きのう3月10日、ロシアとウクライナの外相同士の会談が行われた。本ブログできのう書いたように、ウクライナ側は和平のための新たな構想を明らかにした。「NATOへの加盟を当面棚上げし、ロシアを含む周辺国と新たな安全保障の取り決めを結ぶ」という文案である。きのうの外相会談では、ウクライナ側はこの構想を打開案として交渉のテーブルにのせたに違いない。
対するロシアはウクライナの「中立化」と「非軍事化」を迫ったとされるが、「NATOへの加盟を当面棚上げする」というウクライナ側の提案によって、前者、「ウクライナの中立化」というロシア側の要求は満たされたと言ってよい。
問題は、「ウクライナの非軍事化」というもう一つの要求である。ウクライナがNATOへの加盟を取りやめ、加えて非軍事化する、つまり武装解除することになれば、ウクライナは丸腰の状態で、(各国の要求がせめぎ合い、紛争が絶えない)国際政治の表舞台に立たざるを得なくなる。
これがどれほど非現実的な要求であるかは、日本の戦後処理を思い起こしてみれば明らかだろう。日本は「戦争の放棄」と「戦力の不保持」を掲げる日本国憲法(第9条)により、丸腰のまま新生日本丸として国際社会の荒海に船出したが、いつまでも丸腰のままで航海を続けたわけではなかった。
その後、日本がアメリカと安全保障条約を締結し、アメリカの「核の傘」の下に入ったことは、だれもが知っている。
一度はNATOの庇護の下に入ることを望んだウクライナである。そのウクライナの指導者が、丸腰のまま国際社会の荒海に漕ぎだそうと考えるほどウブでないことは、言うまでもない。
だからこそウクライナは、「NATOへの加盟」を棚上げするとともに、「ロシアを含む周辺国と新たな安全保障の取り決めを結ぶ」とする構想を打ち出したのである。
ロシアのプーチンは、待ってましたとばかりに、こう言うに違いない。
「心配なら、我々の仲間になれば良い。ロシアの核の傘の下に入れば良い。」
つまり、ウクライナに対するロシアの「非軍事化」の要求には、ウクライナを自陣へ引き入れようとする隠れた意図が働いているのだ。ウクライナがこの要求を額面通りに受けとれないことは、火を見るよりも明らかである。これを飲めない点では、アメリカをはじめとする西欧諸国も同じだろう。
各種報道が伝えるように、ロシアとウクライナの外相会談では、何の進展も見られなかった。交渉の先行きは楽観を許さない。さてこの先、両国の交渉はどうなりますことやら。