(水野久美)の恋も、金井が滝子のモト彼の写真を捨てたシーンがあっただけに、僕は不完全燃焼であった。

壮大な南極セットを初めとするミニチュア特撮と共に、日本では珍しい破天荒なストーリーとSFマインドを併せ持った特撮映画として、子供だましだとしても映画史にとどめておくべき作品であろう。


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