おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

処女の泉

2024-09-12 07:07:20 | 映画
「処女の泉」 1960年 スウェーデン


監督 イングマール・ベルイマン
出演 マックス・フォン・シドー ビルギッタ・ペテルスン
   グンネル・リンドブロム  ビルギッタ・ヴァルベルイ
   アラン・エドワール

ストーリー
中世のスウェーデン、ある豪農の館の台所で、かまどの火を起こしている娘がいた。
召使として雇ってもらったインゲリだ。
彼女は身持ちが悪く、今も父親の分からない子供を腹に宿している。
しかも一家揃ってキリスト教信者だというのに、彼女だけは異教の神オーディンへ帰依していた。
彼女はその日、主人夫妻の実の娘であるカリンに付き添って、キリスト教の教会へゆくことになった。
清らかな生娘であるカリンをインゲリは疎ましく思っていて、森を抜ける道中でもしばしばカリンに対し敵意を示し、やがて途中の小屋でインゲリはなぜか突然恐怖を覚え、そこに留まると言い出した。
彼女を残し、カリンは1人森の中へ進んでいったが、そんな彼女を3人の貧しい羊飼いたちが観察していた。
偶然を装ってカリンに近づいた3人は、食事する場所へ案内すると言って彼女を道から外れた場所に誘導し、彼らはそこで正体をあらわしてカリンに襲いかかった。
しかし彼らのうち、一番若い少年だけは欲情を覚えることもなく、そばでその様子を眺めるだけだった。
途中からカリンを追いかけていたインゲリもその場に出くわしたが、怖さとカリンに対する敵意のため、その光景をただ見つめているだけだった。
乱暴されて立ちあがるカリンの後ろ姿を見た羊飼いの1人が衝動に駆られたかのように、そばにあった棒で彼女の頭を殴りつけた。
虫の息となったカリンから高価な服を剥ぎ取り、その場から逃げ出す羊飼いたち。
夕方になり、偶然羊飼いたちは一夜の宿を求めてカリンの家を訪れた。
夕食を取った後、彼らはカリンから剥ぎ取った服を主人の妻に見せ、買ってくれないかと言い出した。


寸評
僕がこの作品を最初に見たのは学生時代で、大阪のフェスティバルホールの地下にあったSABホールでの名画鑑賞会であった。
僕はキリスト教徒ではないので、内容的に一般的な評価とは少し違った印象を持った。
確かにラストにおいて泉が湧いてくるシーンでは、全ての憎しみは水に流せと言っているように思えるのだが、それならばもっと父親の憎しみあるいは復讐という感情を描いておくべきだったのではないかと思っている。
父親は敬虔なキリスト教徒である。
誰の子か分からない子供を宿しているインゲリを召使として雇っているし、旅人を迎え入れて食事を提供もしてやる善人である。
娘には厳しいが愛していて、娘も父親を慕っているようだ。
人格者でもある父親が娘を殺されたことで理性をなくして復讐の鬼となってしまう。
人間としての弱さであり、人間らしくもある感情だ。
普通の人はそのような感情を持っても復讐で自らが殺人者となることはない。
仇討が許される時代であれば、やはり相手を殺して娘の無念を晴らすのではないかと思う。
自分の娘が同じような目にあったら、僕とてとても冷静でいられないことは想像に難くないし、それが父親としての普通の感情であろう。
父親は復讐を決意し、切り落とした木の枝で体を清めるのだが、その行為で憎しみの感情を高めているようには思えなかった。
理性を失い人を殺すという行為に至ってしまう人間の心の狭さだと思うのだが、描かれた父親は冷静な判断をしているように見える。
宗教的に見るならば、父親の姿はむしろ神に許しを請っているように思えた。

カリンは不幸な出来事に出会うが、そもそも僕はカリンに快い気持ちを持てていなかったので、彼女に対しての同情的な気持ちは少なかった。
冒頭で描かれたカリンは裕福な家庭にありがちな我儘な娘と言う印象で、好感が持てる乙女ではない。
母親は娘に甘く、娘の要求は何でも聞いてやっている。
厳しい父親となっているが、彼も娘には甘そうである。
カリンはそんな両親に甘えている所があり、インゲリが彼女を快く思わないのも当然なのかもしれない。
しかし事件が起こったあとで、インゲリはカリンを快く思っていなかったことを懺悔し、その気持ちからカリンを救えなかったことを父親に懺悔する。
母親は娘を独占したい気持ちから、娘がなついている夫に対して嫉妬していたことを懺悔している。
カリンを死なせてしまったのは自分たちのゆがんだ気持ちなのだと懺悔しているのだが、それは妬みと言う人間の持つ感情への戒めだったのだろう。
父親は自らの行為を恥じ、娘が亡くなった場所に立派な教会をたてることを神に誓う。
富める者は教会に寄付をしなさいと言っているように思えたのは、キリスト教徒ではない僕のゆがんだ感情の為だったのだろう。
北欧という土地柄ではないかと思うのだが、僕はベルイマンの映画は暗いと言う印象を持っている。


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