おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

黒いオルフェ

2022-06-20 07:40:12 | 映画
「黒いオルフェ」 1959年 フランス


監督 マルセル・カミュ
出演 ブレノ・メロ
   マルペッサ・ドーン
   ルールデス・デ・オリヴェイラ
   レア・ガルシア
   ファウスト・ゲルゾーニ
   マルセル・カミュ

ストーリー
黒人女性のユリディスは、カーニバルを翌日に控えるリオデジャネイロの街をふらふらと彷徨い歩いていた。
そんなユリディスに市電の運転手の黒人男性オルフェが声をかけ、これから従姉の家に向かうと言うユリディスに、オルフェは「上司のエルネストならこの街について何でも知っている」と道案内してもらうことにした。
ユリディスが去った後、オルフェの元に婚約者のミラが現れて婚約指輪を買ってほしいとねだったが、オルフェはもらったばかりの給料を持って質屋に行き、預けていたギターを取り出した。
ユリディスは丘にある従姉のセラフィナの家に迎え入れられた。
ユリディスはセラフィナに、自分は故郷の村で謎の男に追われていると打ち明け、相手は自分を殺すつもりであり、既に自分がリオに来ていることも知られたのではないかとの不安を口にする。
セラフィナの家の隣には、あのオルフェが住んでいた。
オルフェはユリディスや子供たちと共にカーニバルの前夜祭で踊り明かした。
その後、ユリディスは死神の仮面を被った謎の男に襲われ、セラフィナの家に逃げ込んだ。
オルフェとユリディスとの関係を疑うミラは「あの娘がつきまとったら殺してやる」とオルフェに忠告した。
やがてカーニバルが始まり、街中が熱狂するなか、ユリディスはセラフィナから借りた衣装に身を包み、ベールで顔を隠してオルフェと踊ったが、ユリディスはお守りを落とした際にミラに顔を見られてしまい、激昂したミラはユリディスに掴みかかってきた。
ユリディスは雑踏の中を逃げ惑う内に例の仮面男に見つかってしまい、市電の車庫に逃げ込んで架線を伝って逃げようとしたところへオルフェが駆け付けてきた。
オルフェはユリディスの名を呼びながら電気のスイッチを入れたところ、架線に触れていたユリディスは高圧電流を浴びてショック死してしまった。


寸評
僕はオルフェ神話について全く知識がないので、この話にどのようにして神話が繁栄されているのか分からないのだが、いつまでたっても目に焼き付き耳に残るのがカーニバルの熱気とサンバのリズムである。
カ―ニバルに沸くリオデジャネイロの様子を踊り手たちの視点からいきいきと描いて、その地をその時に旅した気分にさせ、彼らと共に唄い踊る夢み心地を体感させてくれる。
僕はかつて大学で所属していた芸術会本部のOB会で阿波踊りに行ったことがある。
徳島在住の先輩が桟敷席を用意してくれたいたが、桟敷席は年配のOBにまかせ、当時はまだ若かった私は仲間の何人かと踊りに加わった。
旅館の浴衣に買ったばかりの足袋をはいて踊りの会場に行き、鳴り物がない我々は和歌山大学の後ろで彼らの囃子に合わせて踊った。
踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々、という掛け声があるが正にその通りであった。
〇〇連というグループが何個もあって、早いグループが朝の7時くらいから街角の広い場所を見つけては踊っている姿を見て、彼らの熱気を感じたし、阿波の人たちはこの祭りの為に一年を過ごしているのだと思った。

この映画でもリオデジャネイロのカーニバルの様子が描かれており、祭り前夜からの熱気が伝わってくる。
その様子は阿波踊りに興じる人たちと通じるものがあり、祭りの持つ魔力である。
描かれている中身は大したものではないのだが、繰り返される市井の人たちの踊りを楽しむ姿の描写が楽しい映画である。
オルフェにはミラという婚約者がいるのだが、結婚を届けに行った先の老担当者がでオルフェが名乗ると相手はユリディスではないのかと聞き返す。
僕はこの時点で神話におけるオルフェの相手はユリディスなのだと知ったのだが、オルフェ神話には色々な解釈があるらしい。
出会ったオルフェとユリディスはたちまち恋に落ちるが、ラブ・ストーリーとしての二人の描写はカーニバルの描写に押されて希薄である。
さらにユリディスには死神が付きまとっていることで怪奇的要素とサスペンス的要素も加わわってくる。
死神はユリディスを死へと導くが、死神によって命を奪われるのではなく、オルフェの行為によってユリディスが命を落とすのが衝撃的である。
オルフェはユリディスを求めて彷徨い、死者の霊を呼び出す施設に行く。
行われているのは恐山のイタコによる口寄せと同じもので、この様な宗教儀式はどの国にも存在すると思われる。
そこでオルフェはユリディスの声を聴くが、振り返ってはいけないと言われているのに振り返ってしまい、声の主が老婆であることを知り騙されたと怒り狂う。
鶴の恩返しでもそうなのだが、見てはいけないと言われれば見たくなり、振り返るなと言われれば振り返りたくなるのが人間の性(さが)である。
死神に付きまとわれるのも怖いが、もっと恐ろしいのは女の嫉妬である。
ミラの嫉妬がユリディスの死を招き、そしてついには愛するオルフェの命すら奪ってしまう。
男と女の愛憎劇は時代が変わってもいつまでも存在し続ける。
次の時代のオルフェが早くも誕生しているのは、やがてまた男と女の悲劇が生まれることを暗示していた。



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