おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

若者のすべて

2022-01-12 08:31:35 | 映画
「若者のすべて」 1960年 イタリア / フランス


監督 ルキノ・ヴィスコンティ
出演 アラン・ドロン
アニー・ジラルド
レナート・サルヴァトーリ
クラウディア・カルディナーレ
カティーナ・パクシヌー
アドリアーナ・アスティ

ストーリー
1955年のある晩、ロッコとその兄弟は、母親ロザリアとともにミラノ駅についた。
父親を失った一家は故郷ルカニアから、ここに働いている長男ヴィンチェンツォを尋ねてきたのだ。
彼には美しいジネッタという婚約者がいた。
一家は翌日から家と職探しに奔走した。
ヴィンチェンツォはプロ・ボクサーを志し、次男シモーネと三男ロッコもクラブに出入りするようになった。
シモーネはグローブに賭けたが、これにボクサーくずれの男モリーニが目をつけ悪の世界にひきずりこんだ。
その頃、彼はナディアという女に溺れていた。
素質のあるロッコは気立てが優しく、ボクサーを嫌ってクリーニング店で働いたが、シモーネが店の主人のブローチを盗みそこをやめさせられ、そこに徴兵の通知がきて一年二カ月の時が流れた。
兵役を終え帰郷する途上、ロッコは刑務所を出所したナディアに会ったところ、彼女はロッコを好きになった。
シモーネの堕落ぶりに愛想をつかしたマネージャーのチェッキは、ロッコに目をつけたが彼はその手に乗らなかった。
シモーネはナディアの更生を聞きロッコに嫉妬し、ある晩ロッコとナディアを待伏せしたシモーネ一味が二人を襲い、仲間にロッコを押えさせ、シモーネは彼女を暴力で犯した。
二人の兄弟は血まみれになって争った。
数日後、ナディアはロッコに求婚した。
興奮のさめたロッコは、シモーネを救える者は彼女だけだとさとり、身をひいた。
絶望したナディアはまた悪の世界に戻り、シモーネも借金のために告発された。
ロッコは兄を助けるため、気のすすまぬボクサーの契約をしたのだが・・・。


寸評
ヴィンチェンツォ、シモーネ、ロッコ、チーロ、ルカという5人兄弟をサブタイトルに描くオムニバス形式の作品だが、メインは二男のシモーネと三男のロッコが娼婦のナディアをめぐって繰り広げる対立となっている。
描かれているのは人間が抱く希望や幻滅、喜びや悲しみである。

未亡人となった母親は4人の息子たちを連れて長男を訪ねてくるが、喪中にもかかわらず長男は婚約者のジネッタの家で婚約披露パーティの真っ最中である。
最初は歓迎された一家だったが、ジネッタ一家ともめ事を起こしてしまい追い出されてしまう。
ジネッタはとりなすが喧嘩は治まらず、居ずらくなった長男のヴィンチェンツォも一夜の宿を求めることになる。
泣きついた家のオヤジは「ジネッタはお前をとらずに家をとったんだな」とからかう。
女の立場と価値観を皮肉交じりに描き、この作品が持つ冷ややかな目線を冒頭から見せている。
一家はイタリア南部の貧しい土地から豊かな北部の都市にやってきている。
何処の国でも都会に富が集中し、ひと旗上げようとする者は都会の豊かさにあこがれを抱く。
貧しい一家だが兄弟は仲が良く、アパートの部屋ではロッコが豆を選別している。
ずっと見ていくとこのシーンは象徴的なシーンだったのだと感じてくる。
ロッコは悪い豆を取り除いていたのだが、この一家にとって取り除かねばならないのはシモーネだったのか、それともナディアだったのだろうか。

ナディアは娼婦であることから父親と険悪になって、ヴィンチェンツォによって一家に招き入れられる。
警察に追われる身でもあるナディアはやがてシモーネと親しくなり、破局するとロッコと愛し合い、ロッコが去ると再びシモーネとくっつくという女で、母親から見れば疫病神のような存在である。
彼女をめぐって対立するのが二人の兄弟なのだが、兄のシモーネは野卑で無知な男でボクシングを通じて世に出るが、たちまち転落して堕落した生活を送る。
弟のロッコは逆に心の美しい青年で、兄の為に自分を犠牲にする男である。
単純すぎる性格設定だが、ロッコのボクシングの強さは対戦相手に自分の怒りをぶつけるところにある。
ロッコは誰か故郷に帰ってほしいという願望を持つようになり、末っ子のルカはロッコが帰るなら自分も一緒に帰っても良いと思っているのだが、ルカはミラノでの生活に何を見たのだろう。

映画は騒ぎ立てる母親を巻き込みながら、兄弟の名前をとったパートで進んでいく。
ヴィンチェンツォの編では、「お前をきっとモノにする」という彼に対し、ジネッタは平手打ちをくらわし「決めるのは私だ!」ときつく言い放つ。
ジネッタの気性を表すシーンとして印象に残る。
シモーネとロッカのパートはこの映画のメインである。
チーロの篇において、彼が悪い豆である兄を取り除こうとするが、同時に根底にある兄弟愛も感じさせる。
ルカの最終章はかろうじて希望を感じさせるものとなっている。
恋人と出会ったチロに「今日は帰ってくるよね」と呼びかけ、一家の団結を感じさせる。
力強い作品だと思うが、映画を楽しむと言うには少々暗いし重い作品だ。