おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

Kids Return キッズ・リターン

2019-04-10 06:53:41 | 映画
「Kids Return キッズ・リターン」 1996年 日本


監督 北野武
出演 金子賢 安藤政信 森本レオ 山谷初男
   柏谷享助 大家由祐子 寺島進 モロ師岡
   北京ゲンジ 下條正巳 丘みつ子 石橋凌

ストーリー
懐かしい顔をシンジ(安藤政信)は見つけた。
高校時代の同級性マサル(金子賢)で、いつも、何するのも一緒だった。
腕っ節の強いマサルが兄貴分で、シンジはその尻について歩いていた。
ふたりは二流進学校の落ちこぼれだ。
それなりに自覚はあるが、担任(森本レオ)やほかの教師からお荷物扱いされれば気分はムカつく。
だからマサルとシンジは自由気ままに振る舞った。
なじみの喫茶店でまず一服し、看板娘のサチコ(大家由祐子)に色目をつかうヒロシ(柏谷享助)にちゃちゃを入れ、気分が乗れば学校へ向かう。
といってもふたりは、弱い者いじめの番長グループにお仕置したりして、どこか普通のツッパリじゃない。
冬、大学入試が近づき、授業もテクニック重視の実戦型に変わって、ハジかれる一方のマサルとシンジ。
いつものようにカツアゲでメシ代を稼ぎ、いい気分で入ったラーメン屋で、ふたりは先客のヤクザ(寺島進)に絡まれた。
あわや喧嘩のところを貫祿でさばいた若頭(石橋凌)に、マサルは尊敬の眼差しを浮かべる。
ある夜、以前カツアゲした高校生から呼び出しがかかり、ふたりで指定の場所へ着くとスリムで小柄な若い男(石井光)が現れ、次の瞬間マサルは左ストレートを食らって舗道に延びていて、呆然と立ち尽くすシンジ・・・。
卒業式の日、自転車置き場でシンジはマサルから声をかけられた。
自転車で伴走したシンジは、マサルに言われるままボクシングジムに入門した。
数ヶ月後、シンジは前座戦でデビューを飾り、やがて挑戦者の資格を得た。
会長(山谷初男)が、軽快なフットワークでジャブを繰り出すシンジを食い入るように見つめていた・・・。


寸評
マサルとシンジは落ちこぼれの高校生で、彼等のやらかすバカぶりが何とも滑稽だ。
ベテラン教師がマサルとシンジによって自身に模した手作りの人形で窓の外から授業を妨害されるシーンは包括絶倒で、よくもまああんな小道具を思いついたものだと感心してしまう。
高校時代は落ちこぼれだった僕も結構バカをやったと思うが彼等のようなバカは出来なかった。
特にカツアゲなどは犯罪行為で、それを行う生徒は僕の学校にはいなかった。
彼等は金がなくなるとカツアゲをやっているのだが、おかしなことに他の不良グループに目をつけられている同級生をかばってやったりしている。
兎に角、マサルとシンジというキャラクターが生き生きしていて、主演の二人が脇役人に囲まれて輝いている。

上には上がいるもので、それは暴力の世界でも同様だ。
マサルは同級生の中では一番強い番長だが、プロのボクサーである男には一発でノックアウトされてしまう。
面目を失くしたマサルが学校に来なくなってしまうが、一番を自負していた者が一番の友達の前で無残な姿をさらしてしまったことへの居たたまれなさを表していたのだと思う。
マサルはヤクザになり、先輩を追い抜いてのし上がっていき羽振りを利かすが、若頭らしい寺島進には散々に痛めつけられる。
その寺島進も頭が上がらないのが組長である石橋凌なのだが、その組長もあっけなく射殺されてしまう。
シンジはボクサーとして成長していくが、ハヤシの悪い誘いもあって大事な試合で滅多打ちされてしまう。
そのどれもこれもが、上には上がいるんだよと言っているようだ。

マサルとシンジは落ちこぼれの不良に違いないが、それでも彼らなりの世界で挫折を知らない高校生活を送ってきているところで、二人とも初めてともいえる挫折を味わう。
マサルは前述のリンチを受けてヤクザの世界を追い出されたことであり、シンジはボクシングの試合でみじめな敗戦を経験したことである。
それはあたかも青春には挫折がつきものなのだと言っているようでもある。
若さが裏目に出て苦い挫折をした二人は、通っていた高校の校庭でかつてのように自転車の二人乗りをする。
それを見た日本史の先生は「まだバカをやってる」とつぶやいたところで、シンジはマサルに「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかな?」と問いかける。
マサルは「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」と答えるのだが、この言葉にはいろんな見方があるもののやはり彼等の未来に期待を寄せているのだろう。
挫折を経験したけれど、「これぐらいで終わりはしないぞ、まだまだこれから大暴れするんだ」との決意表明だったと思うし、シンジに対する激励の言葉だったと思う。

北野武はいろんなジャンルの作品を撮った監督だが、この作品で見せたシンプルなストーリーに支えられた若々しい表現は並み大抵なものではない。
北野映画への好き嫌いはあっても彼の才能を感じずにはいられない作品である。