おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

眠狂四郎 無頼剣

2024-01-27 08:37:16 | 映画
「眠狂四郎 無頼剣」 1966年 日本


監督 三隅研次
出演 市川雷蔵 天知茂 藤村志保 工藤堅太郎
   島田竜三 遠藤辰雄 香川良介

ストーリー
眠狂四郎(市川雷蔵)は武部仙十郎(永田靖)から、大塩忠斎の残党が不穏な動きを企てていると聞かされた。
江戸一番の油問屋弥彦屋と一文字屋が押込み強盗にあい、町辻では角兵衛獅子兄妹、女芸人勝美太夫(藤村志保)なるものが現われ、不思議な火焔芸を披露しているが、これは大塩一味と関係があるというのが仙十郎の推測だった。
というのは、越後の地下水から油精製を研究した大塩忠斎・格之助父子が、その権利を一万両でゆずり貧民救済資金にしようと計画したが、義挙は商人の裏切りによって、挫折し、大塩父子が処刑されていたからだ。
その帰途、狂四郎は弥彦屋お抱えの用心棒、日下部玄心(遠藤辰雄)の一党に襲われた勝美を救った。
勝美は狂四郎の顔をみて格之助と似ていることに驚いた。
狂四郎は勝美から、一文字屋と弥彦屋を襲ったのは愛染(天知茂)と名乗る浪人一味で、中斎の恨みを晴らさんため、老中水野忠邦をも狙っており、しかも、格之助から油精製の図録を盗んだのは、一文字屋巳之吉(上野山功一)に命じられた勝美であり、商人たちは図録を盗んでおいて大塩を幕府に売ったのだと知らされる。
勝美はその後で自分の罪の深さを知って、巳之吉に恨みを返さんため動いているとも聞かされた。
勝美を銀杏長屋に送った狂四郎は、そこで愛染一味に襲われた。
愛染一味は図録を盗んだ勝美を殺そうと狙っていたのだ。
愛染と対決した狂四郎は、愛染が自分と全く同じ円月殺法を遣うことに驚き、勝負は持ちこされた。
亥の子祝いの日、愛染一味は弥彦屋と一文字屋を焼き払い、忠邦を襲った。
そこには狂四郎が待ちうけていた。
愛染と狂四郎の一騎打ち。
同じ円月がゆっくり廻っていった。


寸評
眠狂四郎シリーズは時代劇ではあるがチャンバラ映画と呼んでも良い作品だと思う。
そしてチャンバラ映画ファンを喜ばせるのは円月殺法と言う剣技が創造され披露されることである。
眠狂四郎の剣は道を究めるための武士の魂ではなく、業念のままに宿命をほとばせる非情の凶器にすぎない。
つま先三尺をさす下段の剣先が左から円を描くと、その暗い虚無の業念に誘い込まれる敵は、狂四郎が完全な円を描き切るまで持ちこたえられない。
それが絵空事だと分かっていても僕たちはその剣法に酔いしれるのである。
「大菩薩峠」の机竜之介がニヒルストであるのに対し、眠狂四郎はスタイリストである。
キザな言葉を吐いたりするし、女の衣服をその剣技ではぎ取ったりする。
この作品でも裸で寝かされている藤村志保のために、布団を切り取って身にまとえるようにしてやっている。
もちろん吹き替えではあるが、真っ裸の藤村志保が敵を逃れて川に飛び込むシーンが用意されている。
ちょっとしたお色気シーンで、思春期の僕などはそれだけでドキリとしたものだ。
お決まりの演出ではあるが、飛び込んだ波間の上に布団から切り取った布が舞い落ちるシーンがピタリと決まる。

眠狂四郎が活躍する時代は徳川11代将軍家斉の治世、水野越前守忠邦が西丸老中として台頭する頃とされていて、その知恵袋的存在の側頭役武部仙十郎の隠密的な存在というのが彼の立場だ。
映画では説明がないので、それが頭にないとご老体と称して接している人物と狂四郎の関係が理解できないし、
どうして狂四郎が資料保管所のような所に立ち入って大塩平八郎の乱を調べることが可能なのかも疑問を持つことになる。
狂四郎を手助けしている工藤堅太郎が演じる回り髪結いの小鉄という男の存在も納得できる。
単発でこの作品を見ると狂四郎側の人間関係がよくわからない。
観客はすべてお見通しなのだということが前提となっているような脚本で、眠狂四郎ファンの作品ともいえる。
今回の見所は、狂四郎に敵対するのは愛染と言う浪人なのだが、この浪人が狂四郎と同じ円月殺法を使うという点にある。
もちろん愛染の天地茂も狂四郎に劣らぬ使い手だ。
プログラムピクチャの一作だが、セットはしっかりしているしカメラアングルなども職人技を感じさせる。
三隈研次は単純娯楽作品ばかりを撮った監督だが、ツボを押さえた演出で安心感を与える職人監督だと思う。

石油精製の利権が背景にあるので、最後にはその石油が大爆発を起こし火災が発生する。
火災現場のスペクタクルは描かれず、2軒で起こった火災の火柱を背景にして大屋根で展開する立ち回りが最後の見どころだ。
勝負の行方は分かっているものの、それを感じさせない緊迫感を生み出すのも三隈研次の職人技だ。
愛染が子供になつかれるキャラであることは冒頭で描かれているので、竹細工のエピソードが生きてきて、竹人形のようなものが屋根の上を滑り落ちるシーンが美しい。
それを子供に届けることを暗示しながら炎に照らし出される狂四郎の顔が赤く染まっていくところでエンドマークが出るのが雰囲気を出していた。
五社がまだまだ作品を量産していた時代の作品を感じ取るのには適した作品だと思う。


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