おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

グエムル -漢江の怪物-

2019-04-26 06:28:38 | 映画
「グエムル -漢江の怪物-」 2006年 韓国


監督 ポン・ジュノ
出演 ソン・ガンホ ピョン・ヒボン パク・ヘイル
   ペ・ドゥナ コ・アソン イ・ジェウン
   イ・ドンホ ユン・ジェムン キム・レハ
   パク・ノシク イム・ピルソン

ストーリー
パク・カンドゥたちパク一家は、漢江の河川敷で行楽客相手の売店を営んでいた。
そこに突如、河底から巨大な怪物“グエムル”が現れ、河川敷に集う行楽客を襲った。
次々に怪物の餌食にされていく人々の中に、カンドゥの娘・ヒョンソもいた。
犠牲者の合同葬儀で数年ぶりに会するカンドゥとその妹・ナムジュ、弟・ナミル、老父・ヒボンのパク一家。
パク一家はグエムルを宿主としたウイルスに感染している可能性があるとされ病院に収容された。
やがてヒョンソがまだ生きていることがわかり、パク一家は病院から脱走し独自にヒョンソ捜索を始めた。
一家は下水道でグエムルに遭遇し銃で追いつめるが、逆襲されてヒボンが殺されてしまう。
怪物騒ぎの解決に乗り出す在韓米軍は、漢江の周辺数十キロ内のウイルスを駆除すべく化学物質“エージェント・イエロー”を散布する計画を進行させる。
再び警察病院に隔離されてしまったカンドゥは、ウイルス騒ぎがグエムル回収に米軍が介入する為の捏造である事を知った為に、ウイルスの被験者に仕立て上げられてしまっていた。
カンドゥは再び病院から逃亡し、グエムルと応戦する準備をしていたナミルたちと合流し、ヒョンソ救出に向かう・・・。


寸評
導入部はスピーディで、全体としてはコミカルな要素を盛り込みながらテンポよく進んでいく。
ホルマリンの影響を受けて怪物が誕生するのだが、この展開はどうしても水爆実験で誕生した「ゴジラ」を連想してしまう。
環境汚染によってこの怪物は誕生したが、そのことに対するメッセージ性は低く、緊迫感も「ゴジラ」の方が高かったと思う(もっとも、それは僕がゴジラファンの為かも知れないが)。
「怪物にやられたら、そいつを叩き潰して敵を討つ」という、爺さんのもらす言い伝えの盛り上がりには少し欠けたきらいはある。
結局、どちらのテーマも中途半端で最後の方をもう少し丁寧に描いていたら大傑作になっていたかもしれない。

この怪物は全く人間が手におえない無敵の怪物としては描かれていない。
結構、一家の反撃を受けて逃げ出したりするのだ。
そして、「ゴジラ」や「ジョーズ」を初めとして、いわゆる怪獣映画が被害を出しながらもなかなかその姿を見せなかったのに比べ「グエムル」はいきなりその姿を現す。
その意味でも、怪物に興味を引き付けることを意図した単なる怪物映画ではないことは確かだ。むしろ家族愛のようなものが全面に出ていたと思う。

娘を救うために駆け付ける父親とその兄弟たち。大学は出ているがダメ男のナミルが作った火炎瓶を、ナムジュがアーチェーリーで放つ場面は感動的で、冒頭の競技での失敗が伏線となっていた。
家族の強い絆というテーマは韓国映画特有のものなのかも知れない。

まさかとは思うが、最近の米国離れを反映した反米映画を狙っていたと思えるフシもあった。
汚染を承知でホルムアルデヒドという毒物を漢江に流す在韓米軍のいい加減さを描いていたり、怪獣の処理につけこんで米軍が軍事介入してきたりするのだ。
あるいは韓国のワイロ社会の一面を見せたりして、安っぽいドタバタ劇の形を取りながら、その中に微妙なメッセージを盛り込んでいるのを僕は評価する。
ソン・ガンホの主演作としては「殺人の追憶」や「大統領の理髪師」などを見ているが、この役者さんは実に面白い。
イケ面の韓流俳優とは一線を画すユニークな俳優さんで存在感がある。
捕われる娘役コ・アソンの恐怖演技も絶妙。

それにしても、あらゆるジャンルに秀作を投入してくる韓国作品の全体としてのパワーには恐れ入る。
かつて戦後の日本映画が黒澤、溝口、小津、成瀬、衣笠などを擁して秀作を連発していた時代の熱気と同様のものを感じるのだ。
統制が解除された映画人たちが、溜めこんでいた情熱を一気に吐き出しているような気がする。