おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

愛を乞うひと

2022-01-21 07:57:02 | 映画
「愛を乞うひと」 1998年 日本


監督 平山秀幸
出演 原田美枝子 野波麻帆 小日向文世
   熊谷真実 國村隼 西田尚美
   うじきつよし 中村有志 モロ師岡
   中井貴一 小井愛 

ストーリー
早くに夫を亡くし、娘の深草(野波麻帆)とふたり暮らしの山岡照恵(原田美枝子)は、昭和29年に結核でこの世を去ったアッパー(父)・陳文雄(中井貴一)の遺骨を探していた。
そんなある日、彼女の異父弟・武則(うじきつよし)が詐欺で捕まったという知らせが届く。
30年ぶりの弟との再会に、照恵の脳裡に蘇ってきたのは、幸せだとは言い難い幼い頃の母親との関係だった─。
文雄の死後、施設に預けられていた照恵を迎えに来たのは、かつて父によって引き離された筈の母・豊子(原田美枝子/2役)だった。
ホステスをしている豊子にバラックの家に連れていかれた照恵は、そこで新しい父・中島武人(モロ師岡)と弟・武則と引き合わされる。
やがて中島と別れた豊子は、ふたりの子供を連れて“引揚者定着所” に住む和知三郎(國村隼)の部屋へ転がり込むが、和知は傷痍軍人をいつわり街角で施しを受けている男で、子供たちには優しかった。
しかし、この頃から豊子の照恵に対する折檻が、日増しにひどくなってゆく。
だが、ただひとつ髪を梳く時だけは豊子は照恵を褒めてくれ、その時だけは照恵は母の愛を感じられた。
中学を卒業した照恵は、建設会社に就職し、独り暮らしを考えるようになる。
しかし給料は全て豊子に取り上げられる始末で、思いつめた照恵は遂に家を飛び出すのだった──。
文雄の遺骨の手がかりを辿るうち、照恵は深草と父の故郷である台湾を訪ねる。
照恵は、かつて父と親交の厚かった車谷夫妻を、台湾の奥地に訪ね、車谷夫妻から文雄と豊子の出会いや自分の誕生の話を聞かされる。


寸評
兎に角、豊子は照恵を虐待する。
小遣いをねだったといっては叩きのめし、事あるごとに殴り飛ばす。照恵はゲロをはき、顔はアザだらけとなる。
それでも幼少の照恵は逃げ出すことが出来ない。豊子の髪をすいてあげた時に「上手だね」とたった一度誉めてもらったことが、鬼畜のような母を憎みきれなかった要因なのだろう。
虐待を受けながらも照恵はひたすらに母の愛を求め続けていたのだ。
あまりの虐待に照恵は「何故私を施設から引き取ったのか、可愛かったからではないのか」と叫ぶ。
僕の勝手な解釈だが、引き取った理由は去っていった男に対する執着が歪んだ形で表れたものだと思う。
ファーストシーンの雨の中で、照恵を連れて去っていく陳文雄に置き去りにされた豊子が叫ぶ姿があった。
そして終盤で車谷夫人から、豊子が子供が生まれることで陳の愛情を一身に受けられなくなるのではないかとの疑念を持っていたらしいことが語られる。
それらをつなぎ合わせると、豊子は本当に陳を愛していて独り占めしたかったのかもしれないと思うのだ。

ではなぜ豊子は照恵を虐待し続けたのか?
豊子は強姦されてできた子だから産みたくなかったと言い放つが、どうやらそれも事実ではなさそうだ。
そのための虐待とは思えないフシがある。
あるいは豊子も虐待された経験があったのかもしれないが定かではない。
男なしでは生きられない豊子は次々と男を代えるが、どの男も生活力には欠け最低の生活をし続けている。
そんないら立ちが弱い者いじめに向かわせたのだろうか?
それにしては就職が決まった和知に「あんた勘違いしてんじゃないの」と言い放っていたしなあ・・・。
昨今の虐待事件なんて訳の分からない虐待行為が多いから、豊子もそんな気分だったのかもしれない。
現実世界ではそうでも、映画の世界ではそれだと単純すぎるけどなあ~。
しかし、陳への愛の後遺症があったとしても、なぜあれほど虐待したのかなあ・・・?

照恵が父の遺骨探しに奔走するのは、母が捨てたものを全部拾っていくことを決意したからだと言う。
しかし娘の深草からは豊子への見返しなのだと看過されてしまう。
つらい時や困った時にはそれを誤魔化すように笑みを浮かべてしまう照恵は、なかなか正直に自分の気持ちを表現できない。
小さい頃から抑圧されてきたために本当の自分を見失っている照恵にとって、遺骨探しは自分探しの旅でもあったのだ。最後に拾ったのは自分自身ともいえる。
老いた母との美容院での再会シーンは額に受けた傷が伏線となって緊張感が漂う。結局老母から娘に向けた言葉はなく、親子としての会話は交わされなかった。「やっとサヨナラが言えた」と愛を求め続けた自身の執着にピリオドを打てたのは娘の存在があったからで、幼少に経験した親子関係とは真逆の愛の存在が際立った。

二つの時代を戸惑わせることなく行き来する語り口は絶品。
原田美枝子の二役は、照恵を演じているときには豊子を感じず、豊子を演じているときには照恵を感じさせない。
無理なく正反対の両方になれてしまうんだから女優ってスゴイ!