おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

蝉しぐれ

2023-12-14 07:36:12 | 映画
「蝉しぐれ」 2005年 日本


監督 黒土三男
出演 市川染五郎 木村佳乃 ふかわりょう 今田耕司
   原田美枝子 緒形拳 小倉久寛 根本りつ子 山下徹大
   利重剛 矢島健一 渡辺えり子 原沙知絵 田村亮
   三谷昇 大滝秀治 大地康雄 緒形幹太 柄本明 加藤武

ストーリー
“海坂藩”の下級武士・牧助左衛門(緒形拳)の15歳になる剣術に長けた息子・文四郎(石田卓也)と、隣家に住む幼なじみのふく(佐津川愛美)は、秘かな相思の仲。
だがある日、城内の世継ぎ問題に巻き込まれた助左衛門が、対立する側の家老・里村左内(加藤武)に切腹を命じられたことから文四郎の境遇は一変し、罪人の子として、母・登世(原田美枝子)と共に辛い日々を送る破目になってしまう。
そんな中、今度はふく(木村佳乃)が殿の江戸屋敷の奥に勤めることになった。
それから数年、父の仇である筈の里村によって名誉回復が言い渡され、村回りの職に就いていた文四郎(市川染五郎)は、学問の修行を終え江戸から帰って来た友人・与之助(今田耕司)に、殿の側室となったふくが子を身籠ったものの、世継ぎ問題に巻き込まれ流産したことや、その後、再び殿の子を懐妊・出産し、今は別邸“欅御殿”に身を隠しているらしいことを聞かされる。
そんな文四郎に、こともあろうに里村からふくの子をさらって来いとの命令が下った。
罠だと知りつつも、承諾せざるを得ない立場の文四郎は、ふくの子を預かった後、里村の反対勢力で父が仕えていた家老・横山又助(中村又蔵)の所に駆け込む策を秘密裡に講じる。
そして、友人の逸平(ふかわりょう)や与之助らの力を借り、欅御殿に向かうと、ふくに事情を説明。
押し入って来た里村派の刺客たちを倒し、ふくとその子を無事、横山の屋敷に送り届けることに成功する。
数年後、殿の他界によりふくが出家を決意した。
ふたりは、今生の未練として一度だけの再会を果たし、そこで初めて自らの気持ちを伝え合うも、最早結ばれる筈なく再び別れ行くのだった。


寸評
藤沢周平らしい秘めた恋を描いているが、話のテンポがあまりにも遅すぎて情感が伝わってこない。
近所に住む二人は秘かに想いあっているようだが、その描き方はまどろっこしい。
図らずも二人が別れ別れになっていく時の切なさのようなものがにじみ出てこなかったのは淋しい。
牧助左衛門は水害の時にも率直な意見を言う男で、村人の信頼も得ているのだが、それも十分に描かれているとは言い難い。
この時に村を救ったことで、脱出劇の時に助けてくれる村人が出てくる伏線となっているのだが、伏線としては弱いと思う。
ふくの家は貧しくて助左衛門の家に米を借りに来ている。
登世も米だけではないし、返したためしがないと愚痴をこぼしているのだが、ふくが殿様の側室になってから、ふくの父親はとんとん拍子の出世を遂げている。
一方で文四郎の家は父が切腹したことで没落し、立場は逆転してしまっているのだが、その間の両家の関係はどうなっていたのか。
相変わらず拘わらぬように無視していたのだろうか。
そうだとすれば、ふくの両親は出世しておきながら過去の恩を忘れた無慈悲な親と言うことになる。

成人した文四郎は父親と同じように世継問題に巻き込まれてしまう。
欅御殿で襲撃にあったとき、ライバルともいうべき剣客と再び戦うことになるが、ふたりのライバル関係は御前試合だけで描かれており、この二人の対決は重きに置かれていない。
だから対決の盛り上がりには欠けている。
世継問題に乗じて首席家老になっている里村の屋敷に文四郎が乗り込むが、里村の部屋に入った文四郎を里村の家来たちが追いかけてこないのはどう考えても不自然だ。
そこで文四郎は里村を殺すことなく意見する。
ではその後、里村はどうなったのか。
先の首席家老・横山又助が復権し、里村は失脚したのか。
そもそも世継問題と言う政争から出発している話なのだから、政争の結末は描く必要があったのではないか。
どうもこの作品においてはすべての描き方が中途半端な気がする。
それが間延び感の原因だろう。

文四郎はふくに呼び出され別れの対面をする。
この頃には文四郎も結婚し、子供も生まれていることが文四郎の口から語られる。
幸せな家庭を築いているということなのだが、それでも初恋の人を忘れられず、ひそかに心の中で思い続けているという心情は分らぬでもない。
ラストシーンはそんな文四郎の心の内を示すものだと思うが、それも希薄なもので、思いのたけは籠の中のふくの表情と見送る文四郎の姿を比較すると、ふくの方が思いは強かったのだと思う。
藤沢周平の世界を描いてはいるが、どうも上辺だけを描いたような作品と感じてしまって、時代劇ファンとしてはちょっと残念な気持ち。


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