おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

羊の木

2021-09-29 06:47:22 | 映画
「羊の木」 2017年 日本


監督 吉田大八
出演 錦戸亮 木村文乃 北村一輝
   優香 市川実日子 水澤紳吾
   田中泯 松田龍平 中村有志
   安藤玉恵 細田善彦 北見敏之

ストーリー
過疎化が進む港町・魚深市の市役所に勤める月末(錦戸亮)は、上司から新たな移住者6人の受け入れ手配を任される。
しかし彼等は言動に落ち着きがなく尋常ではない様子で、彼らの周囲には不審な同行者がいた。
転入者は杉山(北村一輝)、太田理江子(優香)、栗本清美(市川実日子)、福元(水澤紳吾)、大野(田中泯)、宮腰(松田龍平)という性別も年齢もバラバラな6人だった。
彼らの転入は、犯罪者の更生と過疎化対策の一環として、この町に10年間住み続けることを条件に刑期を大幅に短縮して釈放させる政府の極秘プロジェクトによるものだった。
もちろん、そんな新住民の過去は一般市民には一切知らされることはなかった。
しかし、6人を取り巻く人たちは彼等に殺人歴があることを知ることになる。
犯した罪に囚われながら、それぞれ居場所に馴染もうとする6人。
そんなある日、港で死亡事故が発生。
月末の同級生・文(木村文乃)を巻き込んで、町の人々と6人の心が交錯していく。


寸評
受刑者を受け入れることで刑務所の経費を削減しながら、同時に過疎化問題も解決してしまおうという突飛な着想に驚かされ、受け入れ窓口となる市役所内のやり取りが滑稽で、きわもの的な作品の割にはスンナリと入り込むことが出来る。
「いい町ですよ。人はいいし、魚も美味いし」と受刑者に通り一辺倒の挨拶をする月末が狂言回しとして話を紡いでいくので、6人も登場する割には頭が混んがることなく見ることが出来る。
誰かを割愛することが出来ないので、6人のエピソードを描く必要が有り、ちょっと人数が多いかなとも思ったが、それなりに要領よくまとめられていた。
就職口の店主が元受刑者だったり、殺人犯と知っても受け入れてくれる店主がいたり、過剰な色気を持った女が老人と結婚しようとしたりと、趣を変えた話をうまく散りばめている。

それぞれの個性はやがて衝突し連鎖していくが、中心は松田龍平の宮腰と北村一輝の杉山だ。
北村一輝の杉山には嫌悪感を抱き、松田龍平の宮腰には肩入れをしたくなるのだが、ところがどうしてどうして、宮腰という人物は並大抵の人間ではない。
こういう精神的アンバランスを有している若者(とは限らないけど)は現実社会に存在しているような気がする。
宮腰という若者の存在を際立たせるために、異質な人間との共生という寛容さを福元、大野、太田理江子を通じて描ていたと思う。
同時に異質な人間、あるいはよそ者を排除しようとする不寛容さも同時に存在している。
町の一体感を表すものとして祭りが存在しているが、祭りを襲う雨は異質な人間を洗い流してしまう前触れだったのかもしれない。
平和を中心に置き、周囲に波乱を据える構図は吉田大八監督のパターンだろう。
その波乱の中に人間の本性のようなものを描き出していて見ごたえのある作品だ。