おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇

2024-05-02 06:47:33 | 映画
「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」 1997年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 浅丘ルリ子 下絛正巳 三崎千恵子
   前田吟 太宰久雄 笠智衆 吉岡秀隆 江藤潤
   新垣すずこ 比嘉美也子 金城富美江 佐藤蛾次郎 関敬六

ストーリー
セールスマンとして日本各地を飛び回っている満男は、最近、同じ旅の空の下にいる伯父の寅次郎のことをよく思い出していた。
満男は特に印象深かったリリーの夢を見る。
かつて寅が想いを寄せたキャバレー歌手のリリーが沖縄で倒れた。
彼女は沖縄の基地のクラブで唄っていたが、急病で倒れ、入院中だという。
そして、手紙には「死ぬ前にひと目寅さんに逢いたい」と書いてあった。
五年振りの再会に、リリーの大きな瞳は涙でいっぱい、そして彼女の病状も寅次郎の献身的な看護で快方に向かい、病院を出られるようになると、二人は療養のために漁師町に部屋を借りた。
一方、リリーは快方に向かいキャバレーを回って仕事をさがしはじめた。
体を気づかう寅次郎に、リリーは夫婦の感情に似たものを感じる。
たが、寅次郎は自分のことをタナに上げ、リリーと下宿屋の息子・高志との関係を疑いだした。
好意を誤解されて怒った高志は寅次郎と大喧嘩をし、翌日、リリーは手紙を残して姿を消した。
リリーがいなくなると、彼女が恋しくてならない寅次郎は、寂しくなり柴又に帰ることにした。
三日後、栄養失調寸前でフラフラの寅次郎がとらやに倒れるように入ってきた。
おばちゃんたちの手厚い看護で元気になった寅次郎は、沖縄での出来事をさくらたちに語る。
それから数日後、リリーが寅次郎が心配になって、ひょっこりとらやにやって来た。
そんなリリーに寅次郎は「世帯を持つか」と言うが、リリーは寅次郎の優しい言葉が素直に受けとれない。


寸評
渥美清は1996年8月4日に亡くなった。
代表作の「男はつらいよ」シリーズで寅さんとして親しまれた風来坊の主人公「車寅次郎」を演じ、没後に国民栄誉賞が贈られたが、俳優としては1984年に死去した長谷川一夫に次いで2人目であった。
渥美清は演技で見せる社交性のある闊達さとは対照的に、実像は公私混同を非常に嫌い、芸能活動の仕事を一切プライベートに持ち込まなかったため、渥美の自宅住所は芸能・映画関係者や芸能界の友人にも知らされていなかったという。
喜劇役者として野村芳太郎監督の「拝啓天皇陛下様」や、東映で撮った「喜劇列車シリーズ」などもあるが、渥美清と言えば何と言っても「男はつらいよシリーズ」、フーテンの寅さんは渥美清と同一人物と錯覚してしまうほどのハマリ役で、逆に言えば寅さんのイメージが強すぎて、他の作品で脇役として登場しただけでも笑い声が起きた。

「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」は1997年の作品で没後に再編集されたものである。
公開された48作の中から「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」が選ばれ、タイトルが出る前と最後にシーンが付け加えられている。
監督の山田洋次が好きな作品らしいが、僕もリリーが登場する4作の中ではこの作品が一番好きだ。
何といってもシリーズの中で一番、寅さんが所帯を持つのではないかと思わせる作品なのだ。
「男はつらいよシリーズ」は寅さんの片思いで終わるのがほとんどだが、中には女性が寅さんと所帯を持ってもいいと思う作品もあった。
しかしその作品における女性たちとの所帯生活を僕は想像できなかった。
唯一の例外が浅丘ルリ子のリリーで、寅さんが所帯を持って暮らしている姿に違和感のないのがリリーなのだ。
寅さんの相手となるマドンナは毎回違っているが、複数回登場しているのは第4作、36作の栗原小巻、第9作、13作の吉永小百合、第22作、34作の大原麗子、第27作、46作の松坂慶子、32作、38作、41作の竹下景子、第42作、43作、44作、45作の満男の恋人役でもある後藤久美子らである。
そのなかでも第11作、15作、25作、48作にリリーという同じ役で登場する浅丘ルリ子が光彩を放っている。
したがって作品の出来も非常に良い。
ただ42作目あたりから渥美の体調がすぐれず、満男のサブストーリーに時間が割かれるようになっているので、結果的に最後の作品となってしまった48作目の「男はつらいよ 寅次郎紅の花」の出来はイマイチと感じる。

さて本作は、妹さくらの息子である、つまり寅さんにとっては甥にあたる満男が、「寅さんはどうしているだろうか、会いたいなあ」と思いをはせリリーとの思い出を懐かしむ形式をとっている。
リリーとの思い出シーンは1973年の「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」、1975年の「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」のシーンを使用しているのだが、シリーズを見てきた者にとっては満男でなくても懐かしく感じる。
そしてシリーズ第25作が始まる。
最後に寅さんと同じように地方へセールスに行っていた満男が柴又に帰ってくるところが付け加えられている。
満男は寅さんのように陽気ではなく、ちょっと疲れているように見える。
寅さんは今もどこかを旅しているという設定だが、満男の後ろ姿からはもう寅さんと会えない淋しさを感じる。