おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

傷だらけの栄光

2019-04-09 09:04:35 | 映画
「傷だらけの栄光」 1956年 アメリカ


監督 ロバート・ワイズ
出演 ポール・ニューマン ピア・アンジェリ
   サル・ミネオ アイリーン・ヘッカート
   ジャドソン・プラット ハロルド・J・ストーン
   エヴェレット・スローン ロバート・ロジア
   スティーヴ・マックィーン パティ・デューク

ストーリー
ニューヨークのイースト・サイド、その貧民街に育ったロッキー(ポール・ニューマン)は、遊ぶ金に困ると靴磨きのロモロ(サル・ミネオ)らを誘って盗みを働く少年だった。
或る日、土地の不良団と喧嘩して感化院に送られた。
やがてそのまま陸軍に引っぱられたが第1日目に脱走した。
彼はスティルマン体育館に行き、ボクサーとして出発しようとした矢先、軍にみつけられて刑務所に送られた。
しかしそこでボクシングを習って彼は自分の進むべき道を知った。
出所した彼は再び体育館を訪れた。
或る日妹の友達ノーマ(ピア・アンジェリ)と知り合い2人は結婚した。
娘も生まれて彼の未来は開けてきたようにみえた。
トニー・ゼイルとミドルウェイト級の世界選手権を争うことになった時、刑務所時代に知り合った男が八百長を頼んできたのを断った事から、ニューヨークの試合をボイコットされ、加えて新聞に彼の前歴を悪しざまに書かれる不運に見舞われたが、妻はそうした失意の彼を暖かく慰めた。
やがてロッキーの努力は酬われ、1947年あらためてトニー・ゼイルに挑戦、ついにチャンピオンとなった。


寸評
ボクシング映画の原点と言ってもいい作品だ。
アメリカの元・ボクシング世界ミドル級チャンピオン、ロッキー・グラジアノの生涯を描いた伝記映画だが、オリジナル・ストーリーを感じさせる描き方は見る者を引き付ける。
ハッピー・エンドの成功物語だが、そこに至るまでの描写と気の利いたセリフがたまらない。
前半では不良仲間と喧嘩や窃盗を繰り返す日々が描かれるが、何度も描かれる悪事なのにくどいと感じない。
おそらく描き方にテンポがあったからだろうし、服役中の出来事を要領よく描き、年数の経過も会話の中で示して中抜きされたような気がせず、軍隊時代も同様で、むだなシーンを排除した演出には好感が持てる。
勝手な想像だが、梶原一騎とちばてつやの名作劇画「あしたのジョー」も、シルベスタ・スタローンの出世作「ロッキー」も影響を受けていたのではないかと思う。

確執のあった父親が年老いて力が弱り、ロッキーの相手ではなくなっている。
「俺はついてた。親父は運が悪かっただけだ。親父に何をしてやれる?教えてくれ」と言うと、父親は「チャンピオンになってくれ。オレの夢だったんだ」と答え、ロッキーが決戦の場へ向かっていくストーリーはありきたりだが、その前と後のセリフが泣かせる。
ロッキーは昔なじみのベニーの店に行き、昔の仲間の末路を聞かされるが、誰もがろくな行く末を辿っていない。
そこで店主のベニーはロッキーの制止も聞かず言い聞かせる。
「うちの店も外も同じだ。飲んだら払わないといけない。悪事にも、代償を支払う必要がある。単純なことだが分からんヤツもいる。支払うときになって怒り出すんだ。“何でオレが?”って。ソーダを飲んだからだ。払う覚悟もなくソーダを頼むなっていうんだ」。
更生したロッキーは被害者意識を持っているが、仕出かした悪事の実績は消えない。
その代償としての中傷には耐えていかねばならないし、悪事の誘いは断固として拒絶しなければならない。
それを支える母親と妻のノーマの献身ぶりが胸を打つ。
母親はいつまでも子供のことが心配だし、妻は強くなり必死で夫を励まし続ける。
弱くなりかけたノーマに母親が「私と同じ過ちを犯さないで」と励ますシーンにも胸打たれる。
チャンピオンになったロッキーがパレードで喝さいを受けながら妻のノーマに言う。
「今のうちに喜べ。いずれ負けるんだから。右のパンチもそのうち弱くなる。でも王者になった事実は誰にも奪えない。おれはツイてた。神様に好かれてる」。
仕出かした悪事の事実も消えないが、王者になった事実も消えないということとの対比が見て取れる。
アメリカは寛容の国で、反省した人への再評価を当然としている国なのだと感じさせる。

不良仲間の一員としてスティーブ・マックィーンが一瞬登場しているが、彼にとってこれが映画デビュー作というのも何かの縁か。
アクターズ・スタジオ時代からライバルであり、友人だったジェームズ・ディーンが亡くなって、転がり込んだ役を演じることになったポール・ニューマンの実質デビュー作でもあり、ノーマを演じたピア・アンジェリはジェームズ・ディーンの元恋人だったという因縁映画でもある。
不思議な縁を感じる作品だ。