おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ハリーとトント

2021-09-11 08:37:26 | 映画
「ハリーとトント」 1974年 アメリカ


監督 ポール・マザースキー
出演 アート・カーニー
   エレン・バースティン
   チーフ・ダン・ジョージ
   ラリー・ハグマン
   ジェラルディン・フィッツジェラルド
   メラニー・メイロン

ストーリー
72歳のハリーは、愛猫のトントとニューヨークのマンハッタンに住んでいたが、区画整理のためにアパートから強制的に立ち退きを迫られた。
仕方なくハリーはトントを連れて長男のバートの家に行ったが、バートの妻に気兼ねしなければならず、シカゴにいる娘のシャーリーを頼って旅に出る決心をした。
バートは飛行機で行くことをすすめたが、トントと一緒では飛行機に乗せてもらえず、バスで行くことになった。
しかしそのバスもトントのために途中で降りなければならなくなり、中古車を買って目的地に向かうことにした。
途中、コンミューンへいくという娘ジンジャーに会い、彼女の勧めで初恋の相手のジェシーに会いにいった。
年をとったジェシーは頭がすこしいかれていてハリーを想い出せなかったが昔ダンサーだったことは覚えていて、ハリーと一緒に踊ったりした。
ようやく、本屋を経営するシャーリーの家に辿りつくと、シャーリーはハリーにシカゴで一緒に暮らそうと言ったが、ハリーはそれを断わり翌朝ジンジャーと出発した。
一行がアリゾナにつくと、ジンジャーはハリーに一緒にコンミューンへ行こうと誘ってみたが、ハリーは当分の間一人でいたいと断わった。
ハリーとトントの旅が再び始まり、さまざまな人間に会った。
ハリーが次に訪れたのはロサンゼルスだった。
ここには次男のエディが住んでいた。
翌日、ハリーはトントが病気にかかっているのに気づき、病院へ連れて行き手当をしてもらったが、その甲斐もなくトントは死んだ。


寸評
ハリーは強制立ち退きでアパートを追い出され長男の所へ行くが、家は手狭で口を利かなくなっている長男の息子と相部屋で過ごす。
長男の妻はあからさまな嫌悪感を示すわけではないが、日数が経てばハリーの存在は重荷となってくる。
親が子供の家に後から同居の形で入り込むと起きがちな問題である。
長男は精一杯の気持ちを表すが、妻の手前どうすることもできないのは洋の東西を問わない。
ちょっとしんみりさせる長男の描き方だ。

次にシカゴで本屋を経営している娘を訪ねるが、彼女は4度の離婚を経験していて今は一人で暮らしている。
娘はここで一緒に暮らそうと言ってくれたが、ハリーは旅立っていく。
ハリーの年齢を考えると、ここで暮らすのが一番良かったと思うが、ハリーは娘の幸せを考えると自分が負担にならないほうが良いと考えたのかもしれない。
介護老人をかかえれば娘はそれに拘束されてしまうことは目に見えていることで、ハリーはそのことを思いやったのではないかと思う。

次に次男を訪ねると、見栄を張って強がりを言って見せるが、定職を持たない次男は金欠状態である。
金を貸してほしいとせがまれれば、ある程度まとまった金を援助してやるしかない。
親は子供を見捨てることなどできないのだ。
幸いにも僕は一人娘で、その娘も生活に苦労することはなさそうで、むしろ今の私はそろそろ子どものいう通りにしたほうが良い年齢になって来たし、またそうすることが出来る状況下にいる事に感謝している。

ハリーはニューヨークからシカゴ、さらにラスベガスを経由してロサンゼルスに向かっているからかなりの距離だ。
その間に出会う人々との交流を描いているが、その交流から何かを訴えるというものではなく、ハリーという面白いキャラクターの老人を浮かび上がらせるための存在に思える。
後にも先にもハリーという老人のキャラクターに尽きる作品で、アート・カーニーの役者ぶりに支えられている。
アカデミー賞の主演男優賞に輝いているが、納得の存在感である。
僕は人生でたった一度ヒッチハイクをしたことがあるが、なかなか車が捕まらず苦労した。
ハリーは45分ほど立っていたとも言っているが、うまい具合に車に同乗させてもらっている。
アメリカではヒッチハイクはポピュラーな行為で、同乗させる人が案外と多いのだろうか。
羨ましい社会だ。

若い頃に見た時はほのぼのとしたものを感じた作品だが、歳を取って再見すると老後の生活を意識して自己完結できるだけの準備はしておかなくてはいけないなと、わびしさと淋しさを感じさせる作品に変わっていた。
ハリーはトントによく似た猫と出会うが、場所は違えど再び元と同じ生活を送ることになるのだろう。
猫にエサをあげる一人暮らしのお婆さんが登場してくるが、彼女と同居することになったかもしれない。
僕がロサンゼルスを旅行した時、サンタモニカの海岸を訪れたが、そこでガイドさんから「ここは老人が一杯の老人天国です」と案内されたことを思い出した。