時代が変われば犯罪の形も裁きの形も変わるものなのだなあ。そんな感慨を覚えた。次の記事を読んだときである。
「盗撮目的で住居侵入した疑いのある男の体内から、マイクロSDカードを内視鏡で強制的に採取する――。警察による異例の捜査の是非が争われた刑事裁判があり、一、二審がいずれも強制採取を違法と判断、カード内のデータの証拠能力を否定して一部無罪としていた。弁護側も検察側も上告せず、判決は確定した。」
(朝日新聞DIGITAL 3月27日配信)
盗撮目的で住居侵入した疑いがある男。男は現行犯逮捕されたが、所持していたビデオカメラにマイクロSDカードは入っていなかった。所轄の千葉県警は、男がカードを飲み込んだとみてCT検査を実施。体内にマイクロSDカードのような異物があることが判明した。たびたび下剤を服用させたものの、排泄物からカードは見つからなかった。
う〜む。困り果てた県警は、医師の助言に従い、内視鏡を使って男の体内からカードを取り出すことを試みた。この強制採取の試みは数十分ほどで難なく成功し、取り出したカードを調べると、そこには案の定、女性が入浴している様子が記録されていた。
やれやれ。これで一件落着か、と思ったものの、そうは問屋が卸さなかった。この異例な捜査の手法が問題になり、その適法性が裁判で争われることになったのである。
その後の成り行きは、記事が示す通りである。裁判は一、二審とも強制採取を違法と判断し、カード内のデータの証拠能力を否定して、一部無罪の判決を下した。
ええっ?ーーこの種の問題に関心がある人は、首を傾(かし)げるに違いない。覚醒剤取締法違反事件の場合は、たしか最高裁が「カテーテルによる強制採取」を適法と認めたのではなかったのか?
なるほど、今回の裁判の場合も、そのことが考慮されなかったわけではない。その上で判決(一審)は、内視鏡による強制採取は(腸管などを損傷すれば重大な危険が生じ得るから)尿道にカテーテルを挿入する強制採尿に比べて、はるかにリスクが大きいとしたのである。
ということは、アレだろうか。今後、医療技術が進歩し、危険をほとんど伴わない内視鏡の操作技法が担保されるようになれば、今回のような強制採取のケースも適法なものと認められるようになるということだろうか。
たしかに、論理的にはそういうことになるのかもしれない。県警の皆さん、だからめげずに、その日が来るのを待つことにしましょう!・・・と言いたいところだが、さにあらず。時が移れば技術も進歩する。進歩するのは医療技術だけではない。盗撮画像の保存技術も同様に進歩する。
ビデオカメラで盗撮した画像は、今はマイクロSDカードに保存される仕組みになっているが、今後は自動的に、クラウド内のデータ領域に保存されることになるだろう。今でもすでに、大量の画像データをクラウド保存している人は少なくない。
クラウド内に保存されたデータは、当然、パスワードを入力しなければ引き出すことはできない。盗撮犯が盗撮画像をもしクラウドに保存したとしたら、警察はどうやってこの画像を取り出すのか。必要とされるのは、パスワードである。パスワードはSDカードとは違い、内視鏡で腸内から強制採取というわけにはいかない。
え?その頃には、脳内からパスワードを強制採取するブレーン技術もきっと開発されているだろう、だって?・・・う〜む。