おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

源氏九郎颯爽記 白狐二刀流

2024-05-10 07:13:22 | 映画
「源氏九郎颯爽記 白狐二刀流」 1958年 日本


監督 加藤泰
出演 中村錦之助 河野秋武 大川恵子 清川荘司 柳永二郎
   八汐路佳子 岡譲司 上田吉二郎 岸井明 浜田伸一

ストーリー
兵庫の港町に上陸した九郎(中村錦之介)は、尊皇攘夷の悪夢に踊る貧乏公郷今出川兼親(河野秋武)と許婚の志津子(大川恵子)、浪人比嘉忠則(清川荘司)に不逞の襲撃を浴びた英人船長の娘マリー(ヘレン・ヒギンス)と従者ジョン(ジョニ・ジャック)を救った。
そして、それを機に大阪奉行兵庫勤番所与力の富田(杉狂児)と同心の幸田(里見浩太朗)らと知己となり、同心長屋にしばしの宿を定めた。
一方兼親らも同じく尊皇攘夷を口にする浪人犬山(上田吉二郎)によって、そのかくれ家に伴なわれた。
そこでは、かつての海賊、今は大阪奉行をも篭絡する密貿易商播州屋十兵衛(柳永二郎)とその配下新海(岡譲司)たちが義経の遺宝に眼を光らせていた。
兼親はかつて九郎に思慕を抱いていた志津子を彼の許に向け、京都より志津子の兄桜小路忠房(二代目中村歌昇)を呼び寄せた。
志津子に誘い出された九郎は犬山らの浪人たちに襲われ、急を聞いて駈けつけた幸田、富田らに救われたのだが、播州屋の手は九郎の仮住居である同心長屋に及び、焼き討ちをかけてきた。
長屋の一同を逃した九郎は、秘剣揚羽蝶の活躍でその場を切り抜けた。
忠房を仲介に播州屋と顔を合せた九郎は、彼の卑劣な眠り薬の奸計に今はこれまでと思われたが、志津子の必死の働きで脱出に成功した。
やがて、一味から離れた志津子を連れた九郎は源九郎判官義経の真の宝を見せようと無人島へ向ったが、二人の後を兼親と播州屋、新海がそれぞれつけていた。
宝庫の前、播州屋も新海も九郎の刀に倒れた。
呆然自失する兼親に、祖先義経が私に遣したのは観音慈悲の心だったとその悪夢をさまし、涙する志津子をあとに、九郎は再び何処ともなく去って行った。


寸評
当時全盛を誇っていた東映時代劇の代表的なプログラム・ピクチャの一篇である。
駅裏には「平和座」と「住映」という2番館があって1週間ごとに上映作品が入れ替わっていた。
2番館とは言え田舎町に映画館が2館もあった時代があったのだ。
子供たちはチャンバラごっこに興じていたから、東映の時代劇は人気の上映作品だった。
立ち回りにしろ、衣装にしろ、リアリティには程遠く、大抵の場合主人公は「旗本退屈男シリーズ」に代表されるように白塗りの化粧である。
本作でも源氏九郎の中村錦之助は源義経の末裔を強調するためもあって、異様なぐらいの白塗りである。
長屋の住人たちがこぞって非難しなければならない理由はよく分からないが、活劇シーンを盛り上げるためでもあったのだろう。
源氏九郎は二刀流を披露するが、中村錦之助の二刀流と言えば、何といっても「宮本武蔵」だな。
中村錦之助は宮水武蔵もやれば源氏九郎もやるし、一心太助のような役もやったし、文芸作品や社会派劇もやった東映の中にあっては演技派として稀有な俳優だった。
萬屋錦之助を名乗るようになった晩年は時代劇の大御所的な存在になって活躍したが、僕は中村錦之助時代の錦チャンが好きだった。
男性映画が多かった東映にあって女優陣はわき役的な人が多かった。
いわゆるお姫様女優と呼ばれた人たちで、本作では里見浩太朗を慕うお鈴の丘さとみ、今出川志津子の大川恵子などを見ることができる。
特に大川恵子は東映の事実上の創業者である大川博の秘蔵っ子で、芸名も大川の名前をもらっている。

話や設定はもうメチャクチャで、当時人気のあったファッションモデルのヘレン・ヒンギスが変な踊りを見せて錦之助の源氏九郎にモーションをかけたり、一体この地理はどうなっているのかと思わせるほど九郎や志津子の場所移動が飛んでいる。
長屋を出て海岸を行ったかと思ったら山道を歩いていたり、悪党どもがバンバン拳銃をぶっ放したり、それだけ拳銃があれば皆で源氏九郎を撃てばいいようなものだが、九郎と戦う段になると刀に持ち替えてバッタバッタと切られてしまう。
決して弾は九郎には当たらない。
九郎は相手を斬りまくるが返り血を浴びることはないので、真っ白な着物が汚れることはないし、着崩れすることもなく、どこまでもカッコいい錦之助なのである。
反面そんなところがプログラム・ピクチャの面白いところでもある。
コメディアンの由利徹と南利明による掛け合いシーンも用意されていて観客の笑いを誘うのもその一端である。
描かれる内容は常に勧善懲悪で、誰が善玉で誰が悪玉かは登場した時から明白なことが多い。
中村錦之助や里見浩太朗が善玉として活躍し、柳永二郎や上田吉二郎は悪玉として描かれるが、悪玉役の柳永二郎はハマリ役である。

今出川志津子たちは尊王攘夷運動を行っているのだが、源氏九郎に「これからは外国と上手くやっていかなければならないのに」と言わせているのは、当時の日本の状況を反映しているのかもしれない。