おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

雲ながるる果てに

2022-06-15 06:49:40 | 映画
「雲ながるる果てに」 1953年 日本


監督 家城巳代治
出演 鶴田浩二 木村功 高原駿雄 沼田曜一
   金子信雄 岡田英次 山田五十鈴

ストーリー
昭和二十年春、本土南端の特攻隊基地が米軍機により襲撃を受けた。
この空襲で出撃を待っていた学徒兵の秋田中尉(田中和彦)は戦死し、深見中尉(木村功)は負傷した。
松井中尉(高原駿雄)は町の芸者である富代(利根はる恵)を愛し、深見は女教師の瀬川道子(山岡久乃)を想っている。
秋田の妻町子(朝霧鏡子)は夫の死も知らず、基地を訪れ、位牌の前に泣き崩れた。
雨続きの一日、笠原中尉(沼田曜一)が戦艦大和の撃沈を報じたが、軍人精神の権化を自負する大滝中尉(鶴田浩二)は、頭からそれを否定した。
大滝と北中尉(清村耕二)たちは出撃命令を待つが、連日の雨でなかなか命令が下りてこない。
雨が上り出撃の時は来た。
松井は富代に別れ、深見に「戦争のない国で待ってるよ」と言残して飛立ったまま再び帰らなかった。
深見は道子と夕闇の道を歩いている時、片田飛行長(神田隆)に見つけられ散々に殴られた。
道子は「このまま死んでしまいたい」と深見にすがり、泣きじゃくる。
基地では激しい訓練がつづけられ、山本中尉(沼崎勳)は乗機が空中分解をおこして死んだ。
彼を葬むる煙を見つめながら、深見は大滝に特攻隊の非人間性をしみじみと諮るのだった。
その大滝を父母が訪れるという便りがあった。
然しその喜びも空しく、大滝等は出撃の時を迎え、負傷のいえない深見も、「君らと一緒に死ぬ」と、共に空中へ舞上った。
大滝の両親が駆けつけた時、すでに機影は遠く白雲の流れる果てに飛び去っていた。


寸評
学徒動員され特攻に志願した青年たちの姿が描かれる。
彼等がたたき上げの軍人から鉄拳の制裁を受けたり、体罰的な訓練を受けるシーンも登場するが、大半は出撃前の彼等の生活ぶりが描かれ、神風特別攻撃隊を神格化した映画にみられるような勇壮な姿よりも、当時の特攻志願兵の姿としてリアリティを感じさせる。
特攻は死を約束された連中の集まりであるので、少しは大目に見られるところもあったのだろう。
松井が度々芸者通いをしていることも知れ渡っているし、黒板には特攻を揶揄する落書きも見受けられる。
彼らの生き方は刹那的であり、どこか悟りきったところがある。
一方で、今日一日生き延びたことを謳歌しているようにも見える。
そのくせ「どこかに背負っている「死」を感じさせる日常生活だ。
そんな中にあって、悩み、苦しみ、生と死を考えさせるのが木村功が演じる深見中尉である。
彼は負傷したことで今は特攻要員から外れていることで、仲間たちとの間に微妙な空間を生み出している。
真面目な深見と対極にあるのが芸者通いをする松井だ。
朝帰りで遅刻の常習者である松井は出撃の日も遅れて帰ってくる。
あわてて飛行服に着替え、それを手伝う深見に「戦争のない国で待っている」と言って飛び立っていく。
哀しい場面だ。

軍部の非人間性、特に特攻を指揮する上層部の身勝手な態度が糾弾される。
怪我のために出撃を見送られていた深見が特攻を志願してくる。
その場にいた金子司令や片田飛行長たちは、これで特攻の美談がまた一つ増えたと喜ぶ。
大滝たちの特攻部隊は大きな戦果を挙げることが出来なかったことが判明するが、片田飛行長は特攻の予備はいくらでもいると公言すると、画面は瀬川が教える小学生たちの姿にかわり、軍部はこの子たちも特攻の犠牲者にと考えていたことが暗示され恐ろしい。
僕は日教組という組織は好きではないが、二度と教え子を戦場に送り出したくないという教員たちの気持ちはよくわかる。
そのことを心底感じている教員も少なくなってしまった。
特攻として散っていった学徒たちは深見が言うように「これは戦術ではない」と感じていたのだろうが、同様に深見が瀬川に言うように「何か大きな力に抵抗できない」という状況下にもいたのだろう。
目に見えない大きな力とは、軍隊組織とか下される命令とかでなく、世の中を覆っていた風潮、雰囲気だったに違いない。
民主主義選挙においても見受けられることなのだが、世の中に湧き上がったぼんやりとした空気は恐ろしい。
それが間違ったものでないことを祈るばかりだ。
鶴田浩二が演じた大滝は、この作品の中ではむしろ浮いた存在だが、その彼も苦しんでいたことが描かれ、それを見た深見が怪我を押して特攻を志願する。
それを知った大滝をはじめとする仲間たちが「お前は残れ」と説得を試みるが、彼はがんとして受け付けない。
崇高な精神におもわず涙がこぼれてしまうが、特攻を編み出してしまう追い込まれた戦争は恐ろしいと感じる。
あの小学生たちが戦争に駆り出されなかったことがせめてもの救いである。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
そうだったんですか (館長)
2022-06-16 08:51:08
そうだったんですね。
私は鶴田浩二はてっきり特攻隊の生き残りだと思っていました。
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変な映画ですね (指田文夫)
2022-06-16 07:32:49
これは、鶴田浩二主演ですが、監督は家城巳代治で、右翼と左翼が一緒になって作った映画です。
家城は、松竹ですが、共産党員でした。
まあ、特攻の悲劇性については、ともに共通認識があったのでしょう。

ちなみに、鶴田は戦時中は、特攻隊員ではなく、整備兵だったのですが、何度も特攻隊を演じている内に、本当に自分は特攻隊員と思い込むようになったそうですが、この話が私は好きです。
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