事態は快方に向かっている。そんな思いを強くしている。ウクライナ情勢のことだ。快方に向かっているというのは、ハードルが、つまりロシア側の繰り出す攻撃の武器が、徐々にその度合を下げてきているからである。
初めは核兵器だった。プーチンが核兵器の使用をちらつかせたとき、私は驚き、「プーチンは狂人だ」と思ったものだが、そうではなかったようだ。プーチンが実際に行ったのは、砲弾を用いた攻撃であり、これがうまく行かないと見ると、彼は即座に交渉による決着を提示してきた。
プーチンは狂人を装っていたのだ。「狂人理論」なる手法がある。けさの朝日新聞「天声人語」読んで知ったのだが、ベトナム戦争当時の米大統領・ニクソンが用いた手法で、「何をするか分からないと見せかけ、相手を怖がらせて屈服させる」戦法である。
プーチンがウクライナ侵攻の直前、ロシア軍に命じて「戦略抑止力演習(=核ミサイル発射演習)」を行わせたとき、NATO諸国の首脳は「あの気違いプーチンなら、何をしでかすか分からないぞ。核だって使いかねない」と恐れ、ロシアの侵攻に対して、武力を用いた直接の反撃を控えざるを得なかった。ニクソン張りの「狂人理論」はまんまと成功したのである。
プーチンは狂人の振りをしていただけで、ホントは気が狂れていたわけではない。その証拠に、彼が実際に軍に行わせたのは、地味で控え目な戦車による砲弾攻撃だった。砲弾作戦がうまく行かないと見ると、次に繰り出したのは、もっと地味なハードル、交渉・協議による決着だった。
核攻撃から協議へ。ずいぶんハードルを下げたものだが、ウクライナのゼレンスキー大統領からすれば、この低いハードルを乗り越えるべき今が正念場である。ゼレ大統領がロシア側の要求条件を飲んでも、国際世論が彼の決断を非難することはないだろう。
「力で相手をねじ伏せるのは、許されない!」
国際世論はそう叫ぶが、ゼレ大統領の決断を、だれも「力によってねじ伏せられた結果」だとは見なさない。「よくぞ我慢して、試練を乗り越えた」と思うだけのことだ。
「力で相手をねじ伏せるのは、許されない」という国際世論の声に気圧され、たじたじとなって力のハードルを下げたのは、逆にプーチンのほうである。
国際世論は自らの勝利を確信するだろう。
はてさて事態は今後、どうなりますことやら。