おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

明日の記憶

2022-01-31 09:28:48 | 映画
「明日の記憶」 2005年 日本


監督 堤幸彦
出演 渡辺謙 樋口可南子 坂口憲二 吹石一恵
   水川あさみ 袴田吉彦 市川勇 松村邦洋
   遠藤憲一 木野花 木梨憲武 及川光博
   渡辺えり子 香川照之 大滝秀治

ストーリー
広告代理店に営業マンとして勤める佐伯雅行は、長年、仕事に没頭してきた。
今年50歳になる彼には、一人娘・梨恵の結婚と大きなプロジェクトを控え、ありふれてはいるが穏やかな幸せに満ちていた。
そんなある日、佐伯は原因不明の体調不良に襲われる。
重要なミーティングを忘れたり、部下の顔が思い出せなくなったりするのだ。
心配になった佐伯は妻・枝実子に促され、渋々病院を訪れて検査を受けると、医師から「若年性アルツハイマー」の診断が下された。
こぼれ落ちる記憶を必死に繋ぎ止めようとあらゆる事柄をメモに取り、闘い始める佐伯。
毎日会社で会う仕事仲間の顔が、通い慣れた取引先の場所が思い出せない。
知っているはずの街が、突然“見知らぬ風景”に変わっていく。
そんな夫を懸命に受け止め、慈しみ、いたわる枝実子。
彼女は共に病と闘い、来たるべき時が来るまで彼の妻であり続けようと心に決める。
希望退職するであろう夫に代わって働きはじめ、枝実子は家計を支えるようになる。
梨恵の結婚式、初孫の誕生を経て、静かに時間は流れてゆく。
時に子供のように癇癪を起こし、感情が昂ぶって泣きじゃくる夫を、枝実子は黙って包み込む。
幾度もの夏が訪れ、病が進行した佐伯は枝実子の名も思い出せなくなってしまったが、枝実子は静かに夫を見守るのだった。


寸評
若年性のアルツハイマー病って、もっと過酷な世界ではないのかなと思った。
知り合いの奥様がアルツハイマー病になられて、その経過や関わり方を聞いていると、患者本人はもちろん、関わることになる家族の人達にとっても負担を強いられ、社会的な救済が必要な世界なのだと感じている。
そのような感覚からすると全体的には綺麗にまとまりすぎた気がしないでもない。
それでも生活維持のために奥さんが働きの出ることや、最後には奥さんのことすら誰だか分からなくなってしまう状況の過酷さは理解できた。
若年性のアルツハイマーの進行過程が描かれたようなものなのかどうかはよく知らない。
会社の仲間の顔と名前が一致しなくなって、名刺に似顔絵や特徴を書き込んでいたりするのは症状の一過程なのかもしれないな。
やはり、自分がそうなったらどうしようという思いで見てしまう映画だ。
奥さんは献身的だ。
私の知人も献身的だったように思う。
家族、特に夫婦のどちらかがそうなったら、やはり伴侶は自身の苛立ちを抑えて介護していくことになるのだろう。
自分は樋口可南子が演じる枝実子のように振る舞えるだろうかと不安になる。
病気の映画は、どうしても自分と置き換えて見てしまう。
本当はもっと悲惨な世界なのだろうけれど、映画はそれを非情に描くことを避けている。
なじられた夫が妻に危害を加えてしまうシーンなどは直接の場面を写すことはしない。
病気がそうさせるのだとの演出手法でもあるのだろうが、悲惨さを示すような映画にはしたくなかったのだろう。

及川光博の先生はいい医者だ。
自分が同じ病気になったら、あのようなお医者さんに掛かりたいものだ。
淡々とした診察と屋上での説得、そして患者を待つ態度など、なかなかの人格者だと思った。
いい人といえば、取引先の課長である香川照之もいい役柄だった。
佐伯選手と呼ぶ間柄は仕事を通じた信頼関係があってのことだったと思う。
悪態をついてはいるが信頼を寄せている姿が見て取れた。
病気が判明して配置替えとなった佐伯に電話して、佐伯とじゃなかったらキャバクラに行っても面白くないんだと言うのだが、それが彼の思いやりであり激励だったのだと思う。
企業戦士も捨てたものではないなと思わせた。

知っているはずの街が突然わからなくなってしまう混乱を、カメラを回すことで表現したり、歪んだ映像を見せたりするのは、少しばかり短絡的な表現だとは思ったが、こぼれ落ちる記憶を必死に繋ぎ止めようとする姿は胸打つものがある。
それでも渡辺謙と樋口可南子はちょっと立派すぎるよなあ・・・。
ラストシーンはいいと思う。
そしてそのラストシーンはオープニングシーンに続いていて、最後にホームのシーンを持ってこなかったのはいい演出だと思った。