おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ヒート

2021-09-22 07:17:03 | 映画
2020/2/1 「ピアノレッスン」に続く「ひ」の項目です。
前回の紹介作品はバックナンバーからご覧ください。

「ヒート」 1995年 アメリカ


監督 マイケル・マン
出演 アル・パチーノ
   ロバート・デ・ニーロ
   ヴァル・キルマー
   ジョン・ヴォイト
   トム・サイズモア
   ダイアン・ヴェノーラ

ストーリー
LA。大胆で緻密な手口で大きなヤマばかりを狙う冷徹なプロの犯罪者、ニール・マッコーリーとその仲間たちは、ハイウェイで多額の有価証券を積んだ装甲輸送車を襲ったが、新顔のウェイングローが警備員の一人を射殺してしまう。
急報を受けた市警強盗・殺人課の切れ者警部、ヴィンセント・ハナが陣頭指揮に当たるが、過去2度の離婚歴を持つ彼は、妻ジャスティンや連れ子ローレンとの現在の家庭でしっくりいっていない。
ニールは長年の犯罪ブレーンであるネイトから、債券は元の持ち主に買い戻させた方が徳だと説明され、その考えに従った。
ニールたちは勝手な行動をするウェイングローを人けのない駐車場で始末しようとするが逃げられた。
報酬を得て、それぞれの家庭に戻る犯罪者たち。
金庫破りと爆破のプロ、クリスには愛妻シャリーンがいるが、夫の裏稼業を知る彼女には見えない不安と不満が鬱積している。
生粋の犯罪者チェリトは幼い娘たちのよき父親。
一人、帰るべき安らぎの場所を持たないニールだったが、ある夜、グラフィック・デザイナーのイーディと出会い、この無垢な娘との新しい世界が広がっていく。
ニールはセザールという犯罪同業者から千二百万ドルの上がりが見込める銀行強盗の襲撃計画を買うことにするが、そのための資金にと考えた債券の元の持ち主である悪徳金融業者ヴァン・ザントとの債券取引交渉が、相手の奸計によって失敗する。
一方、執拗な追跡調査を進めるヴィンセントはチェリトとクリスの顔の割り出しに成功し、二人の家や車に盗聴器が仕掛けられた・・・。


寸評
昨今の犯罪映画に見られるアップ・テンポで犯人の追跡劇を見せるサスペンスとは一線を画している。
登場人物たちの私生活を丁寧に描いて、彼らの心情をじっくりと見せる。
ボス的存在のニール(ロバート・デ・ニーロ)は仲間に対して高圧的な態度は取らない。
しかし追い詰められて逃げる際には一切のしがらみを断ち切るために裕福だが孤独な生活を送っている。
金庫破りと爆破のプロ、クリス(ヴァル・キルマー)には愛妻のシャリーン(アシュレイ・ジャッド)がいるが、稼いだ金を博打につぎ込んでしまい争いが起きている。
シャリーンは子供との平穏な生活を希望しているが、夫の裏稼業のためになかなかそうは出来ないでいる。
ニールが彼らの関係修復に骨を折る姿などが、普通のサスペンス・アクション映画とは違う点だ。
チェリト(トム・サイズモア)は幼い娘たちのよき父親なのだが、ニールとヤマを踏むことが好きな男だ。
妻が資産運用していて仲間の中では堅実な家庭にいるが、ニールに「今度こそはどうするか自分で決めるんだ」と言われると、結局ニールと共に犯罪計画に参加してしまう犯罪好きだ。
ニールは孤独な男だが、そこにまた孤独を感じさせる女性イーディ(エイミー・ブレネマン)を登場させて、ニールの生き方に微妙な変化を与える役目を負わせている。
一方、追う側のロス市警の切れ者警部、ヴィンセント・ハナ(アル・パチーノ)の私生活も順調ではない。
彼は犯人逮捕を生きがいとしており、現在の妻であるジャスティン(ダイアン・ヴェノーラ)に神経が行っていない。
残酷な殺人現場の状況を家庭に持ち込めないストレスも抱えているし、オマケに連れ子のローレン(ナタリー・ポートマン)との生活もうまくいってそうにない、いわゆる家庭を顧みることが出来ない男なのだろう。
立場は違えど、彼もニールと同類の人種なのだ。
この他の登場者も丁寧に描いている。
出所してきた保護観察身分の男が、搾取されながらも下等な仕事ばかりさせられていて、それを励まます女性がいながらニール達に合流するしかない男の悲哀とか、この種の映画ではオーソドックスな描き方ではあるが、理性に欠けて組織の足を引っ張るウェイングロー(ケヴィン・ゲイジ)の馬鹿さ加減などだ。
サスペンス・アクション映画だが女性陣もお飾りではない。
警部ヴィンセントの妻であるジャスティンは、夫への不満から浮気をするが、なんとか元に戻れないものかと思っているし、連れ子のローレンは実の父親を待ちわびながらも、ある事件では母親よりも義父であるヴィンセントを選んだりする不安定な精神下にある。
ニールと知り合ったイーディは彼の真の姿を知って戸惑うが、結局彼と行動を共にする決断をしている。
しかし30秒でしがらみを捨て去ることを心情としていたニールとの別れに見せる表情がいい。
クリスの妻のシャリーンは子供との安住した生活を選びそうなのだが、最終局面で彼を救おうとする。
イーディ、シャリーンの表情対比はその時の女性心理を上手く表現していたと思う。
この作品は、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの共演が売りの作品だと思うが、その割には最後まで二人が同時に画面に映ることはない。
二人が対峙するシーンでもロバート・デ・ニーロが顔を見せるときはアル・パチーノの顔は映らず後ろ姿だったりするし、逆にアル・パチーノがアップになると、それはロバート・デ・ニーロの肩ごしだったりしているのだ。
これは意図されたものなのだろうか?
それとも、二人のスケジュールが合わず代役を立てた撮影という下世話な理由によるものなのだろうか?